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もう一つの王国


真正しんせいユリオプス王国の第一王子、クルト・シュピーゲルと名乗る男、そいつが敵の親玉らしい。

こちらと会ってじかに交渉したいらしいが、どうしたら良いものか。

向こうが降参したいと言うなら、話し合いぐらいは付き合ってやってもいい。 しかし、そういう訳でも無さそうだ。


「向こうの注文を伝えるわ。リーダーの黒髮の男と、めすのドラゴンは会合の場に必ず出席すること、だそうよ。

カザセと私をご指名って訳ね。有り難くて涙が出そう。それ以外の参加者は適当に見繕つくろえって言ってる」 とシルバームーン。 


「”交渉の場で不意打ちをすることは絶対に無い。真正ユリオプス王国の第一王子の名誉にかけて誓う。” …だそうよ。笑わせるわよね。

どうするカザセ?」


怪しげな国の王子に、自分の名誉にかけてちかわれても正直対応に困る。 


「向こうの出席は三人だったな。第一王子と、ラスティ・カッパーとか言うドラゴン。それと何処どこかの武器商人」


「ええ、そうね。そう言ってたわ。

ついでに言えばラスティ・カッパーは黒竜よ。真っ黒で気取ってて、いけすかない奴」


「何か因縁いんねんがあるのか?」


「ええ。私の村の防衛戦で、兄の竜が死んだ話はしたわよね? その戦いで、黒竜に助力を頼んだの。一緒に戦って村を守るのに協力してくれって」


「…どうなった?」


「見事に断られたわ。”お前たちの戦いは面白くない”って」

ラスティ・カッパーと呼ばれる黒竜は、傭兵ようへいだ。

不利を理由に依頼を断るなら理解は出来るが、仕事の面白さ優先とは確かに相当な変わり者のようだ。


「カミラ、ジーナ。それに騎士団のみんなも真正しんせいユリオプス王国の名前に心当たりは無いか?」 俺は声をかけた。


「そんな国の名に聞き覚えは無い。ユリオプス王国は我が王国1つだけだ。

そいつらは無抵抗の人間を虐殺するならず者の集まりだ。言っている事を真に受けない方がいい」 とカミラが吐き捨てる様に言う。


ジーナは先ほどから何か考えてる風情ふぜいだったが、俺がうながすと喋り始めた。


「ボクは、王国成立前の戦国時代に、なにか関係あるんじゃないかと思った。 あの時代は有力領主の間で主導権争いが酷かったし国も乱立してたんだ。その中の一つが、真正しんせいユリオプス王国を名乗っていてもおかしくはないと思う。

ただし300年位前の話だし、ここは異世界のニューワールド。だから、どう関係するのかって言われたら困るんだけど」 


いずれにしろ、会ってみるしかないか。

敵の思うツボのような気もするが、正体を探るのが今回の目標の一つだ。

自己紹介をしてくれると言ってるんだから、断る手はないだろう。


「…カミラ、シルバームーン。一緒に来てくれ。三人で会ってみよう。

ジーナと騎士団のみんなは、会合場所から離れたところで待機だ。騎士団はジーナを守ってやって欲しい」


ジーナを連れて行くのは問題外だ。クロスレンジでの戦いになれば、彼女が最初に死ぬだろう。

そして、実を言えば俺はカミラも外すつもりだった。憎しみのあまり暴走しそうだからだ。


だが少し考えた後で、俺は一緒に連れて行く事にした。


「カミラ。 敵への憎しみは押さえてくれ。 耐えられるか? 戦いになれば、その場で黒竜とシルバームーン同士の戦いに移行する。間近でドラゴンが戦えば、遅かれ早かれ俺たちは死ぬぞ。か弱い人間同士だからな」


「ちょっと、その言い方じゃドラゴンが化け物みたいじゃない」 とシルバームーン。


ノーコメント。


「…敵の親玉と刺し違えられるのなら、我が生命なぞ…」 カミラは俺の予想通りの答えを返した。


勘弁かんべんしてくれ。もし戦えば、両方とも共倒れに成る…敵にもそれは分かっているだろう。何か手段は講じている筈だ。戦うときは俺が合図する」


「ボクは居残いのこりなの? 嫌な予感がするんだ。ユウと離れたくない」


ジーナは俺にぴっちり身体を押し付けて、泣きそうになりながら俺を見上げる。


無駄だ、ジーナ。

俺には未成年を相手にする、そういう属性は無い。

若干じゃっかん自信は無くなってきたが、多分その筈だ。


敵の希望どおり、交渉には応じることに決めた。しかし指定された場所に、のこのこ出向くのはいくらなんでも危険すぎる。

会う場所はこちらで決めることにして、土地に詳しいカミラと会合の場所を決める。

シルバームーン経由で、敵に場所を知らせる。


泣きそうなジーナを騎士団の五人に頼み、指定した場所に三人で行く。


目的地は草地の平原で周りには何もない。近くに隠れられそうなところと言えば1キロほど先に森がある。しかし、これだけ離れていれば敵が居たとしても対処は出来る。


10式戦車を200mほど手前で待機させ俺たちは、さらに先に進む。

停止した戦車の砲塔が回転し、敵の方向を主砲がにらんだ。


向こうには黒竜がいるとはいえ、こちらにも戦車とシルバームーンが居る。クロスレンジの攻撃に対してはカミラもいる。 

敵が裏切って攻撃したとしても、確実に相打ちには持ち込める。


(妖精よ。もし俺が死んだら10式の指揮を任せていいか?)


「何言ってるんですか。死なないでください。

オペレーターが死ねば私たちは撤退てったいするしかありません」


(10式、命令だ。俺とカミラが死んだら、敵の王子を主砲で打ち抜け。黒竜が守ると思う。徹甲弾(APFSDS)を使うんだ)


「了解した」


俺の命令に驚いた妖精が10式の疑似人格に抗議する。

「何言ってるの。10式。オペレーターが死ねば私たちは撤退てったいするの。そんな命令受けちゃ駄目! 規則違反よ!」


10式は五月蝿うるさそうに答えた。

「それは命令のつもりか? 命令はオペレーターからしか受けない。例えあんたでも駄目だ。規則違反になる」


俺はニヤリとした。10式の疑似人格は面白い奴だ。


「私だけ悪者にしてっ! 10式 覚えてなさい!」


向こうから敵の3人組が歩いてくる。 

近づくにつれ、敵の顔かたちがはっきりしてきた。

真ん中に仕立ての良さそうな皮鎧かわよろいを着込んだ男。

男の俺から見ても美しい男だ。髪はブロンドで短くまとめている。 

恐らくこいつが、クルト・シュピーゲル。第一王子か。


右には、黒ずくめのコートのような服を着込んだ碧眼へきがんの男。

左目が閉じられ、みにくい大きな傷がまぶたおおっている。

「カザセ。あそこに見える黒い変な服を着た片目の男。あいつがラスティ・カッパー、ドラゴンよ」 シルバームーンが俺の耳元でささやいた。


左には小柄な若い女だ。快活そうで、くりくりとした目が可愛らしい。消去法で行けば、こいつが武器商人と言う訳だ。

俺たちは5メートルほどの距離を間にはさみ、そこで止まった。


「お前がリーダーか? そこの黒髪の男」 皮鎧の男が尊大な態度で尋ねる。


「そうだ。風瀬かざせ ゆうと言う。お前がクルト・シュピーゲルか?」


「いかにも。私が真正しんせいユリオプス王国、第一王子、クルト・シュピーゲルだ」


ブーンと言う警戒音けいかいおんが鳴りひびく。カミラの持つ魔剣ノートゥングが敵に反応している。


「こいつが…敵の親玉か」 カミラが忌々(いまいま)しそうにつぶやく。


「用件を言ってもらおう」 俺は敵をうながした。


「カザセ。お前は一体何者だ? 何故、我らの邪魔をする? お前は部外者だろう」


「俺は雇われた傭兵ようへいだ。お前達がこの戦いから手を引き、これ以上王国に手出しをしないと言うなら俺も手を引く」


「カザセ殿。それは駄目だ。こいつらを生かしたまま許すなぞあり得ん。こいつらは住人の千人を皆殺しに…」


「カミラ。今は黙っていてくれ」


「しかし…」


「任せろ」


カミラは悔しそうに剣にかけた手を戻した。


「王子。こいつら仲間割れしてるー。笑える!」 敵の武器商人らしき女が俺を指を指して笑う。


王子を名乗る皮鎧の男は、面白そうに言った。

「手を引けだと? カザセ。それは出来ない相談だ。こいつらを皆殺しにするのが俺の目的だからな」


「何故だ?」


「これは復讐だからだ。そこの女は、我らが無抵抗の移民団を虐殺ぎゃくさつしたと言いたいのだろう? カザセはそれで同情したのではないか? それを理由に丸め込まれた? 違うか?」


王子はカミラを指差した。

「奴らの言うことなぞ聞くな。魂を汚されるぞ。ユリオプス王国を詐称さしょうするこいつら、生きる価値も無い恥知らずなゴミだ」


「…我らは、こいつらの先祖に滅ぼされたたみの子孫だ。我らの先祖は奴らの虐殺から必死の思いで、ここニューワールドに逃れた。

そして、いつの日かユリオプス王国に復讐すると誓った。我らこそ真にユリオプス王国の名前を引き継ぐに相応しいもの。汚らわしいこいつらに、ユリオプスを名乗る資格は無い。正義は我らにある」


王子はカミラに近寄り、彼女の顔を睨みつけた。

黒竜のラスティ・カッパーが王子をかばうように横に並ぶ。


「お前らには選択肢をやる。我らは寛容かんようだ。

奴隷となるならば命を助けよう。

男は一生我らの為に血を流し働け。女は我らに奉仕せよ。ただし子供を残すことは許さん。お前らは滅びるのが運命だ。愚かにも移民団は、それを断った。 愚か者には死が相応ふさわしい」


カミラの手がぶるぶる震え始めた。「き、き、貴様…」

彼女の魔剣ノートゥングが再びうなり始める。


残念ながら、カミラが切れる前に俺が切れそうだ。

「いい加減にしろ。クルト・シュピーゲル。ドラゴンに守られているからといい気になるな。俺の力を試してみるか?」 


王子、クルト・シュピーゲルはカミラの怒りを無視し、笑いを浮かべながら俺に尋ねる。

「それでもお前は、嘘に塗り固められたユリオプス王国を守ると言うのか? カザセよ。 我が正義にそむくのか?」


俺は正義に関心が無い。 俺の世界には国の数だけ正義があった。

正義の為に戦おうと思ったことは一度も無い。


「俺に正義を説くのは、止めておけ。無駄だ。

俺の任務は防衛対象を守ることだ」


今、平和に生きている人間を守れればそれでいい。それが俺の仕事だ。

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