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魔術師―リゼット・ルフェ


巨漢きょかんの剣士、ダミーは顔を曇らせた。

「あの可愛らしい竜族の女か? 正体は銀竜の? あんたらの騎士の逃げる時間を稼ぐために、ボコボコにされた。敵ながら見てられなかったぜ。女が叩きのめされるのを見るのは好きじゃない。こっちには黒竜が味方だったし、新型の戦車もあったからな」


「まさか……死んだのか?」


「竜は生命力が強いんだろ? 大丈夫だと思うぜ。多分な。

見知らぬ金竜が飛んできて、ずたぼろにされた銀竜を連れて撤退てったいして行った」


俺はホッとした。シルバームーンに死なれたのでは夢見が悪くなりそうだ。

しかし、金竜が飛んできた? シルバームーンの故郷の味方だろうか。


「金竜ってのは別格べっかくの強さらしいな。こっちに向かって飛んできた時は死を覚悟したぜ。味方の黒竜は何処どこまでアテに出来るか分からんしな。だけど、やって来た金竜は黒竜を追い払うと、さっさと銀竜を連れて帰って行った」


シルバームーンは義理ぎりがたい奴だ。

必死になって門を守り、黒竜の盾になって味方を逃がそうとした姿が目に浮かぶ。

早めに撤退してもらっても良かったんだ。シルバームーンの命を犠牲にして、王国の市民を助けたいとは思わなかった。死ぬのなら俺だけで十分だ。


エトレーナがこちらを見てうなずいた

カミラの治療が終了したらしい。

女騎士はうめきながら起き上がる。


「カザセ殿。面目めんぼくない。 ……こいつらは一体? 殺さなかったのですか?」

彼女は俺が銃を突きつけている大男の剣士、ダミーを見た。


「敵は投降とうこうしたんだ」


「投降だと? ふざけているのか?」 


彼女は魔剣ノートゥングを構え直し、切っ先を剣士に向けた。 

切断の概念を封じ込めたその魔剣は、羽虫が飛んでいる時のようなブーンと言う警告音を発し始める。


「お前も剣士の一員だろう。おめおめと生き恥を。 いや、何かの罠か?」


剣を向けられて、ダミーは困ったような笑顔を浮かべる。


「カミラ、切るのは止めておけ」 俺は視線を少年、少女兵に向ける。 

カミラは俺の視線に気がつくと、不安気な少女と彼女をにらむ少年兵を見た。


「この男は自分の誇りより、彼らの方が大事のようだ」


俺は銃を下ろした。

カミラが居るのだから、俺が苦手な拳銃を構えている必要も無かろう。この銃は2kg近い。腕も疲れた。


「そう言えば、ルフェ。 君には閃光せんこう手榴弾しゅりゅうだんが効かなかったようだ。 魔法か?」


俺は、不安気な少女の魔術師を安心させようとして声をかける。

やむを得なかったが、さっき銃を向けた罪悪感もあったかも知れない。

彼女は髪を短く刈って少年のように見えるが、中性的で整った綺麗な顔をしている。

大人になれば、相当な美人になるだろう。

黒っぽい軍服を着ていて、魔法の発動体らしき小さなつえを持っている。


「はい。カザセ様。私は視覚の魔法を常にかけています。生身の目は見えないのです。

小さい時から魔法が私の目でした。ですから、眩しい光でも大丈夫でした」


「リゼットの両親はひどい奴らでな。赤ん坊の時に目を潰されてしまって魔法でも回復が不可能だ」

剣士のダミーが補足する。


「カザセ様。お願いがあります」少女の女魔術師、リゼット・ルフェはそう言って俺の目を見た。


「なんだ?」


「少しそばに寄っていいですか? カザセ様の顔を見たいのです。私の魔法では、顔の表情とか細かいところまで良く分からなくて」


「近くに寄る必要はない。遠くから見た方が俺は二枚目に見える」


「……そうですか。変な事を言って済みませんでした」


何らかの魔法による攻撃を警戒して、近くに寄るのは避けたいと思ったのだが、少女のしょげた顔を見て俺は自分が用心しすぎていると思った。

たとえ子供だろうが、女を悲しませるのは嫌いだ。

自分から、ルフェに近寄る。


「これでいいか?」


少女はまるで俺の心をのぞくように、じっと見つめた。

「ありがとうございます。わあ、格好いい!」


流石さすがめすぎだろう。 しかし次の瞬間、浮ついた気分はトライデント・システムからの警告メッセージでかき消された。真っ赤な文字で視界が埋まる。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……

警告*警告*警告: 思考の読みとりを検知


読みとり対象:風瀬かざせ ゆうの思考(深部)、及び深層しんそう意識いしき

――――……――――……――――……――――……――――……――――……


(風瀬さん、離れてください! その子は思考を読もうとしています。 深層意識まで!)

妖精が叫んだ。


(脳波ジャミング開始! 最大強度! 今)


少女の顔が苦痛にゆがむ。

妖精が最大出力で、思考の読みとりを妨害しているのだ。

俺にもジャミングの、とばっちりが来た。ひどい頭痛がする。


「心を読もうとするな。俺にもプライバシーはある。それとも投降したいと言うのは嘘か?」


「わ、わ、私が心を読んだのが分かったんですか? どうして? 有り得ない…」


「何故、心を読もうとした?」


「ご、御免なさい! 優しそうな人だなと思って。どういう人なのかと思って。もっと良く知りたくて。 すみません。もうしません!」


剣士が慌てて言う。


「許してやってくれ! この子が今まで生き残ってこれたのは、この能力のせいなんだ。 相手がどういう人間か知ることが、この子らにとってどれほど大切な事か分かるだろう?」


「……二度目は無いぞ。いいな?」


「はい。分かりました。もうしません。でも…でも…少し心がのぞけちゃいました。私、カザセさんに会えて良かった。本当にそう思うんです……」


そうだといいんだがな。俺は思った。


「ちぇっ」 銃士の少年が面白く無さそうに舌打ちをした。


俺は尋問じんもんを続けた。ボヤボヤしている暇は無い。

早く”ニューワールド”に行って、敵を蹴散けちらさないと。 王国の住民は間もなくここに到着する。

それに、小剣にも”ニューワールド”でマナを供給してやらないと危険だ。かなり時間がっている。


「”ニューワールド”側で待ち受けている、お前たちの戦力はどの程度だ?」


「その情報を聞いたからには、降伏こうふくを受け入れてもらうぜ?」

こいつの度胸だけは認めてやろう。ダミーはカミラの黒光りする魔剣を向けられても怖がりもしない。


「内容次第だ。話してみろ」


剣士は肩をすくめた。


「黒竜が一匹。戦車の新型が8両、旧型が20両。”あーるぴーじー”装備の歩兵が50名以上。魔術師が10名」


ニヤニヤしながら、俺を見る。


「どうだ。勝てそうか? 向こうで待っているのは真正ユリオプス王国の第一王子、クルト・シュピーゲル直轄のエリート装甲部隊だ。

商人に相当な金を積んで、新型の戦車を仕入れたようだぜ。自慢の重戦車を、あんたに血祭りに上げられたようだしな」


あいつらは、米国のM103重戦車、”ファイティングモンスター”をあやつっていた。

あんな旧型は俺の召喚する10式戦車の敵では無い。しかし、新型はどうだろう?


「新しい戦車とは具体的にどんな戦車だ? それとお前たちはどこから兵器を手に入れている?」


「戦車は、”あめりか”という異世界にある国の新型と聞いた。それ以上は知らない。

仕入先しいれさきに関して言えば、”ニューワールド”には色々な国が存在する。武器をまわりに売って生活している国も沢山あるってことだ。その中のどれかだろう。

恐らく大商業連合国あたりから仕入れたんだと思う。まあ、これは俺の想像だ。話半分で聞いてくれ」


「対空装備はあるのか?」


「”たいくう”装備って何だ?」


「お前も外は見たんだろ? 俺の使っていたヘリとか空を飛ぶ機械に、どうやって対抗するつもりだ?」


「それは…知らない。無茶を言わないでくれ。噂では聞いていたが、俺は空を飛ぶ機械をここで初めて見たんだ。ドラゴンに相手をさせるか、銃で撃つのか。そんなとこじゃないのか? 」


装甲車両は持っていても、航空機までは手が回らない。そんなとこか。

俺の世界の小規模な武装勢力と同じだ。


航空機を扱うには、飛行場も整備する必要がある。敵は、俺のように兵器を”召喚”している訳では無いのだ。装甲車両はどこからか買えるようだが、飛行場整備までの余裕は無いだろう。

”ニューワールド”では、航空機自体が少ないのかも知れない。


弱点は利用してやる。俺が”ニューワールド”で呼べる兵器の数は限られている。勝つためには弱点をつくしかない。

それと、似合わないのは自覚しているが俺はちかう。


シルバームーンをいためつけてくれた礼は必ずする。

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