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魔術師―リゼット・ルフェ

◆


巨漢(きょかん)の剣士、ダミーは顔を曇らせた。

「あの可愛らしい竜族の女か? 正体は銀竜の? あんたらの騎士の逃げる時間を稼ぐために、ボコボコにされた。敵ながら見てられなかったぜ。女が叩きのめされるのを見るのは好きじゃない。こっちには黒竜が味方だったし、新型の戦車もあったからな」


「まさか……死んだのか?」


「竜は生命力が強いんだろ? 大丈夫だと思うぜ。多分な。

見知らぬ金竜が飛んできて、ずたぼろにされた銀竜を連れて撤退(てったい)して行った」


俺はホッとした。シルバームーンに死なれたのでは夢見が悪くなりそうだ。

しかし、金竜が飛んできた? シルバームーンの故郷の味方だろうか。


「金竜ってのは別格(べっかく)の強さらしいな。こっちに向かって飛んできた時は死を覚悟したぜ。味方の黒竜は何処(どこ)までアテに出来るか分からんしな。だけど、やって来た金竜は黒竜を追い払うと、さっさと銀竜を連れて帰って行った」


シルバームーンは義理(ぎり)堅(がた)い奴だ。

必死になって門を守り、黒竜の盾になって味方を逃がそうとした姿が目に浮かぶ。

早めに撤退してもらっても良かったんだ。シルバームーンの命を犠牲にして、王国の市民を助けたいとは思わなかった。死ぬのなら俺だけで十分だ。


エトレーナがこちらを見て頷(うなず)いた

カミラの治療が終了したらしい。

女騎士は呻(うめ)きながら起き上がる。


「カザセ殿。面目(めんぼく)ない。 ……こいつらは一体? 殺さなかったのですか?」

彼女は俺が銃を突きつけている大男の剣士、ダミーを見た。


「敵は投降(とうこう)したんだ」


「投降だと? ふざけているのか?」 


彼女は魔剣ノートゥングを構え直し、切っ先を剣士に向けた。 

切断の概念を封じ込めたその魔剣は、羽虫が飛んでいる時のようなブーンと言う警告音を発し始める。


「お前も剣士の一員だろう。おめおめと生き恥を。 いや、何かの罠か?」


剣を向けられて、ダミーは困ったような笑顔を浮かべる。


「カミラ、切るのは止めておけ」 俺は視線を少年、少女兵に向ける。 

カミラは俺の視線に気がつくと、不安気な少女と彼女を睨(にら)む少年兵を見た。


「この男は自分の誇りより、彼らの方が大事のようだ」


俺は銃を下ろした。

カミラが居るのだから、俺が苦手な拳銃を構えている必要も無かろう。この銃は2kg近い。腕も疲れた。


「そう言えば、ルフェ。 君には閃光(せんこう)手榴弾(しゅりゅうだん)が効かなかったようだ。 魔法か?」


俺は、不安気な少女の魔術師を安心させようとして声をかける。

やむを得なかったが、さっき銃を向けた罪悪感もあったかも知れない。

彼女は髪を短く刈って少年のように見えるが、中性的で整った綺麗な顔をしている。

大人になれば、相当な美人になるだろう。

黒っぽい軍服を着ていて、魔法の発動体らしき小さな杖(つえ)を持っている。


「はい。カザセ様。私は視覚の魔法を常にかけています。生身の目は見えないのです。

小さい時から魔法が私の目でした。ですから、眩しい光でも大丈夫でした」


「リゼットの両親は酷(ひど)い奴らでな。赤ん坊の時に目を潰されてしまって魔法でも回復が不可能だ」

剣士のダミーが補足する。


「カザセ様。お願いがあります」少女の女魔術師、リゼット・ルフェはそう言って俺の目を見た。


「なんだ?」


「少し側(そば)に寄っていいですか? カザセ様の顔を見たいのです。私の魔法では、顔の表情とか細かいところまで良く分からなくて」


「近くに寄る必要はない。遠くから見た方が俺は二枚目に見える」


「……そうですか。変な事を言って済みませんでした」


何らかの魔法による攻撃を警戒して、近くに寄るのは避けたいと思ったのだが、少女のしょげた顔を見て俺は自分が用心しすぎていると思った。

たとえ子供だろうが、女を悲しませるのは嫌いだ。

自分から、ルフェに近寄る。


「これでいいか?」


少女はまるで俺の心を覗(のぞ)くように、じっと見つめた。

「ありがとうございます。わあ、格好いい!」


流石(さすが)に誉(ほ)めすぎだろう。 しかし次の瞬間、浮ついた気分はトライデント・システムからの警告メッセージでかき消された。真っ赤な文字で視界が埋まる。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……

警告*警告*警告: 思考の読みとりを検知


読みとり対象:風瀬(かざせ) 勇(ゆう)の思考(深部)、及び深層(しんそう)意識(いしき)

――――……――――……――――……――――……――――……――――……


(風瀬さん、離れてください! その子は思考を読もうとしています。 深層意識まで!)

妖精が叫んだ。


(脳波ジャミング開始! 最大強度! 今)


少女の顔が苦痛に歪(ゆが)む。

妖精が最大出力で、思考の読みとりを妨害しているのだ。

俺にもジャミングの、とばっちりが来た。酷(ひど)い頭痛がする。


「心を読もうとするな。俺にもプライバシーはある。それとも投降したいと言うのは嘘か?」


「わ、わ、私が心を読んだのが分かったんですか? どうして? 有り得ない…」


「何故、心を読もうとした?」


「ご、御免なさい! 優しそうな人だなと思って。どういう人なのかと思って。もっと良く知りたくて。 すみません。もうしません!」


剣士が慌てて言う。


「許してやってくれ! この子が今まで生き残ってこれたのは、この能力のせいなんだ。 相手がどういう人間か知ることが、この子らにとってどれほど大切な事か分かるだろう?」


「……二度目は無いぞ。いいな?」


「はい。分かりました。もうしません。でも…でも…少し心が覗(のぞ)けちゃいました。私、カザセさんに会えて良かった。本当にそう思うんです……」


そうだといいんだがな。俺は思った。


「ちぇっ」 銃士の少年が面白く無さそうに舌打ちをした。


◆

俺は尋問(じんもん)を続けた。ボヤボヤしている暇は無い。

早く”ニューワールド”に行って、敵を蹴散(けち)らさないと。 王国の住民は間もなくここに到着する。

それに、小剣にも”ニューワールド”でマナを供給してやらないと危険だ。かなり時間が経(た)っている。


「”ニューワールド”側で待ち受けている、お前たちの戦力はどの程度だ?」


「その情報を聞いたからには、降伏(こうふく)を受け入れてもらうぜ?」

こいつの度胸だけは認めてやろう。ダミーはカミラの黒光りする魔剣を向けられても怖がりもしない。


「内容次第だ。話してみろ」


剣士は肩をすくめた。


「黒竜が一匹。戦車の新型が8両、旧型が20両。”あーるぴーじー”装備の歩兵が50名以上。魔術師が10名」


ニヤニヤしながら、俺を見る。


「どうだ。勝てそうか? 向こうで待っているのは真正ユリオプス王国の第一王子、クルト・シュピーゲル直轄のエリート装甲部隊だ。

商人に相当な金を積んで、新型の戦車を仕入れたようだぜ。自慢の重戦車を、あんたに血祭りに上げられたようだしな」


あいつらは、米国のM103重戦車、”ファイティングモンスター”を操(あやつ)っていた。

あんな旧型は俺の召喚する10式戦車の敵では無い。しかし、新型はどうだろう?


「新しい戦車とは具体的にどんな戦車だ? それとお前たちはどこから兵器を手に入れている?」


「戦車は、”あめりか”という異世界にある国の新型と聞いた。それ以上は知らない。

仕入先(しいれさき)に関して言えば、”ニューワールド”には色々な国が存在する。武器を周(まわ)りに売って生活している国も沢山あるってことだ。その中のどれかだろう。

恐らく大商業連合国あたりから仕入れたんだと思う。まあ、これは俺の想像だ。話半分で聞いてくれ」


「対空装備はあるのか?」


「”たいくう”装備って何だ?」


「お前も外は見たんだろ? 俺の使っていたヘリとか空を飛ぶ機械に、どうやって対抗するつもりだ?」


「それは…知らない。無茶を言わないでくれ。噂では聞いていたが、俺は空を飛ぶ機械をここで初めて見たんだ。ドラゴンに相手をさせるか、銃で撃つのか。そんなとこじゃないのか? 」


装甲車両は持っていても、航空機までは手が回らない。そんなとこか。

俺の世界の小規模な武装勢力と同じだ。


航空機を扱うには、飛行場も整備する必要がある。敵は、俺のように兵器を”召喚”している訳では無いのだ。装甲車両はどこからか買えるようだが、飛行場整備までの余裕は無いだろう。

”ニューワールド”では、航空機自体が少ないのかも知れない。


弱点は利用してやる。俺が”ニューワールド”で呼べる兵器の数は限られている。勝つためには弱点をつくしかない。

それと、似合わないのは自覚しているが俺は誓(ちか)う。


シルバームーンを傷(いた)めつけてくれた礼は必ずする。

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