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情報


敵を建物ごと破壊したA-10 サンダーボルトII 対地攻撃機は俺たちに合図をするように、主翼しゅよくを左右交互(こうご)に振る。 

対空能力を捨て地上部隊の航空支援に特化した、その機体の攻撃力は圧倒的だ。

劣化れっかウラン合金製の弾頭を発射するGAU-8(アヴェンジャー) 30mmガトリング砲は、地上に存在するどんな戦車でも金属製の棺桶かんおけに変える。

戦車がいくら重装甲を誇ろうが、こいつに空から狙われたら装甲の薄い車体上面を穴だらけにされてお陀仏だぶつなのだ。この世界の建物をちりに変えることぐらいは、朝飯前だろう。 


仕事を終えたA-10は、北に向かって飛んで行く。そして間もなくふっと消えた。

送還されて元の場所に戻されたのだろう。召喚主は突然脳内に呼びかけてきて、俺の女の趣味に文句をつけてきた男だ。俺がエトレーナを好きなのが気に食わないのか?


こちらの命を救ってくれたのは確かなので、一応味方だ。しかし、あいつの態度は気に食わない。 


(助けてくれた事は感謝する。しかし礼儀知らずの勘違かんちがい野郎は嫌いだ)


俺はエトレーナに手を貸し立ち上がらせた。彼女は服の乱れをあわてて直し、俺に微笑もうと努力している。攻撃を受けたショックからまだ回復していないようだ。

こんな可愛い女性なら好きになって当たり前だろう。どこがいけない? 余計なお世話だ。 


「命の恩人に、そういう口を聞くのは礼儀知らずじゃないのか?」 正体不明の男は面白そうに答えた。

奴は話を続けた。


「カザセの女好きは、昔から散々聞かされている。女たらしも大概たいがいにしておけ。

それで一言、言ってやりたくなったのさ。ところで敵の目星めぼしはつくか?」


誰が女たらしだ? こっちは、いつも真面目まじめ真摯しんしに、恋愛を追求している。

本命一本狙いで脇目わきめもふらず、いつも華々(はなばな)しく玉砕ぎょくさいだ。

そう言えば、俺のことをなんで知っているんだ? お前みたいなのを知り合いに持った覚えはない。

 

敵の正体に関しては、言われなくても推測すいそくはついている。対物ライフルで狙われたのはこれが最初じゃない。

ニューワールドで最初に受けた攻撃が対物ライフルだった。つまり敵はニューワールドから、こちらの世界に侵入して来た真ユリオプス王国の斥候せっこう…俺はそこまで考えて青くなった。


真ユリオプス王国の兵がここに来たということは、異界の門を使われたと言うことか? あそこはシルバームーンが守っているはずなのだ。 


「気がついたようだな。あんたの竜族の彼女が危険な状況だ。早く行ってやった方がいい」


(オペレーター。もう限界です。これ以上の干渉かんしょうは危険です。

グラム・システムを停止します)


先ほど聞こえた無感情な女の声が聞こえた。男に向かって話しかけているらしい。


「もう時間か。分かった。そろそろ退散しよう。

英雄カザセ。俺の助けはここまでだ。後はなんとかうまくやってくれ」


英雄だと? 皮肉のつもりか、ふざけるな。流石さすがにこいつの言い方は腹にえかねた。


(誰が英雄だ? 人を馬鹿にするのもいい加減にしろ)


「……それは誤解だ。俺はあんたのファンなんだぜ。ガキの頃から好きだった。信じてもらえないかも知れないが、話せて楽しかった。散々(さんざん)、昔から聞かされた女ったらしカザセの英雄譚(えいゆうだん)…本当は…」 突然、男の気配けはいが消えた。


「…通信の遮断しゃだんを確認。あの男は何者でしょうか?」 


妖精は奴の事を知らないようだが、本当だろうか? 彼女のことを疑いたくは無いが、兵器召還を行うあいつはどう見ても同業者だ。もしかするとインフィニット・アーマリー社の人間かも知れない。 


(あの男は、どう見ても同業者だ。

妖精よ、隠し事は無しだ。会社は俺以外にも誰か動かしてるのか?)


「それはありません。信じてください。

…少なくとも私は、そんな事を知らされていません。もし陰で本社が動いているようなら厳重げんじゅう抗議こうぎします。カザセさんは命をかけてミッションを遂行しています! 他のオペレーターが活動しているのなら知る権利があります」


妖精が本気で怒っている。

演技だったら大したものだが、恐らく嘘では無い。彼女は本当に知らないようだ。


「少し時間をください。私にツテがあります。裏を探ります」 この件に関して妖精を信じることにした。


遅ればせながら、警戒用にアパッチ・ロングボウ 戦闘ヘリ10機を上空に召還する。

敵が街の周辺に残っているか確認させる為だ。


「カザセ様、どうもありがとうございました。いつも私は助けられてばかりです」 エトレーナが礼を言う。俺に引き倒されたせいで、顔や服が土で汚れている。

彼女は、俺が呼び出した航空機が敵をやっつけたと思っているらしい。


「さっきの飛行機は、俺じゃない。味方のだ」


「味方?」 キョトンとする女王。 


小首をかしげる姿が可愛いらしい。土まみれでも可愛い者は可愛い。

この世の真理だ。俺の趣味に文句をつける奴は地獄にちろ。

正体不明の味方に関しては適当に誤魔化ごまかすことにした。第一、説明したくても正体を知らないのだ。


「…そのうち詳しく説明するさ。ニューワールドの敵がこちらに侵入している。先を急ごう」


「あ、はい。ここの統治とうちまかしているロプコフ伯爵は信頼出来る男です。住まいはあちらの方向です」 


男は、ニューワールドに置いてきた銀竜のシルバームーンが危険だと言っていた。 

敵と交戦状態なのだろうか? そう簡単にやられるとは信じたくないが。

ぼやっとしている暇は無い。ここの住民を早くなんとかして、シルバームーンの援護えんごに行かねば。

小剣のことも気になる。急いでニューワールドに連れて行かないと命が危ない。   


俺は、カミラ、ジーナと合流し伯爵の屋敷に向かう。



「エトレーナ陛下、お越し頂きありがとうございます。父は具合が悪く、体調が思わしくありません。 僭越せんえつながら娘の私が対応させていただきます」


女は俺とエトレーナに礼をした。


「カザセ様にお会いできて光栄です。お噂はかねがねお聞きしております。

私はこの街を陛下より預かっているマトヴェイ・ロプコフの長女で、レイラと申します。どうぞよろしくお願い致します」


見るからに有能そうな女だ。茶色のショートヘアで上等そうな執務服しつむふくを着ている。

マナ不足で倒れた父親の代わりにこの非常事態の対応をしているのだろう。彼女は、耐性があって動けるらしい。 


エトレーナが俺に向き直る。 「カザセ様。この者達は、マナ不足が今回の事態を引き起こしたのを知っています。伯爵には本当のことを知らせてあります」 


俺はうなずいた。


「街の状況を聞こうか。大気中の急激なマナの減少で、この街がどうなったか知りたい」 


「はいカザセ様。この街の住人のおよそ三割は、体調の悪化の為に死亡致しました。

五割の住人も具合が悪くなり動けません。しかし数時間前から急にマナ濃度が高まり動けるようになっています。残り二割は、なんとか最初から活動可能でした。私もその中の人間の一人です」


女は、淡々と事実を告げる。しかし話し終えると、急に不安げな表情になり俺に言う。


「マナの濃度が高まったので、安心していたのです。このまま状況が落ち着くのではないかと。

しかしカザセ様のご様子では……」


「そうだ。ここから早く逃げる。

残念ながら、マナの増加は一時的なものだ。今のうちにニューワールドへ行く」


「しかし、ニューワールドには敵がいると聞いております」


「敵に関しては、こちらで対処する。向こうの好き勝手にはさせない。

すぐに住人を異界の門まで集めてくれ。敵を排除してから、門を通ってニューワールドへ移動する」


俺は、移動に必要な車両と護衛の為に兵器を召還することを伝え、住人の移動を女に頼んだ。


「分かりました。生き延びるためにはニューワールドへ行くしかないのですね?」


「そうだ」


「部下に命じて、移動を開始します。それと備蓄の食料を商人から徴発ちょうはつします。

文句は言わせません」


「助かる。食料は3日ぎりぎり持たせてくれ。それ以外に必要な物資は向こうで調達する。

移動時間は2日間だけだ。それ以上はマナがもたない」


彼女は二日しか無いと聞いて息を飲む。だが、やってもらうしかない。


「ジーナはここに残れ。具合の悪い人間を治癒ちゆ魔法で助けてやってくれ。

カミラと俺は一旦ニューワールドへ戻る」


「嫌だよ。ユウと一緒に行く」


「駄目だ」


「やっぱり、ボクは足手まとい?」 ジーナは、しゅんとした。


レイラが優しくジーナの肩に手をかける。


「治癒魔法の使い手は貴重です。カザセ様はご自身よりも住人の命を優先しているのですよ」


「でも」


(カザセさん、失礼します。興味深いことが分かりました) 妖精が割り込んで来た。


(何だ?)


(先ほどの正体不明の味方の件です。いくつか分かった事があります。あの男は絶対に当社の社員ではありません。

この地区で活動中の社員は、我々以外にはいません。いくつかの信頼できる情報筋じょうほうすじに確認しました)


(他には?)


(彼らが使っていたシステムについての情報があります。グラム・システムについてです)


俺は思い出した。あの男と一緒に活動していた女は言っていた。

”グラム・システム起動”とか何とか。あいつらの召喚システムの名前だろう。

俺の使っている召喚システムは、ご存知のようにトライデント・システムだ。

そして妖精は、そのシステムが造っている擬似人格になる。言わばトライデント・システムの化身が妖精なのだ。


それと同じように、グラム・システムの化身が、あの無感情にしゃべっていた女なのだろう。


(グラム・システムは、当社が開発を計画している、新型の召喚システムと判明しました)


(あの男は社員では無いと言ったばかりだぞ。なんで社員でも無い人間がシステムを使っているんだ?)


(はい。ご指摘してきのとおりです。

でも、もっとおかしい事があります。こんな事がある訳が無いのです)


(なんだ? もったいぶらないでくれ)


(グラム・システムは、まだこの世にありません。存在していないのです)


(…意味が分からない)


(グラム・システムは、来年から開発の準備段階の研究にとりかかる予定です。機能が高度すぎて、本当に開発出来るかどうかも分からないんです! 今はプロトタイプすら存在していません。

まだ、生まれていないシステムなんです!)


何てことだ。

この世に存在しないシステムをあやつる味方か。本当に味方なのか?

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