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4/22 放課後[入部勧告:夕食の時間]

「何故に目覚まし時計を」

 積み上がっていた荷物を解体した後、俺は岡さんに尋ねてみる。第一彼女が明らかに持てないほどの量をどうやって先生が渡したのかというのも分からない。

「け、今朝遅刻したもので……!」

「こういうのって時計の中に何か仕込んであるよ、推理小説のトリックとかで」

「なるほど爆発するのか、岡さんだけに」

「あ、あうう……私のイメージ爆発ですか」

「芸術的だね」

「爆発を芸術というのは多分違うぞ指月」

「逆は大丈夫なのに? なんだっけ、数学のツイッグーだっけ」

「対偶の覚え方に工夫があるとは思うけどそのまま口に出すのはどうよ」

 ついに岡さんが問を口にした。

「わ、私達は一体何処に向かっているんですか!?」

「漬物部室」

「つ、つけもの?」

「まだ部活じゃないよ、部室を居候している状態」

「い、いそうろう!?」

 普通に歩いているだけなのに岡さんがもうグロッキー状態に陥っている。一体職員室で何を言われたのだろうか。

「そういえば岡土筆さん、だっけ? 僕は指月直って言う名前。職員室で何かあったの?」

「は、はい! よろしくお願いしまふゅ!」

 噛んだのか今の。噛んだことに気が付きつつもなんとか先を続けようとする岡さん。

「それが、職員室で先生に大変なことを言われてっ……!」

「大変なこと?」

「私が、学年主任に、なるって」


 学年主任。ほう。

「それって何?」

 わからぬ。首を振っておこう。

「わたしも分からなくて」

「分からないで慌ててたんかい!?」

 3人で生徒手帳を開いてみる。因みにこの手帳、ポケットに入れるには少し大きいサイズなので制服に「学生手帳用ポケット」が付けられている。実際に学生手帳を入れている人物がどれだけ居るかは不明だが。


「あったあった、『学年主任は当該学年の生徒の内、もっとも魔術において素養のある人物が教員らにより選出される。学年主任は様々な学年行事において学年の総意をまとめ、かつ校内及び校外の如何に関わらずより良い学生活動を行う生徒達の監督、支援を目的として行動すること』」


 なるほど。

「つまりは学級委員長みたいなポジションか」

「あれ、総務委員って言わないの?」

「も、も、もっとプレッシャーかかるようなこと言わないでくださいー!」

 ワタワタしてる岡さん。これが授業中だったら振動源となって俺の机を揺らしていたのだろう。



「漬物部室って一体何処に有るんでしょう……?」

「間借りだけど、部活棟の一番上の階だよ」

「そういえば4階には運動部が多かったような。あと変な名前の部活が多かった」

「高いところが好きなのはバカと煙と芋砂と相場が決まっているからね」

「別に決まってねーよ」というか芋砂と言って分かるのか。

「ゴ、ゴメンナサイー!狙いが全く定まらなくってゴメンナサイ!」

 知ってたんかい。意外だわ。


 そう言いつつ部室、申し訳程度に暖簾が掛かっている倉庫へ。

 戻ってくるやいなや、白石先輩がとんでもない勢いで新人候補の元へ駆け寄り手を取る。

「一緒に漬物作りましょう!」

「へ、わ、はわっ、あわわわわ!?」

 だいぶ新しいリアクションを見れた。数十年後には流行ってるだろうか。

「白石先輩、いきなり言われてもたぶん分かりませんよー」

「そうですね、順を追って説明します! まずは漬物を作ります」

 ふりだしがそこなのか。

「料理部のようなものと思ってもらって良いはず」

「翔っち、その略し方はあんまりだと思う」

「指月くん、その呼び名は初めて聞いたがやめて欲しい」

 具体的に言うと今までの人生で初めて聞いた。故に呼ばれ慣れていない。

「ま、話を戻すとして」

 戻された。今後の生活に関わる重要な話題だというのに。

「白石先輩、長嶺、僕の3人で今漬物部を結成しようとしているんだ。それに参加して貰えたら嬉しいなって」

「け、結成には何人必要なんですか?」

「あと3人だな」

「新入生さんが加わったらあと2人ですよ!」

 取らぬ狸のなんとかかんとかである。

「今なら冷蔵庫にあるキュウリと白菜と人参のお漬物をお付け致します!」

 通販番組でも見てるのか俺は。そんな訳のわからない抱き合わせ商法に引っかかる人間が居るのか。

「す、すす少し考えていいですか!?」

……この人引っ掛かりそう、主にオレオレ詐欺とかに。



 卓上では味噌汁、ほかほかご飯、そんでもって胡瓜の味噌漬け、いつの間にやら焼いていたのか鮭の切り身。

「先輩、どんなスピードで4人分の料理を用意したんですか」

「料理というのは慣れなのです。繰り返していけば手早くできるようになりますよ-」

 楽しげに言う白石先輩。一人暮らし歴2年ともうちょいの俺でも多分無理だというのに。

――いや数ヶ月だったか? 駄目だ、最近ボケが激しい。

「食器は洗いますんで先輩! というわけでいただきまーす!」

 勢いの良い指月に流されるまま岡さんも頂きます、とやや震えた声で言う。

「お料理はされるんですか?」

 新入部員に尋ねる白石先輩。

「プ、プリミティブな料理って言われてて」

 岡さんの返答。だがそれは果たして褒め言葉だったのかどうか。

「え、何それ凄く美味しそう!」

 多分意味を分かっていない指月。

「一体どんな料理を振る舞ったんだ……」

「ちょ、調味料入れ忘れてました」

 原始的プリミティブ。およそ料理の評価には使われない。

「塩コショウを振り忘れたお肉焼いたとかか」

「や、野菜炒めに塩コショウ振り忘れました!」

 そりゃあかん。

「あぁ、私も一度やらかした事有りましたね」

 納得いったという顔をする白石先輩。男二人は納得してないのだが。主に何故味見を忘れているのかという点に。

「で、でも先輩のご飯はとっても美味しいですっ! ご飯は暖かいし、お味噌汁はしょっぱすぎないし、鮭はちゃんと小骨が取れています!」

 俺の、小骨あったぞ。喉に突き刺さりかけた。

「岡土筆、さんでしたっけ。きっと美味しい漬物作れますよ!」

「え、えええ!? どうして私の名前が分かったんですか!?」

「白石先輩凄い! まさかエスパー的なサムシングも持ち合わせていたなんて」

 指月、岡さん。

 俺達1年生、制服はしてないけど少人数クラスの関係で名札を付けているのを忘れていないか。



「自分には学年主任が務まるなんて本当に思えなくって。一人暮らしも不安なことが多いです」

 岡さんはそう話す。

 やおら考えこんだ白石先輩は、何故か厳粛な面持ちで俺達男衆に向かって言ってきた。

「私にとっておきの秘策が有ります、それにはお二人の協力が必要です」

「なんですか、なんですか!」

 指月が興味津々とばかりに食らいつく。乗ったほうが良いのだろうか。

「……どういう要件です」

「至急今から薬を作ります。研究棟近くにある学生用農園からアンディーブ、クレソン、ケールを採ってきてください」

 学生農園って何時に閉まるんだっけ。確かホームルームあたりで言ってた気がするが忘れた。

「先輩、あと8分しか無いんですけど」

 流石の指月、事前に学校の見回りをしていただけある。

「男子に頼んだ理由の一つです!」

 まさかの先輩特権である。仕方ない、指月を連れてかけ出した。



「漬物部と言いつつ実態は陸上部だったとはこれいかに」

「……いや、多分違うな」

 言いつつ走るペースを小走り程度に落とす。多分コレでも間に合うだろう。

「どったん?」

 どしたん、って言いたかったんだろうけどなんか言えてない。

「帰りはゆっくり戻るとしようか。多分あの2人で話し込んでいる事があるのかもしれん」

「へ、それってどうして分かったの?」

 ポカンとした顔をされた。

「……勘?」

 たぶん。

 同じことを指月に言われたら同じような感想を抱いたと思うが。


 その後の話だが、作った青汁モドキは俺が飲むことになった。

 何故と叫ぶも飲まされた。

 とってもにがかった。

 何か悩みが吹っ切れたのか、岡さんは入部するといってくれた。そのことは今日良かったと思える部分である。

……ただ、戻ってきた岡さんがこっちを見る目がどうもしどろもどろしているというか。いや始めっからそんな感じといえばそうなんですけど。

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