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殴り合い

俺は息を飲む。 


こちらの進路をふさぐように5両の重戦車が実体化して来る。 


近すぎる! 敵は横一列に並んでいて、距離は200mそこそこしか離れていない。やたら長い主砲を装備している。少なくとも口径120mmクラス。

前面フォルムに見覚えは無い。俺の知らない戦車だ。 


砲塔が回転を始める。狙いは言うまでも無く俺の戦車小隊。


こんな接近戦は想定していなかった。重戦車が突然現れるなんてインチキにもほどがある。

戦術もクソも無い。力任せの殴り合いになる。


敵は五両。こちらの10式(ひとまるしき)戦車は俺を含めて二両。

後ろには、仲間を乗せた89式(はちきゅうしき)装甲戦闘車(そうこうせんとうしゃ)。 


89式の装甲は、敵重戦車の主砲弾に耐えられそうも無い。撃たれたらお仕舞いだ。乗っている仲間が全員死ぬ。

攻撃を10式戦車に集めるんだ。自分の戦車を、89式の盾にすると決める。


「全車 発煙弾はつえんだんを撃て! 89式は10式の影に隠れろ。敵の射線に入るな!」 俺は叫ぶ。

装備しているスモーク・ディスチャージャーが発射される。煙幕えんまくだ。

後方の89式を照準しづらくするのが狙いだ。


目の前の表示装置で攻撃を指示。 

一番左と一番右の敵戦車を目標に設定する。こいつらから89式に射線が通ってしまっている。


つぶす。


味方戦車と目標情報は共有されている。情報ネットワークで戦車同士が接続されているからだ。


徹甲弾てっこうだん 撃て!」 


俺を含む二両の10式戦車が主砲を発射した。秒速2kmの初速を持つ砲弾は瞬時に、敵戦車の前面装甲に弾着。


発射したAPFSDS弾―徹甲弾の一種―は、それ自体には爆発物を内蔵していない。しかしタングステン製の弾芯が超高速で敵を貫通する際に、当たった装甲を粉砕しながら破片に変えて車内にまき散らす。

同時に直径が数メートルはある火の玉を車内に生みだし、乗員を焼き殺す。


着弾箇所から黒い煙が吹き出した。目標の動きが止まる。

二両の無力化に成功。

敵は残り三両。


生き残った全ての敵戦車が発砲。まとは俺の戦車だ。

衝撃が来る。

轟音ごうおんとともに、脳が揺さぶられ、身体を砲弾が突き抜けたのかと錯覚する。


敵三両の放った主砲弾が、砲塔前面と車体の前面装甲に着弾したのだ。貫徹かんてつはしていない。する訳がない。

10式の複合装甲は120mmのAPFSDS弾の直撃に耐える。 


しかし敵の砲弾は、秒速1kmを超えた速度で前面装甲にぶち当たっている。 貫徹しなくても、砲弾の衝撃が戦車全体を襲う。

ショックを軽減する構造になってはいるが、三発の主砲弾の直撃は流石さすがにヤバい。


「損害は?」


「前面装甲に損傷そんしょう。主砲、問題ありません」


「次弾、準備。撃て!」


ネットワークに接続されている味方の10式が、指示に従い次弾をはなつ。 

弾着。装甲を貫徹かんてつ。対象を無力化。

敵の生き残りは、二両。


続いて俺の10式が主砲を発射する。弾着。無力化。

残り一両。


敵の弾が来ない。装填が遅い。人力で弾を込めているのかも知れない。

自動装填の10式が有利だ。だが、そろそろ敵の弾が来る。

俺は三発の弾を受けている。さらに一発耐えられるだろうか?


「このくされ○○○野郎~これでも喰らえ!」 上品とは言いがたい、疑似人格の女の声が聞こえる。

89式がランチャーから重MAT(79式対舟艇(たいしゅうてい)対戦車(たいせんしゃ)誘導弾)を発射したのだ。重MATは誘導タイプの対戦車ロケット弾だ。


隠れていろ、と言った筈なんだが。


重MATが最後の敵に命中する。もう一発の主砲弾を食らっていれば、俺はられていたかも知れない。命令違反の89式のお陰で、命拾いをした。 俺はため息をついた。



敵戦車は沈黙し、5つの残骸をさらしている。

主砲が開けた穴からは煙が立ち上っている。


俺は、シルバームーンに脳内で呼びかける。

奴は89式の車内で皆と一緒にいる。脳内で会話ができるドラゴンは通信相手として便利だ。 


(戦闘終了だ。 そっちは大丈夫か?)


「大丈夫…と言いたいところだけど 何よこの乗り物。ガクンガクン揺れてひどかったわよ。私をなんだと思っているの? そう言えばカミラ殿の顔がちょっと青いかな。まあ生きてるし問題ないわ」


そりゃ戦闘中は、急発進に急加速、急停止しただろう。悪いが多少の揺れは我慢してくれ。 


(最初からドラゴンの姿で、外を飛んでた方が良かっただろうに)


「だって、車って言うのこれ? 乗ってみたかったし。ドラゴンの姿に戻って加勢かせいしようとしたんだけど、扉の開け方分かんないし。ひどい揺れのせいで立ち上がれなかったし」


…まあ、皆が無事で何よりだ。


俺は距離を詰め、車長用のハッチから顔を外に出し、敵戦車のむくろを観察する。

やたらでかい砲塔に、やたら長い主砲の砲身。全体のシルエットはアメリカ製を思わせる。

…良く見れば砲塔は鋳造ちゅうぞう製じゃないか? 主砲の口径長は120mmのようだが、10式で見慣れている滑腔砲かっこうほうでは無い。


…改めて見れば、こいつはシルエットだけは現代戦車に似ているが、旧世代の戦車だ。


(戦車の正体が分かるか?) 俺は妖精に尋ねた。


「ちょっとお待ちを。ここからは本社との回線がつながりにくくて。現在分析中です」

妖精は、考え込んでいるアイコンのような姿を俺の脳内に投影とうえいした。芸が細かい。


「…戦車の種別が判明しました。米国のM103重戦車です。通称”ファイティングモンスター”ですね。1950年代の車両です」


おいおい。こんな年代物を持ち出して10式と戦ったのか。しかし想像するより手強かったのは確かだ。

120mm砲はあなどれない。10式はともかく装甲が薄い89式にとっては。


「あの小柄こがらの武器商人の女でしょうね。こいつを送ってきたのは」 妖精がつぶやいた。


俺も同じことを考えていた。

王子にまとわりついていたあの小柄の女が、兵器を調達して来たんだろう。

最初は対物ライフル、次に旧型のRPG(歩兵用対戦車ロケット弾)と年代物の重戦車か。

しかし、これだけ大負けしたら、真正ユリオプス王国の王子にも愛想をかされたに違いない。いい気味だ。


いい加減、あきらめろ。お前の兵器では俺には勝てない、と武器商人に心の中で告げ、ハッチを閉めて戦車内に身体を沈める。

そして目的地への前進を命じる。異界の門はすぐそこだ。



白い大理石の柱が立つ、異界の門に到着する。

門は林と草原の境目の場所にある。最初に俺達がニューワールドに着いた場所だ。


89式装甲戦闘車からぞろぞろと仲間達が降車する。

カミラも部下の屈強な騎士達も、心なしか顔色が悪い。乗り物と言えば馬車しか無い世界だ。

やっぱり相当、つらかったらしい。


「ユウ! 勝ったんだね。良かった!」 ジーナが俺の懐に飛び込んでくる。

相変わらず元気一杯だ。


彼女の背中を軽く抱きしめながら、俺は言った。

「さあ。王国に戻るんだ。早く異界の門を開いてくれ」


「了解!」


すぐに王国へ戻らないと。エトレーナが待っている。

戦闘で余計な時間を使ってしまった。

ジーナは開門の呪文にさっそく取りかかる。


「…門の守護者、ギルアデールよ。 我は全てを司つかさどる王なり。我がめいに従い元の世界への扉を開けよ」 最後にそう唱え、ジーナの詠唱が終了する。


…何も起こらない。


「そんな。呪文はちゃんと発動している。…もう一回やってみる」


「無駄よ」 シルバームーンがジーナをさえぎった。


「カザセ。私、言ったでしょ? 門の管理権が奪われたって。恐らくこのエリアを乗っ取られたのよ。あのいけ好かない王子とやらに」


くそっ。こんなところで、グズグズしている余裕は無いんだ。


「どうすればいいんだ。早く王国へ戻らないと」


「私がやってみる。門の管理人を呼び出すの。直接、話をしてみる」


シルバームーンはジーナに代わり、前に進みでる。そして大理石の柱に語りかけた。

「管理人のギルアデール、聞いてるんでしょ。 私はメディシ族の族長の娘、シルバームーン。話があるの。姿をあらわしなさい」


柱がしゃべった。


「何だ。騒々(そうぞう)しい。竜族の娘が何用なにようだ?」 大理石の柱が光り輝き、霧のようにぼんやりとした何かが現れる。

そして徐々に人間の姿となり、ローブをまとった白髪の老人があらわれる。


「この土地は、真正ユリオプス王国の領土と認められた。お前達が、この門を使うことは許されない。早々に立ち去るが良い」 老人は言った。


王子の妨害なのか? どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ。 

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