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騎士-カミラ・ランゲンバッハ


ニューワールドに行ったら、召還システムの再調整をしなければならない、と妖精は言う。

この世界から見ても、あっちは異世界なのだ。システムはそのままでは動かない。

調整が終わるまで機能に制約がある。

制限がいつになったら解けるのか、そこらは妖精の頑張り次第だ。


召喚能力に制限を受ける事で、城に戻るべきか少し悩んだ。何と言っても俺の能力はチーム最大の攻撃力を持つ。


調査の人員を増やしてやり直すべきか? 妖精にハッパをかけて、もう少し調べさせるか?

しかしニューワールドへは何時いつでも行ける訳では無いのだ。門の開くタイミングは月の満ち欠けに依存し、今回を逃せば2~3週間先になる。

そこまで時間に余裕は無い、と思う。


止むを得ない。このまま調査を続行することに決める。

召喚が全く出来なくなる訳じゃあない。


騎士団長のカミラと筆頭魔術師のジーナ、他のメンバーが俺のところに集まって来た。そろそろ遺跡に入る頃合いだ。

地下にあるニューワールドへ通じる門へ急ごう。


俺はジーナに話しかける。


「すまない。しばらく俺の力は弱まる。その間のアタッカーはジーナ、君だ。 敵が襲ってきたらよろしく頼む。ジーナのことは全力でまもり、サポートする」


マナの濃度が濃いニューワールドでは、魔術師たちの力は底上げされる。筆頭魔術師である”天才”ジーナの魔法の威力はかなりのものになる。ジーナを調査団のメンバーに引っ張り出したのはそれが理由だ。


「ええっ! ユウに任せて、僕は楽が出来るって思ってたのに。頑張るけど大丈夫かな? 不安だあ。早く力を取り戻してね。心細い」


「ジーナなら、大丈夫だ。頼りにしてる」


俺はカミラに向き直る。あらためて見る彼女の美しさは、確かにエトレーナと並ぶ。

「俺はジーナの防御を優先する。指示が無い場合、カミラもそうしてくれ。

もし接敵せってきしてジーナが落ちるような事になれば、全滅の可能性が高い」


「…了解した。カザセ殿の力は、今回どの程度、使えそうなのだ?」


「銃を含む個人用火器、それと装甲車両が少しばかり呼べる位だと思う。

ここの世界の言葉で言えば、魔法の杖と鋼鉄の眷属けんぞくたちを少し呼べる…ってとこだ」


「そうか。私も少しは役に立てるかも知れない」


カミラは騎士だが、魔法剣士の家系の生まれだ。つまり剣と魔法、両方の力を使って戦うのが彼女の本来のスタイルなのだ。

しかしマナが希薄となってきたこの世界では、魔法剣士の魔法に出番は無くなっている。彼女らの魔法は専門家に比べれば弱いし、マナ不足で発動しない時もある。


しかし、ニューワールドでは話は違う。マナが豊富なニューワールドでは、本来持つ魔法力を生かせる筈なのだ。

前回の移民団の護衛の失敗には、彼女に不幸な条件が重なった。実力では無いと思う。


最後に全員に向かって話しかけた。

「今回の任務で最優先すべき事は、敵の正体をあばくこと、それと敵戦力の把握はあくだ。 

交戦は出来る限り避けろ。不必要な危険は犯すな。生きて帰れ。王国の運命は俺たちの調査次第だ。

皆の働きに期待している。

もし俺がヘマをやって戦闘不能、もしくは戦死した場合には後の指揮はカミラに任せる。

以上だ」


カミラは眉を少し吊り上げ、何か言いたそうにしたが黙ってしまう。

ジーナは抗議する。

「ユウは死なないよ。ユウが死んだら、僕たちはもうお仕舞しまいなんだ。待っている王国の人たちも。皆で帰ろ? ね?」


「…万が一の為だ。そう簡単には死なない」


「カザセさん。よろしく頼むぜ。俺には新婚の奥さんが家で待ってるんだ」

カミラが顔をしかめた。発言者はカミラの部下の騎士だ。


そうだな。俺にもエトレーナが待っていてくれている筈だ。



石造りの通路を地下に向かう中、俺は以前にカミラとした会話を思い出しながら歩く。

彼女は全滅した移民団の護衛責任者だったが、敵をほとんど見ていない。


移民団の開拓村が襲撃しゅうげきを受けたとき、カミラは数名の部下を引き連れ偵察任務にいていた。

護衛部隊の本体を開拓村に残しておいたにもかかわらず、戻ったら村は全滅していた…と言う訳だ。

そして敵は執拗しつようだった。カミラの隊を確認すると追撃ついげきを開始する。


敵の姿を確認できないまま、いきなり部下の上半身が飛び散る。

一方的な虐殺だった。近距離で何かが爆発しカミラ自身も負傷してしまう。

二名の部下に連れられ、王国に逃げ帰るのが精一杯だった、


「カザセ殿。開拓村には住人の亡骸なきがらがそのままになっている。とむらいの為に時間を割いて欲しい」


「分かった。可能な限りの時間をこう」


「すまない」


カミラは決心したように俺に向かって話し始めた、

「私は敵が憎い。だがそれ以上に、おめおめと逃げ帰った自分を許せない。 敵と差し違えても虐殺された開拓村のかたきはとる。それが私のつぐないだ。復讐の為には命なぞ惜しくはない。敵に思い知らせてやる」


「自分の死に場所を探しているのか? もしそうなら迷惑だ」


彼女はカッとなったようだ。 怒りの目で俺を睨む。

「迷惑だと? 私を侮辱ぶじょくするつもりか?  いくら貴殿きでんでも許さない 」


「迷惑だな。事実を言ったまでだ。俺は死にたくないし、今生きている王国の人々も救いたい。目的を忘れ、自己満足で死ぬ為の戦いを求めている足手まといは不要だ」


女騎士は唇をみ、俺から目を逸らした。

「”魔神もどき”は、冷たいんだな。人の感情を分からぬと見える。血は流れているのか?」


「そうか? 俺は女からいつも、”優しい”と言われる。その後”恋人としては物足りない”と言ってフラれるがな」


カミラは罪悪感に苦しんでいる。苦痛を少しでも取り除ければいいんだが。

「カミラ。疲弊ひへいした王国の戦力で、獣人たちを追い払いながら移住を行うのには無理があった。ニューワールドで、”まともな”敵が現れた時点で、王国の負けは決まったんだ」


「自国を守るだけで精一杯だった王国に、移民の為に十分な戦力を送れる筈はない。誰がやっても戦いは負けたろう。カミラが悪いわけではない。

罪悪感に苦しむ必要は無いんだ。の悪いけを強制されて、そして負けた。それだけだ」


「…しかし」


そして彼女は無理に微笑み、言った。彼女の笑顔はめったに見ないが、魅力的だった。

「この議論はしばらく棚上げだ。私の無礼ぶれいは許して欲しい。それと、あなたを振った女には私から文句を言っておく。事実に反するとな」 


その文句は、”優しい”という部分に対してか? それとも”恋人として物足りない”方か?

王宮で一位二位を争う美人の言葉は、俺を悩ませた。


俺たちは地下の目的地に着いた。地下には大きな部屋があり、壁には門の絵が描かれている。

門の片側には疲れ果てた難民のような人々が描かれ、もう一方には笑みを浮かべた人々が草原で花や小動物に囲まれ、幸福そうな人々が描かれている。


「ここだね。いかにもそれらしい」とジーナ。


「じゃあ、門を開くね。はしの方で見てて」 とジーナは言うと、呪文の詠唱えいしょうに入る。

ゲート解放の呪文の解読には、ジーナがエトレーナに協力している。当然、ジーナも呪文は知っている。

長い詠唱だ。俺は物珍しさもあり、彼女の踊りのような詠唱のジェスチャーをじっくり眺めた。


「…門の守護者、ギルアデールよ。我は全てをつかさどる王なり。我がめいに従い楽園への門を開けよ」最後にそうジーナが唱えると、壁の全面が輝き始める。


いきなり周囲の壁が消え去り、俺たちはニューワールドに居た。


警告音が脳内に響き、視界に文字があふれる。


――――……――――……――――……――――……――――……――――……

*非常*非常*非常*


警告:空間転移を検知

トライデントシステム切断。現在、兵器の召喚不能。

状況調査中。

――――……――――……――――……――――……――――……――――……


来たか。予想していたとおり、召喚システムがうまく動かないようだ。


「妖精よ。 システムの具合はどうだ? なんとかいけそうか?」


「現在、悪戦苦闘中あくせんくとうちゅうです。待ってください。しばらく待って! 何とかします!」

忙しそうだ。ここはまかせるしか無い。


「おお。ここが異世界かよ。思ったよりいいとこだな」 騎士団のメンバーが言う。


「何か気分がいいぜ。清々(すがすが)しい」


俺たちは今、林の中に居る。背の高い木々に囲まれて、5メートルほどの幅の平坦な道が通っている。

道の表面は柔らかな地面だ。木々の隙間から、向こう側に広い草原が見える。

木漏こもれ日が、穏やかに俺たちを照らす。

空気が清々しい。綺麗な自然公園に居るようだ。


ジーナは胸いっぱい空気を吸っている。

「気分いいー。マナもたっぷりある。ニューワールドって凄い綺麗きれい


カミラが警告した。

「油断するな。正体不明の敵がいる世界なんだ」


「カミラ。開拓村への道は分かるか?」


「この道だ。しばらく真っ直ぐ行くだけだ」


俺たちは、林の中の道を移動する。林から草原へ出るところで俺は立ち止まる。

いくらなんでも草原は敵に見つかる可能性が高くなる。銃が欲しい。妖精は何をしてるんだ。


危機はすぐに訪れた。

「ユウ。強い魔力を持つ物が、こっちに飛んで来る。あそこっ!」


ジーナが空の一点を指差す。何かが高速でこちらに飛行中だ。

俺たち目掛けて飛んで来る。

点はみるみる大きくなり、姿を確認出来るようになった。 あの形は。


「ドラゴンだ」カミラがあえぐ。


「どうしよう? ドラゴンに魔法なんて通じないよ。無効化されちゃう!」ジーナが泣きそうになって叫ぶ。


俺だってドラゴンが最強の魔獣だと言うことは知っている。

どうしたらいい? ここで死ぬ訳にはいかないんだ。

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