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られた。……そう思った。 

シルバームーンの放った数十本の光の矢が、俺めがけて突き刺さる。


だが、それは錯覚だった。白く光る矢の群は高度を上げて俺の頭上を通り過ぎ、後ろへと飛び去っていく。

慌てて振り返った俺は、矢の飛び行く先を目で追った。


光の矢のむれは急速に速度を上げると、数百メートル先にある森の中の一点に吸い込まれた。


爆発。ふくれ上がる光の球。

数秒経ってドーンと言う破裂音が、ここまで聞こえてくる。


「残念。今は人間形態だしこんなもんか。まだ、敵に生き残りが居る。

反撃来るわよ。注意して」シルバームーンが告げる。 


「どういう事だ。一体、何を攻撃した?」


竜の少女はニヤリと笑う。

「あなた達の開拓村を襲った敵よ。移民団を皆殺しにした奴らが、あそこに居る。兵士を引き連れた魔術師が、こちらの様子をうかがってた。

術で隠れてたけど私には通用しない」


「こんなに早く敵が来た…俺たちは気づかれていたのか?」


「あなた達、転移門使ったでしょ。使えば周りにすぐ分かるのよ。警報鳴らして大声で叫んでいるようなもんだわ。本当に何も知らないのね」

言い方がしゃくさわるが、何も知らないのは残念ながら否定出来ない。


「ユウ。何か来る!」ジーナが叫ぶ。

赤い光の矢が数十本、敵のいる森から返礼のように発射された。


「あの赤い光。見覚えがある。開拓村を襲ったあいつらだ。

くそっ」 カミラがあえいだ。


「”赤光の矢”か。人間にしちゃあ、まあまあの魔法ね。

いいわよ。遊んであげる」 シルバームーンは呟くように言うと、てのひらを敵に向かって突きだす。


シルバームーンの術が発動。


青い光の防壁ぼうへきが俺達をおおい、周囲の景色が屈折しわずかにひずむ。

俺が彼女を戦車で撃った時に、身体を守った光のシールドと同じものだろう。


敵の放った矢のむれは、光の壁にぶち当たり消滅する。

「今度はこっちの番よ。見てなさい」 シルバームーンが魔法の詠唱えいしょうに入る……が予想外の事が起こった。


どんっという大きな音が響き、俺たちの居るところまで衝撃が伝わる。

何かが高速で、シルバームーンの魔法の防壁に当たったのだ。

敵からの攻撃だ。


さっきの矢じゃ無い。何か別のもの。

シルバームーンは驚き、敵が潜む森をにらむ。


光の壁にぶち当たった何物かが、ゆっくりと地面に落ちる。

…俺は、それを良く知っていた。

つぶれた金属のかたまり。衝撃で先端が押し潰れた弾丸。


弾丸だと?!

かなり大口径の弾だ。この世界にこんなものが? 


打ち込まれた箇所の、光の防壁の輝きが弱まっている。 

少女のドラゴンは、美しい顔をひずませた。 


「何よ。これ。あんたの戦車の砲に似ている。魔力を感じないのに、盾を破壊された」


「注意しろ。来るぞ」


待機中の10式戦車より俺に報告が入る。

「前面装甲に被弾ひだん。損害無し。

1時方向、距離600、対物ライフルと推定」


10式も攻撃を受けている。対物ライフルだって??

昔は対戦車ライフルと呼ばれていた大型の銃だ。


俺達は一体、何者と戦っているんだ。相手は魔術師じゃなかったのか?

少なくとも二丁の対物ライフルが俺達と10式戦車を狙っている。


…いいだろう。

つぶしてやる。


考えるのは後だ。対物ライフルごときで、主力戦車に刃向はむかった結果を受けとれ。


弾種対榴だんしゅたいりゅう。撃てっ!」


10式戦車の主砲、44口径120mm滑腔砲が火を噴く。砲弾は、多目的対戦車榴弾(HEAT-MP)。

装甲の貫徹能力は、APFSDS弾に劣るが、装甲目標にも、非装甲目標の両方に有効な汎用性の高い弾種だ。

もちろん、対人戦闘においても強力な破壊力を誇る。


超音速で着弾した砲弾は炸裂し、敵を凪払なぎはらう。

五発の主砲弾を潜んでいる場所に叩き込むと、敵は静かになった。

反撃は無い。


ったか」


声をひそめて戦況を見ていた皆が、口々に話出す。


「もう大丈夫なの?」


「…カザセ殿。敵…住民を殺した奴ら…かたきはとれたのだろうか」


「お見事。残った敵は逃げたようね」 


念のため戦車を前進させ、俺達は車体の後方に位置をとる。

併せてシルバームーンとジーナが俺達の周囲に防御の魔法を重ねがけした。


敵の奴らは魔法に加えて、対物ライフルを使う。…俺の同業者が混じっているのだろうか?


だが、それにしては敵の攻撃は妙だ。現代の主力戦車、ましてや最新型の10式に対物ライフルなど無意味なのに。

自分の位置を知らせて反撃を受けるだけだ。敵は、まともな対戦車装備を持っていないのかも知れない。 

正規軍の出身者では無いのだろう。そう納得しようとしたが、何かが俺の頭にひっかかる。


俺は脳内で妖精に話しかけた。


「あいつらに心当たりがあるか? 同じ会社の同僚が向こうで戦っていた…なんてオチは御免だぜ」


妖精は憮然ぶぜんとした声で答えた。


「我が社を信用してください。インフィニット・アーマリー社の戦場管理は洗練されています。そのような事はあり得ません」


「では、あれをどう考える? あいつらは対物ライフルを使っていた」


「分かりません。データ不足です。しかし製造数が多く、構造が単純な武器のいくつかが、異世界に流出している可能性はあります。あくまで推測ですが」


そうなのだろうか。

いずれにしろ少し落ち着いたら、このニューワールドにおける武器・兵器について調べなくては。 


「一応、本社に当たっておいてくれ」


「了解です。多分、分からないとは思いますが」


「それと一刻も早く、兵器召還システムの調整を済ませて欲しい。もっと沢山の兵器が必要になりそうだ。俺達の置かれている状況は思ったよりヤバい」


「努力しますわ」


「カザセ」


呼びかける少女の声が背後から聞こえる。 俺は振り向いた。 もちろん声の主はシルバームーンだ。


「私が居て良かったでしょ? そうよ、私はあなたの命の恩人。敵に気がつかなかったら、どうなっていたかしら?」


やはり彼女の外見はエトレーナに良く似ている。しかし胸の方はかなり残念だ。 その薄い胸を張って得意そうにしている。

本人は威張っているつもりらしいが、エトレーナに比べるとあまり貫禄かんろくはない。可愛らしいのは確かだが。


その銀髪の美少女は俺に問う。

「命の恩人に向かって、同盟結べないからとっとと帰れ、なんて言わないわよね?」


それとこれとは話が違う…のではあるが、ニューワールドの状況は想像以上にシビアだ。助け合うしかないかもしれない。

問題は、こちらの兵器召還システムが最小限しか動かないことだ。早めになんとかするしかない。

調整が済むまでは、他者の助けを借りることも必要か。例えばこの風変わりなドラゴンの力とか。


それに、こいつは悪い人間ドラゴンには見えない。俺はそう思う。

決心し、竜の少女に片手を差し出した。


「分かった。よろしく頼む」


シルバームーンはきょとんとして俺の手を見た。

「”あくしゅ”とか言う人間の習慣?」


「そう。挨拶あいさつの一種だ。ドラゴンと人間の同盟を祝して」


おずおずと差し出された彼女の手を、俺は軽く握り返す。白くて柔らかな小さな手だ。


役得やくとくよね。美少女の手の感触は如何いかが?」 妖精が面白そうに割り込んできた。


「バカいうな。相手の正体はドラゴンだぞ。それより召還システムの調整を早く頼む。今更いまさら、兵器の召還出来ません、あんたの国も守れません、ではシルバームーンに殺されるぞ」


「分かってますって。ああ、私もドラゴンと握手したかったな」


竜の少女は、俺を見るとニッコリと微笑んだ。

族長である自分の父親のところへ、手ぶらで帰らなくて済むので安心したのかもしれない。


俺たちは10式戦車を先行させ、その後ろから全滅した開拓村へ向かって進み始める。

平原で見晴らしが良く、身を守る遮蔽物しゃへいぶつがほとんど無いのが気に食わない。しかし目的地までは、平原を横切るルートしかない。


俺の右後方には、何かと俺のそばに居たがる魔術師のジーナが歩いている。

もしかして、シルバームーンをライバル視していて彼女の近くに行きたくないのだろうか?

そうだとしても、何で俺とそんなにひっつきたがるのか訳が分からない。

今は小銃を抱えているので、腕を掴むのは勘弁かんべんしてもらっているが、そのせいか少し機嫌きげんが悪い。


左後方には、シルバームーンだ。

彼女は周囲を警戒しながら歩き、時々、にらむように遠くを見る。

ドラゴンの視覚は魔法で強化されているらしい。頼もしい。 

さっきの敵は俺も気づけなかった。


状況が落ち着いたら、シルバームーンの村に出向いて族長に会わなくてはならない。

同盟を正式に締結ていけつするのだ。

いや、本来はエトレーナが出向くべきか。俺にしろシルバームーンにしろ女王なり族長の代理に過ぎない。

女王のエトレーナと相談もせずに、勝手に同盟を決めて悪いことをしたが、説明すれば理解してもらえるだろう。


カミラは部下を引き連れ、後方を歩いている。

どうもカミラとシルバームーンの仲が悪いようで、俺は気になっている。

シルバームーンは癖のある性格だが、悪い人間ドラゴンには見えない。お互い上手くやって欲しいところだ。


小さな林が見えてきた。


あそこで一旦休憩しよう。全滅した開拓村に入る前に再度カミラに確認したいこともある。

村で起こった戦闘について再確認したいのだ。

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