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出発


俺たち調査団がニューワールドへ旅立つ日になった。

結局、カミラの必死な願いで調査団には彼女が参加し、ラルフが王宮の守りのために居残ることになった。


昨日は簡単ながら、旅の無事を祈る食事会が設けられ調査団のメンバーと飲み食いした。

カミラは物静かだったが、ラルフとジーナは盛り上がった。同行する予定の騎士団の剣士たちも気のいい奴らだった。 


祝いの席で出された食事は、野鳥や獣の肉を焼いて簡単なソースをかけたものや、野菜のスープなどシンプルなものだった。しかし長らく戦乱にあったこの地では、精一杯のご馳走の筈だ。

だが中々美味い。ありがたく頂戴ちょうだいした。

米の飯は当然ながら食えなかったが、冷凍食品で簡単に済ませることが多かった俺には、十分すぎるご馳走ちそうだった。

昨夜は、久しぶりに酔っ払って床についた。


今日は、早朝の出発だ。早めに起きて着替えているとノックの音がある。


「誰だ?」


「私です。 エトレーナです」


エトレーナとは、もう別れの挨拶はした。皆と一緒だったが。

急いで扉を開けると、彼女は急いで部屋に入って来る。

着ている服はいつもの執務用のフォーマルなものではなく、部屋着のような薄着だ。


「やあ。おはよう。いよいよ今日だな」


「やあ、ではございません。私に何も言わずに、そのまま発たれるおつもりだったのですか?」


いや、いや。挨拶はしたよ。昨日。


「挨拶は…」

全部は言えなかった。 エトレーナが抱きついてきたからだ


「私も一緒に行きたかった…」


そう。当初はエトレーナも調査に同行することを強く主張した。

女王の立場で危険な土地におもむくのはいかがなものか、と俺がさらに強く反対したので、結局のところ彼女はあきらめた。


俺の方に反対せざる得ない事情があったからだ。 

何かあった場合、女王を守りきる自信が無かった。特に今回の任務は危険過ぎる。


「言った筈だ。今回は無理なんだ」


渋く言ってるつもりのセリフの裏で、俺はエトレーナの身体が気になってしょうがない。


彼女の服は薄く、身体のラインがもろに分かる。こちらも着替えの途中で薄いシャツしか身に着けていない。

均整のとれた美しい身体を、そのまま自分の肌に直に感じながら彼女を抱く。 

結果、胸やら何やらが、そのまま押し付けられている状況だ。

そして、エトレーナの髪の匂いと女の甘い体臭に俺は包まれる。


「…でしたら、今はこうしてカザセ様のご無事を祈らせてくださいませ。それともう一つ。お祈りしたい事がございます」彼女は甘くささやく。


「どういう願いだ?」


「カザセ様が、カミラと間違いを起こしませんように」


いや。いくらカミラでも、気に喰わないからっていきなり俺に切りかかって来ないと思うぞ。

もう仲直りしてるし。その点は大丈夫だ。


「カミラの美しさは家臣かしんの中でも際立きわだっています。私は心配しているのです。カザセ様は美人と見ると節操せっそうがございませんし、カミラもカザセ様に気がある様子」


一体何処(どこ)をどう見たら、カミラが俺に気があるように見えるんだ?

あれで、俺に気があるようなら女性の99.999%は俺に気があるって事で間違い無い。

いくらなんでも心配のし過ぎだ。 


もしかして…エトレーナはかなり嫉妬しっと深い?

彼女は俺と二人きりになると、人前ひとまえの時と態度が変わってしまう。

どう言えば分かってもらえる?

俺はうめいた。



調査団のメンバーと合流する為に城門に向かう。騎士団の部下たちが見送りの為に集まっている。それに加えて数人のジーナの部下、っていうより同年代の魔術師仲間が少しばかり来ている。

魔術師はもともと全体の数が少ないからな。見送りも少ない。


俺の同僚の渡辺ユカが実体化して皆の中に紛れ込んでいる。今回は妖精の姿では無く人間の身体だ。

彼女の実体は兵器召喚システム・トライデントが造っている擬似人格なのだが、とてもそうは見えない。ラルフと何やら話し込んでいる。


ラルフを見てみると、…ああ、俺には分かってしまう。同じ男だからな。

ラルフは渡辺ユカの反応を心配気に見て、彼女が笑うと安心したように嬉しそうに笑う。彼女の言った事にオーバーに反応し、なんとか歓心かんしんを買おうとしている。 

分かりやす過ぎるぜ、ラルフ。 彼は、我が同僚に気があるようだ。


ラルフは、渡辺ユカが人間じゃないのは理解している筈なんだが。

恋愛の相手としては止めておけ。 

身近にカミラみたいな美人がいるクセに、物好きな奴だ。


「風瀬さんの失礼な思考を検知致しました」


妖精、いや。 今の彼女は渡辺だった。 渡辺ユカはラルフとの話が終わると、俺の車に来て前席に乗り込んで来る。

この車は、先ほど召喚しておいた軽機動装甲車で、大型のジープのような車両だ。自衛隊時代に良く使っていた。


「私が人間でないのは確かです。しかし今の状態では、ほとんど肉体的には変わりありません。お疑いのようでしたら確かめて見ますか?」


「頼むから、周りの人間関係を複雑にしないでくれ。ラルフにちょっかい出すな」


「例え風瀬さんでも、人の恋愛に口を挟むのはマナー違反では?」 妖精は明らかに面白がっている。

俺は少しムッとする。


他のメンバーが馬に騎乗きじょうして進み始めたので、俺も車を発進させた。

周りの人間が、威勢のいい言葉と共に俺たちを見送る。俺は運転しながら適当に手を振って、それに応えた。

ミラーをのぞくとラルフが俺の車を、名残惜なごりおしそうに見ている。賭けてもいいが、奴の視線の先は俺じゃない。


「怒ったんですか? 冗談ですよ。私が好きなのは風瀬さんだけ。知ってるクセに」


この話題を続ければ彼女の術中に、ハマる。 形勢不利を悟った俺は本題に入った。

「情報は、入手出来たんだろうな?」


彼女に頼んで”ニューワールド”について調べてもらっていたのだ。


「残念ながら予想通りの悪いニュースです。インフィニット・アーマリー本社のデータベースにも”ニューワールド”の情報はありませんでした」


「ニューワールドで兵器の召喚は出来そうか?」 


「何とか最低限度の稼動レベルは維持するつもりですが、この前やった戦略爆撃機200機を呼び出すとかの大技おおわざは不可能です。 本社にも登録が無い未知の世界ですので、システムの再調整が必要です」


そう。エトレーナが俺と一緒に行くのをめたのは、これが主な理由だ。

ニューワールドで俺の力は、制限されてしまう。

戦闘能力が全くない彼女を守り切る自信が無い。


「どれ位の力が使える?」


「個人用火器の召喚は出来ると思います。装甲車両も一両や二両位なら。

車両の質量を無理やり個人火器用の回線に押し込んでみます。詳しくは現地に行ってみないと何とも言えません。

なるだけ早く、全部の機能を使えるように努力致します」


「そうか。 敵がそれで引き下がってくれれば、いいんだが」


我が同僚は、珍しく心配そうな顔をする。

「風瀬さん。任務のキャンセルは可能です。

報酬は支払えませんが、リスクが高すぎる作戦の場合、風瀬さん達オペレーターには拒否権きょひけんがあります」


「いや。いい。キャンセルはしない。

乗りかかった船だ。与えられた条件で対処する」


「風瀬さんなら、そう言うと思っていました」


妖精はちょっと考えこんから、言った。

「王国を救おうと必死で優しい風瀬さんに、私からプレゼントです」


「チョコレートなら不要だ。俺は義理チョコ否定派だからな」


「プレゼントの中身は情報ですよ。本社のデータベースに”ニューワールド”はなかった。何を意味しているか分かりますか?」


「いや」


「”ニューワールド”は、何らかの目的の為に造られた人工的な世界だと言うことです。どういう目的で誰が造ったのかは、分かりません。

風瀬さんの居た世界や、ここ王国のような自然に生まれた世界なら、全て本社に情報があるはずですから。情報が無いと言うことは、そういう事なんです」


造られたって? 異世界を丸ごとか? まさか。しかし…

「危険すぎると思うか?」


「分かりません。 だから調査に行くのでしょう?」

妖精は、微笑ほほえんだ。



目的地の遺跡いせきに着く。 ここの地下に”ニューワールド”へつながる門が出現する。


「では、私は一先ひとまずここで。でもお忘れなく。

私は何時でもあなたと共にあります」 と言って妖精は消えた。 俺も乗っていた車を送還して存在を消すと、石造りでち果てた古代の廃墟はいきょに向かう。

今では信者もいない、忘れられた古代の神の神殿だ。


魔術師のジーナが、小さめの馬から降りてこちらに向かってくる。

「ユウ、今日は一緒に頑張ろうね」


「そうだな。頑張ろう。よろしく頼む」


「一緒に居たあの人がユウの同僚の人? 美人だね。 びっくりしちゃった」


「…外見はな」


カミラと他のメンバーが来るのを待ち、俺は声をかけた。


「行くぞ。 パーティの時間だ」


し、しまったこの言い回しでは通じないんじゃないか?

俺のキャラで、渋めのリーダーってのはなかなか疲れる。

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