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ドラゴンの真意

人間の少女の姿に変身したドラゴン―シルバームーンは腕を組みこちらをにらむ。

気にくわないが認めてやろう。不機嫌ふきげんそうにこちらを睨む姿は、なかなかに魅力的だ。 


カミラや部下の騎士達は、食い入るように少女の姿のドラゴンを見る。

ジーナは緊張に耐えられなくなったのか、俺のそばに来て腕をつかみ身をすり寄せた。


俺は、戦車に向かって脳内で話しかける。


(10式。何かあればすぐに重機関銃を撃てるようにしておけ)


10式戦車の重機関銃は、主砲砲身とは別に一丁が砲塔上面に装備されている。

奴は狙われていることに気がつかない筈だ。戦車までは、ここから少し距離がある。

いくらドラゴンでも、今は人間形態だ。重機関銃でも、当たれば多少の効果はあるかも知れない。


妖精が俺の思考に割り込んだ。何故か彼女は楽しそうだ。

「相手の視界にある剣の方は下ろさせて、後ろにある銃で、こそこそと狙いをつける…と。中々に性格悪いですね。ついでに言えば、相手は少なくとも外見は少女ですよ。良心が痛みませんか?」


(奴の外見はまがい物だ。それに俺は性格が悪いのでは無く、慎重しんちょうなだけだ)


「そういうとこ大好きですよ。それと注意してください。相手は部分的ですが思考を読みます。妨害しておきますけど」


こちらをにらんでいるドラゴンに、俺は話しかける。

「自己紹介が終わったところで、用件に入ろうか。改めて尋ねる。

一体何の用だ?」


「私は様子を見に来ただけ。新しい種族がニューワールドに来て住み着いたと思ったら、いきなり同族同士で殺し合いを始めてあっけなく全滅した。あんた達の仲間なんでしょ? 騒がしいったらありゃしない」


「同族同士の争いだと?」 こいつの言ってるのは、エトレーナが送った第一次移民団の事だろう。

このドラゴンは戦いを見ていたのか? 敵の正体を知っているのか? 同族同士とはどういう意味だ?


「どうせ元の世界で追い出されて、ニューワールドに流れて来たんでしょう? 一応この区域は、私たちも監視してるの。凶暴な奴らが住み着こうとしているのなら、こっちも注意する必要があるからね。それなら実力行使を考えるわ。

ただね…」


「…あの程度の戦いで、全滅するような弱っちい奴は問題外。その程度の力でこのニューワールドは、生き延びられない。余計な苦労しないでよかったかもよ。どうせ、すぐに滅びるし」


カミラが気色けしきばむ。

「我らを愚弄ぐろうするつもりか。弱いかどうか試してみるといい」


カミラはさやから剣を引き抜き、シルバームーンに向かって構える。

刀身は青白い光を帯び、ブーンという警戒音を発している。

摩獣であるドラゴンに反応しているようだ。

カミラの家に代々伝わる、魔剣ノートゥングだ。


「あんた、あの戦いの生き残り? ふーん。それはそれは。

ところで、その玩具おもちゃの剣で何をしようとしているの? 私を愚弄ぐろうしているの? それとも、笑わそうとしているの?」


「なんだと?」 カミラは剣を構えたままドラゴンに、にじり寄る。


「カミラ、待て」 俺は割り込んだ。


「シルバームーン。喧嘩を売りに来たのか? 王国の防衛を預かるものとして、ユリオプス王国を侮辱ぶじょくする言葉は許さん」


「威勢がいいわね、カザセ。ところで、あんただけ他の人間と見た目が違う。 黒い髪に黒い瞳。肌の色も違っているわ。

大方、雇われた用心棒ようじんぼうってとこかしら? ご苦労なことですけど」


「それが、どうした?」


「保護者気取りもいい加減にしときなさい。恥ずかしいから。

さっきの攻撃程度で勝った気になっているのなら大間違いもいいとこ。あんな豆鉄砲でドラゴンに勝つ? 笑わせないでよ」


俺はカッとなったが、頭の冷静な部分が俺に警告する。

こいつは俺を怒らせようとしている。何故だ?

奴の行動は一貫していない。平和目的だと言って攻撃せずに近寄って来たと思ったら、いきなり挑発ちょうはつしだす。目的はなんだ。 


ジーナが、たまらなくなったように声を上げた。


「お前なんか。お前なんか。お前なんか、ユウの調子が完璧なら、今頃生きてなかったんだぞ」

ドラゴンは興味深そうにジーナを見る。


「負け犬は、実力不足をいつでも体調のせいにするのよね」


「実力不足って、どの口が言ってるのさ? 一つの街を一瞬で壊滅かいめつさせたユウの力をつかえば、お前なんか…」


「街を一瞬で壊滅? 大口を叩くのもいいかげんにして。あり得ない。あの武器にそこまでの性能はないわ」


「お前の身体なんかより、ずっと大きなセンリャク・バクゲキキを何百も召還して…」


「センリャク・バクゲキキ? それで強そうな名前のつもりかしら?」

余裕めいた笑顔を無理やりに張り付けた顔と違って、目は笑っていない。ジーナの言葉を一言も漏らすまいと耳を傾けている。


こいつの行動は、やはりどこかおかしい。

最初にこっちに好きなように攻撃させてみて、戦車の砲弾を受けると突然こちらに会いに降りてきた。こっちを全滅することも出耒たのに…だ。

そして今は、兵器の説明を一言も漏らすまいと耳を傾けている。


そうか…シルバームーンの目的が分かったような気がする。少なくとも仮説は成り立つ。割とシンプルな理由だ。

奴の目的はこちらの戦力評価。好きに攻撃させて、こちらの力を見定めようとした。

特に俺の兵器に興味を持った。ドラゴンの装甲を部分的だろうが貫徹かんてつしたからな。


こちらを挑発ちょうはつしてるのは、こっちが素直に情報を渡さないと思っている、と考えればつじつまは合う。

怒らせれば、大事な情報を漏らすとでも考えているらしい。


ただし疑問は残る。こちらを敵と認識しているのなら、何ですぐに殺してしまわない? 何でそこまで俺の兵器にこだわる?


仮に情報が欲しいとしても、なんでもっと強圧的に出ない。最悪、こちらを無力化して拷問してもいいはずなのだ。現状は奴にとって極めて有利だ。

今、俺に出来る対抗手段は限られている。

奴の行動は憎たらしく見えるが、実際にやってることは、まだまだ平和的だ。


「シルバームーン。慣れないことは止めておけ。挑発しているつもりだろうが下手すぎる。俺の力、兵器召還能力のことなら教えてやろう。

相手を怒らせて情報を得ようとするのは、お前には無理だ。その代わり、あんたが知っている事は全部教えてくれ」


シルバームーンは、びっくりしたように黙り込む。

そして思い直したのかキッと顔を上げ俺を睨む。

ありゃ、顔がちょっと赤い。俺の言葉は、図星ずぼしを突いたようだ。


「本当に性格悪いわねっ。あんた!」


「その言葉は不本意ふほんいだ」


「街を壊滅かいめつさせたって本当?」


「本当だ。ユリオプス王国の防衛のために敵の軍事都市を一つつぶした」


「あんたのあの武器。あそこの鉄の塊!」 彼女は10式戦車を指さした。


「戦車がどうかしたか?」


「強力な武器なのに魔力を感じない。それなのに私の防御を突き抜けたっ! 魔法を…マナを使わずに動いているのっ?」


「ああ。マナは使っていない。魔法で動いている訳ではない」


シルバームーンは、考え込み始めた。


「シルバームーン、どうした?」 俺は黙ってしまった竜に不安を感じ声をかける。


「…私の父上に会って欲しい」 彼女は決心したように言った。 


竜の娘の父親に会ってどうするんだ? 

さっき、こいつは自分のことを族長の娘とか言っていた。

俺をユリオプス王国の代表として扱い、何かの取引をさせようとしている?


「何をさせるつもりだ? 断っておくがお前との、結婚の許可を貰うつもりは今のところないぜ」


シルバームーンの顔は真っ赤になった。

「…そんな訳あるかっ! 何考えてるのよっ! 同盟結べないかって思ってただけ!」


「同盟か。じゃあ、お前の行動の理由を洗いざらい、言ってもらおう。

第一次移民団が戦っていた敵のこともな。信頼関係がないと同盟なんて結べるもんじゃない」


「分かった…わよ。…本当に性格が悪い。あんた」 


悔しそうに言う姿は、可愛かった。勿論もちろん、認めるのは不本意ふほんいだ。 当然の話だ。

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