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9/31

4/23 午前中

「またしても全校集会かぁ」

「学年主任あいさつ、生徒会議事、先生紹介……時間掛かりそうだな」

「どうして昨日にまとめてやらなかったのかねぇ」

「学年主任はともかくとして、先生紹介は昨日でも良かったよな。それにしても生徒会か」

「なんでも学校外との交渉役を担うことが多いんだって」

「ほとんどここの学校の周りって何も無いんだが」

 そう、このJIGUD周辺には何も無い。そう言うと極端だが、食料品衣料品店やほんの少しの電化製品店などを除くとこの校区内には何も無いのだ。学生や職員の寮を除けば民家すら無い。

「だよねぇ、カラオケの一つや二つあればいいのに。長嶺くんの美声を聞くチャンスが潰えたじゃないか」

「や、歌うのは苦手で」

「踊るのは得意なんだ?」

 何だその二択。アイドルグループに所属した覚えは無い。

「指月は得意なのか」

「ふっふっふ、良くぞ聞いてくれました。実のところ最近はまっているグループがいまして」

「あんまり俺は聞かないからなぁ。何ていう名前だ」

「químicaキミカっていうグループでさー。常に何かの楽器メンバー募集してて、『次のメンバーは君か!?』みたいなジョークを公式から出しててさ」

「……化学、だっけか」

「知っていたんだ?」

 あっけにとられた表情をする指月。

「いや、スペイン語にそんな単語があった筈」

「普通の高校生はそんな知識はないと思うんだけど……」

「あんた学力テストで校内最下2位タイ(ブービーズ)だったろ、普通を名乗るのは無理がある」

「テヘペロ」

 そのセリフは女子になってから出直して来い。


 真っ先に執り行われるのは、学年主任になった岡土筆さんの就任挨拶。

 彼女はめちゃくちゃ緊張していたが、大丈夫だろうか。台本代わりのカンペは行く途中に風に飛ばされ無くしたらしいし。手のひらに人を書いて飲み込む方法はだんだんと『人』と『イ』がゲシュタルト崩壊してきたと言い出す始末だし。教室でなぜか文房具を爆発させるし。

 そうこう考えているうちに、壇上に彼女がやってきた。

「2年生、3年生の皆さん初めまして。同じ学年の皆さんも、こうして挨拶をするのが初めてだと思います」

「学年主任、そのほか生徒会などが担当するのは魔法の不正使用に関する事項です」

 つまり本当に学級委員長ポジションだったわけで。

「私たちは魔法を扱います。私たちでともに自らの魔法の技量を高めあうのは勿論ですが、同時に魔法を扱わない人たちと情報の交流を深める必要があります」

 学校の周り、魔法を使わない人の方が少ない気がするんだが。職員さんとか売店の人たち除くけど。

「私たち個々人に、より責任があることを自覚してこれからの学生生活の指標としたいと思います」

 なにはともあれ、あんなに緊張していた彼女がここまで綺麗に言えたのは素直に驚いたし、良かったと思う。

「最後になりますがこれから一年間、よろしくおねがいしまひゅ!」

……惜しかった。



 次に生徒会長あいさつから始まる生徒会議事。

「現在高校部で研究している『魔術電気回路開発部』ですが、この研究を大学部と共有することでより発展した研究を実行したいと思います、つきましては皆様の賛同をお願いします」

 壇上にやってきたのは、白衣に身を包んだあからさまに研究者らしい容貌をした人物。……3年生の先輩らしい。マジか。

「なにか意見のある方は――」

 にわかに向こう側でざわざわした声が上がる。よく見ると立ち上がって手を挙げている人物がいた。司会役が、とてとてと走っていってマイクを渡す。受け取った人物は、俺がこちらに引っ越してきた初日に大量の買い物をしていた3年の先輩。

「大学部に持ち込まれる研究ですが、生体に関する研究は完全にストップする予定ですか」

 壇上に上がっていたほうはというと、その質問を想定していたかのようにメモを取出し返答する。

「今回大学部に持ち込まれる研究は電気回路の魔術的応用に関する分野のみです、その他の研究については引き続き高校部での研究をしてもかまわないとの連絡を受けています」

「殆どの部員は大学部との研究に参加するということでしょうか」

「部員個々人の判断はそれぞれに委ねられますが、多くは大学部での研究を望んでいます」

「大学部にもちこまれないであろう研究は誰も担当しないと」

「あくまで個人の範囲で担当される可能性が高いです」

 それを聞くと、質問者側の先輩がどこか残念そうに肩を落とすのが見えた。

 その後、議事は適当な質問を受けつつ無事に可決したのであった。


 解散して教室にもどりつつある体育館。見覚えのある人物がやってきた。緑のジーンズにフード付トレーナー。以前出会った時と似た服装だった。

「どうも、部員が一人増えたみたいで」

「先輩は入らないんですか、カーニボアっぽい先輩」

「人を見かけで判断してはだめだよ長嶺くん」

 見た目だけなら肉食っぽくは見えないんだが。むしろ絶食してそう。

「さっきの質問だけど、もう部活に入っているから無理だったんだ。部活掛け持ちは出来ないシステムだからね」

……だった? 疑問を浮かべる俺に、先輩は続ける。

「さきほどの決議は聞いてたよね、寝ていた風ではなかったし」

「電気部の研究が大学に持ち込まれる決定でしたよね」

「あれがキッカケでね、こちらが本来やりたかった研究が出来なくなったんだ。それで俺は部活を抜けることにした」

 理屈は分かった。だが。

「そんな簡単に抜けても大丈夫なんですか」

「まぁ、前のやつらは大丈夫さ。電気のことだけ研究していたいっていうマニアックな連中が多かったしさ」

「先輩がやりたい研究って、なんだったんですか」

 長いこと、沈黙が流れる。

「秘密?」

えらく押し黙った先輩。しばらく硬直したようだったから、こちらもリアクションに困ったぞ。

「……さいですか」

「ま、あれだ。放課後話があるから体育館裏に来てくれ」

「申し訳ないですけど俺財布とか持ち歩かないタイプなんで」

「や、そんな手荒なことはしないからさ。ちょっとした相談だよ」

 少しゴネてみる。

「ここでいいじゃないですか、どうせ今から中休みですよ」

「放課後までにちょっとしたサプライズの用意があってね」

 ネタ晴らししたらサプライズもへったくれも在るだろうか。

「分かりました、少し遅れるかもしれませんが放課後に」

「頼んだよー」

 ひらひらと手を振って人の込み合いに消えてゆく野菜を食べない先輩。……そういえばだが、彼の名前を聞いていなかった。まあいいや、後で聞いておくとする。

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