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接触


全滅した第一次移民団の開拓村を目指し、俺たちは進む。その道中に、小さな林を見つけた。

俺はそこで隊を休ませる事にして、休憩を命じる。


「カミラ。ちょっといいか? 話がある」 休憩中のカミラに声をかける。


「すぐ行く」

彼女は部下達との会話を切り上げ、立ち上がった。


「あそこで話そう」 俺はみんなと少し距離をとり、木々で視界がさえぎられる場所を指さした。


カミラは、前回の防衛任務での失敗を恥じている。しかし俺は、彼女の戦闘についてもう一度確認したかった。

辛い(つら)かと思い、余計なお世話かも知れなかったが、皆の居る場所からは距離をとった。 


「前回の戦闘の事か?」 彼女は俺の意図いとを察したらしく、聞いてきた。


「そうだ。俺は敵の装備が気になっている。奴らはさっきの戦いで俺の元居た世界の武器を使っていた」


「ドラゴンの防護壁を、打ち破ったあの武器のことか?」


「ああ。あれは対物ライフルと言って弾丸を発射する武器だ。カミラの戦った時もあれは使われていたと思うか?」


「私は見ていない…あの赤い矢の魔法の方は確かに見覚えがある。敵はあの赤い矢で住民にトドメを刺していた。救おうと駆けつけようとしたが、一緒に居た部下の身体がいきなり、泥でもまき散らすように吹き飛んだ……魔法による攻撃を受けたと思った…」


カミラは自分の記憶を必死に探りながら答えた。 その努力は彼女を苦しめているだろう。


「それは本当に魔法だったか? そのような術を具体的に知っているか」


「知らない。私は魔法剣士に過ぎない。魔術に関してはジーナの方が詳しい」


「ジーナにはもう話を聞いた。そのような魔法は考えにくいそうだ。

人体内部の直接破壊魔法と言うのがあるだそうだが、距離に制約がある。伝説級の大魔術師でもない限り、遠距離からその手の魔法を仕掛けるのは無理だそうだ」


「どういうことか」


「君の部下は恐らく遠距離から対物ライフルの狙撃そげきを受けたんだ。 人間の目には弾が飛んでくるとこなど、早すぎて見えない」


俺は自分の推測を続けた。


「部下が殺された後、君は爆発で気を失った。多分、そっちも魔法ではないと俺は推測する」

歩兵の使う武器が起こした爆発のように思える。例えば、迫撃砲はくげきほうとか。


彼女は視線を彷徨さまよわせ、思い出すように答える。

「…そうなのかも知れない。……そうだ。私は、敵の攻撃の時にマナのきらめきを全く感じなかった。

自分が混乱したせいだと思っていたんだ。……そのような攻撃は魔法と判断するしかなかった。不正確な報告を上げてしまってすまない」


「気にするな。カミラのせいじゃ無い」


必要なことは確認できた。

彼女の戦闘の記憶は、俺が推定した敵装備と矛盾むじゅんはしていない。


俺の推定する今回の敵の構成は、導師クラスの魔術師が数名と、対物ライフルが数丁、迫撃砲の類の歩兵が持ち運べる支援火器。それと剣士もしくは軽火器を装備した兵士が数十名というところか。


一旦は敵を蹴散らしたが、すぐにまた戦いになるかも知れない。

敵が戦力を強化してくる可能性も高い。


我が隊の戦力で迎撃可能か、改めて頭の中で確認をし直す。


……いい機会だ。メンバーの持つ能力を、ここでまとめて読者の為に説明しておこう。

俺は味方の戦力を現状、次のように理解している。


まずジーナ。ユリオプス王国の魔術団を率いる筆頭ひっとう魔術師。 と言っても魔術師は両手の指で数えられる位しか王国にはいない。

近接戦闘についてはほぼ無力。物理的な戦闘能力は普通の女の子に毛が生えた程度。魔法自体も詠唱えいしょうに時間がかかるものが多く、戦闘にあまり慣れていないので反応が遅い。


しかし、魔法攻撃力そのものは導師クラス魔術師の数名分に匹敵する。

”天才ジーナ”と呼ばれる所以ゆえんだ。

生まれながらにしてマナ圧縮の特性持ちで、一度に多量のマナを消費する大魔術の行使こうしが可能。

大竜巻を召還したシルバームーンとの戦いを覚えていると思う。


王国ではマナ不足の為に、十分には実力を発揮できていなかったが、それは彼女のせいでは無い。

制限はあるものの、貴重な治癒魔法の使い手でもある。 


次に同盟を結んだドラゴンのシルバームーンについて。彼女は竜族の一派であるメディシ族の族長の娘だ。

戦闘力は言うまでもなく圧倒的。

近接、中間距離、遠距離における物理、及び魔法攻撃力は共に人間の水準を遙かに越えている。

数多くの魔法を自由に操り、代表的な攻撃はドラゴンブレスだ。

ブレスの射程は数百メートルに及び、効果範囲を極低温ごくていおんに冷却する。そこでは空気さえも気体であることを止め、液体と化す。


そして人間の使うほとんどの魔法攻撃を無力化する。ジーナの大魔法も彼女には効果は無い。

本気のドラゴンに対抗出来るのは本気のドラゴンだけだ。 

…いや。俺だけは、対抗出来るかも知れない。調子がいい時限定だが。


ドラゴンにも勿論もちろん弱点はある。彼女の世界には本来無い筈の、常識外れに強力な物理攻撃、例えば超音速で飛んでくる戦車の主砲弾などは完全には防げない。


弱点はまだある。ドラゴンの力は魔術にるものだ。力の行使にはマナを消費する。マナが無ければ極端に弱体化してしまうのだ。

しかし今のニューワールドはマナがあふれている時期なので、当面の間は問題無い。

そして弱点と言えるかどうかは分からないが、人間形態の時は力を制限される。


最後にカミラ。 騎士団“ワイバーンの翼”隊の隊長。カミラは魔法剣士だ。 彼女の使う魔剣ノートゥングは、近接戦闘では圧倒的な力を発揮する。

”切断”の概念そのものを封じ込めたその刃は触れた物を全て切断する。

対抗手段は原則存在しない。切断した結果だけが、途中の経緯けいいを無視して現れるからだ。 


ドラゴン相手にも通じるのだろうか? 実は俺にも分からない。

シルバームーンに聞いてみたいところだが正直には言わない気がする。

実際に戦闘になれば分かるんだろうが、勿論もちろんそんなものは見たくない。カミラとシルバームーンの仲の悪さからすれば、あながち冗談で済ませられないのが怖いところだ。


彼女は剣で切り結べ無い距離の敵には、魔法で対処出来る。

専門家であるジーナの魔法には遠く及ばない。しかし火、風、水属性の基本魔法を扱い、十分に強力だ。残念ながら遠距離への攻撃能力は無い。


カミラの部下の五名の騎士たちは、接近戦におけるカミラの補佐をする。

一番あてにしてるのは、乱戦になった時のジーナの防衛だ。


最後に俺。インフィニット・アーマリー株式会社の兵器オペレーター。口の悪い王国の人間は俺のことを”魔神もどき”と呼ぶ。

残念ながら今の俺は、能力を制限されている。


とりあえず、制限が無いときの説明をしよう。

近接戦闘は銃剣じゅうけん、もしくは拳銃その他の個人用火器で対処する。中間距離以上では召還システム・トライデントを使うことにより呼び出した現代兵器で対応する。 

その場合、個別の兵器を使って戦うというより、機甲化きこうかされた軍隊を指揮する形になる。


シルバームーンでさえ、まともに戦ったのでは俺に対抗出来ないと思う。

しかし、俺にも弱点はある。と言うか多すぎる位の弱点持ちだ。

とりあえずは近接戦闘時における弱さと、防御力の貧弱さあたりか。


さっきも言ったが、現在は俺にとって最悪の状況だ。トライデントシステムの不調のせいで、能力は相当制限されている。

ここニューワールドはインフィニット・アーマリー株式会社にとっても未知の異世界なので、召還システムの調整が必要な状況だ。

調整がいつ終わるのかは不明。


今、呼び出せる兵器は多くて数両の装甲車両。個人用火器の召還に関しては問題無い。

妖精が頑張って、そこだけはシステムを回復させた。


俺たちの隊の戦力は現状、そんなところだ。俺の不調は正直困った問題だが、それでもそう簡単に我が隊がやられるとは思えない。

敵が多少の戦力増強を図ったところで、対処可能だ。


俺は、そう思っていた。



休憩きゅうけいを終えて、出発の命令を出そうとする。

開拓村まではあと数時間で着く筈だ。


「カザセ。ちょっと待って。嫌な奴から連絡が入った」 シルバームーンだ。


「連絡? どういう事だ」


「ドラゴンから呼びかけがあったの。竜族同士は離れていても意志を通じあえるから。同族なんだけど嬉しくない相手。私は嫌い」


「…通信の内容は?」


「敵の陣営に、そのドラゴンが加わった。ちょっと不味まずい事になりそう」


シルバームーンは説明を始める。敵に加わったドラゴンは傭兵ようへいらしい。


「傭兵のドラゴン? 何だそれは?」


「名前はラスティ・カッパー。変わった奴なの。傭兵と言うのは正確な言い方じゃないわね。 自分の好みで他種族の味方を気ままにする変わり者。あなたの敵を、今回は気に入ったみたい」


迷惑な話だ。竜の名前はラスティ・カッパー、”びた銅”か。

名前の方もあんまり趣味が良いとは言えない。 


勿論もちろん、親からもらった名前じゃない。通り名みたいなもん。 そのドラゴンを通じて、敵のリーダーからあなた宛のメッセージを受け取った。 こちらと交渉がしたいそうよ」


「何を交渉する気だ。 停戦目的か? 交渉の場所は?」


「目的に関しては、会えば分かるとしか向こうは言わない。指定場所は全滅した開拓村の入り口で。 今日中に会いたいと言ってるわ。三人で出向くと伝えてきた」


「三人?」


「今言った竜族のラスティ・カッパー、それと何処どこかの武器商人が一人、最後に向こうのリーダー」


「リーダー?」


「そう。敵の親玉でラスティ・カッパーの雇い主。名前はクルト・シュピーゲル、 真正しんせいユリオプス王国の第一王子と名乗っているわ」


俺の知っているユリオプス王国は一つしかない。女王がエトレーナの王国だけだ。

真正しんせいユリオプス王国だと? 訳が分からない。

王国がいくつもあるのか?


面倒なことになりそうだった。


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