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門の守護者

突然に現れた、ローブをまとった白髪の老人が言う。


「この土地は、真正ユリオプス王国の領土と認められた。お前達が、この門を使うことは許されない。早々に立ち去るが良い」


この老人は異界の門の守護者なのか。そう言えば妖精は、この世界”ニューワールド”は人工的なものだと言っていた。

もしかしたら、この世界を造った者達の仲間なのかも知れない。


どうやら、あのいけ好かない王子が管理者をたぶらかし、土地を自分のものにしてしまったようだ。そして異界の門は、所有者以外は使えないと言うことらしい。


くそっ。王子の野郎。嫌がらせも大概たいがいにしろ。 


門が使えなければ、王国に戻れない。

エトレーナたちをこのニューワールドに連れて戻れない。このままでは、王国が滅びてしまう。


土地も門も、奪い返さなければ。 


「門の守護者よ。あんたはだまされている。この場所にはユリオプス王国が先に入植にゅうしょくしている。その証拠に開拓村もある。この土地は俺たちのものだ」


「お前は誰だ? 見慣れない風体ふうていだな。余所者よそものが口をはさむな」


「俺は余所者よそものでは無い。当事者だ。

王国防衛の責任者で風瀬かざせ ゆうと言う」


老人は俺を見つめた。

「黒髪の兵士、カザセよ。お前は、この世界のルールを知らない。

自分の土地も守れぬような弱者に権利はやれぬ。


すでに入植にゅうしょくしていると言ったな? 千人も居ながら大した抵抗も出来ずに、ただ殺されていった者達の事を言っているのか? 弱すぎて話にならん。立ち去れ。生きたいのなら、権利者の真正ユリオプス王国の慈悲にすがって生きよ。奴隷ならば口はあろう」


カミラの顔色が変わる。

シルバームーンが、ムッとして口を開いた。


「つまり管理人さん、あなたはこう言っている訳ね。私たちが弱すぎて土地はやれん、さっさと立ち去れって。


じゃあ、無知な管理人さんに教えてあげる。我がメディシ族はユリオプス王国と軍事同盟を結んだの。王国の敵は我ら竜族の敵よ。それでも王国が力不足とおっしゃるの?


ドラゴンの強さはバカでも知ってるわ。勿論、あなたもご存じでしょ? あと同盟相手を侮辱ぶじょくするのは、我がメディシ族を侮辱するのと同じ。止めていただけるかしら」


「ドラゴンと軍事同盟? それはそれは。 しかし、お主は族長の娘に過ぎぬ。 違うか? 同盟を結ぶ権限はお前には無い。ドラゴンが、こいつらの為に戦い抜くとは思えない。正式の同盟ならば、わしの耳にも入っている筈」


「そんなこと無い! …お父様は私の言うことなら…きっと正式の同盟を…」 シルバームーンは口ごもった。


確かに俺がシルバームーン結んだ同盟は、族長とエトレーナ女王との間で調印されるまでは仮の契約にすぎない。シルバームーンが協力してくれ頑張っているのは、あくまで個人的な好意だ。


正規の同盟が結べるかどうかはまだ分からない。

だが悠長ゆうちょうに待っている時間は無いのだ。


この老人は、自分の領地を守れる実力があるのか、と俺に聞いている。守れないような弱者はニューワールドから去れと。

ならば実力を示すのみ。少なくとも俺は王子のひきいる軍に負けたことは無い。


「守護者よ。さっき、ここで起こった戦車同士の戦いを見ていなかったのか?

そこの戦車を見て見ろ。生き残ったのはどっちだ? 叩きのめされて残骸を晒している戦車はどっちの兵器か? それでもこちらを弱者と呼ぶのか?」


俺は10式戦車を、目で老人に示した。


「さっき、やっていた戦いか。まあ、見てはいた。

カザセ。 お前は一体何者だ? その兵器をどこで手に入れた? 見たことの無い戦車だ」


「俺は傭兵ようへいだ。インフィニット・アーマリー社に雇われている。 戦車は日本国の10式戦車」


「馬鹿な! インフィニット・アーマリー社だと? お前は…そうか…分かったぞ、オペレーターだな? 戦車は、新型を召還したのか?」 老人が驚く。 会社の事を知っているらしい。


突然、俺の隣に光がまたたき始める。妖精が実体化しようとしているようだ。

スーツを来た人間の姿で、妖精は俺の隣に現れた。


「初めまして。門の管理人さん。我が社の事をご存じですのね? 光栄ですわ。

おっしゃるとおり風瀬は、インフィニット・アーマリー株式会社の兵器オペレーターです。私は、同じく社員の渡辺ユカと申します。どうぞよろしく」


妖精はにこやかな営業スマイルを顔に浮かべ、優雅に挨拶をした。


「この世界に何の用だ? お前等の悪名は知っているぞ。インフィニット・アーマリーと言えば、○○×△▲ □■◆◇ …」


突然、管理人の言葉が、訳の分からない異世界の言葉になる。 

いつもは相手が何語を喋ろうが、俺には日本語が聞こえてくるのだ。妖精が同時通訳をして、強制的に言葉を置き換える。

だが今回、妖精は通訳をサボったようだ。聞かれたくない話なのだろう。


(管理人の言葉が分からない。伏せ字だらけとか勘弁かんべんしてくれ)


(あら、ちょっとした作動不良ですわ。最近調子が悪くて) 妖精は俺の抗議を軽く流し、異界の門の管理人に向き直った。


「我が社に関し、どういう噂を聞いているのか知りませんが、インフィニット・アーマリー社が任務を放棄することは有り得ません。

我々はユリオプス王国を守ります。邪魔する者は我が社の実力を知ることになるでしょう。それで何か不足でも?」


大きく出たな、と俺は思った。今のところ兵器召還システムは調整中で、実力の半分も出せてはいないのに。妖精のはったりだ。 


「まさかとは思うが、本気でこの世界に介入する気か?」 心なしか老人が迷っているように見える。


「今回の依頼は、我が社として正式に受理しております。確認したいことはそれだけですか?」


「まあいい…分かった。やむを得ない。この土地に関する真正ユリオプス王国の権利は無効とする。

インフィニット・アーマーリーの保護下にある王国を、奴らが攻め滅ぼせるとは思えん。お前達に門の使用許可を与える。

しかし、いい気になるな。インフィニット・アーマリーがこの世界に介入して来た事実を、我が偉大なる祖先に報告する。何でも望み通りになると思ったら大間違いだ」


「異界の門の使用許可を頂き、有り難うございます。 門の管理程度しか許されていない、下級管理官の処置として妥当だと思いますわ。あなたのボスによろしくとお伝えください」


妖精はにっこりと微笑ほほえむと俺に言った。


「さあ、行きましょう。女王を救いに」



門の守護者は不機嫌そうに妖精をにらむと、合図をするように右手を上げた。すると光の柱が現れて、老人の姿を飲み込み消え去る。


「取りあえず、敵からこの土地の管理権を取り上げたわね。

良かった。しかし、よく門の守護者を説得出来たわね。

それとあなた。あんた何者よ?」 シルバームーンは妖精を指さす。


「私は風瀬の同僚です。いつも風瀬がお世話になっております」 妖精は微笑むが、その言い方じゃ、まるでお前が俺の妻みたいじゃないか。


「この人はユウの使い魔みたいなもん。じゃあ門を開くよ」 ジーナがどこか面白く無さそうに、会話に割り込むと開門の呪文を改めて唱え直す。


呪文が終わると、今度こそ大理石の柱のある周りの空間が歪み、向こう側―王国にある古代の神殿の地下―とつながった。 


「さあ、カミラ、ジーナ行くぞ。皆は打ち合わせ通り、ここで待機していてくれ。シルバームーン、後の事は頼む」


「了解よ。あなた達が戻るまで、ここは任して」


俺たちは門の中に飛び込んだ。



光のうずを超え門を通り抜けると、そこは来た時と同じ神殿地下だ。 

俺の視覚にシステム表示が割り込む。 


――――……――――……――――……――――……――――……――――……

*警告*


空間転移を検知

トライデントシステムを再接続する


…主回線・副回線 共に接続完了

システムは回復した

コンデイション オール・グリーン


オペレーター:風瀬 勇は、全ての機能を利用可能である

――――……――――……――――……――――……――――……――――……


元の世界に戻ったので、兵器召喚システムの機能が回復したらしい。

もう何百台でも兵器が呼べる。ニューワールドとは違ってここ王国では、二、三両の戦車しか呼べずに苦労する必要は無いのだ。


「あー最高です。この感覚。呼び出したい兵器を何でもどうぞ! 何千台でもいけそうな気分ですわ!」 妖精が俺の頭のなかで嬉しそうに叫ぶ。


横を見ると、カミラとジーナの顔色が悪い。妖精の嬉しそうな声とは裏腹に相当気分が悪そうだ。

この世界のマナ不足が影響しているんだろう。


「カミラ、ジーナ。大丈夫か? 今ならニューワールドに、まだ戻れるぞ」


「問題無い。今戻ったら、私は後悔する」 とカミラ。


「ボクも大丈夫。しばらくすればマナ圧縮の特性が働きはじめるから。戻るなんてとんでもない」


「了解だ。時間が惜しい。行くぞ」

俺達は神殿の地下から、地上へと通路を急ぐ。 

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