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4/22 午後授業 [彼女の心配ごと]

 昼過ぎて午後の授業。炎クラスに配属された生徒たちは、机に座ってうなっていた。机の上には解けない問題、ではない。裏返しになっていたカード。最初に渡してきた先生はこう言ったのだった。

「この星とか丸とか三角とか書かれてるカード、通称ESPカード。裏返しにして配るからこれをどうにかしてみろ、同じクラスの連中と2人組作ってー」

 どうにかって。そういう経緯で、岡さんと何枚かカードを伏せて向き合う。

「まじめに取り組まないと雷が飛ぶぞー」

 カミナリ親父的なあれでしょうか、と思った瞬間。先生、手のひらにゴム手袋をしてルービックキューブのような立方体を取り出した。

 バァンと破裂音が響いたかと見ると、スフィアの表面に電気が走っている。

――文字どおりに雷を飛ばすのか。

「こ、これどうすればいいんでしょう」

「透視か何かをするのかもね……しばらく見つめてみるか」

 じっと見つめる。

 見つめる。

 見る。

……。

 いや、何が起こるって言うんだ。視点を変えよう、ここは炎クラス。炎っぽいもの想像すれば何かしら出来るかもしれない。


 目を瞑り、頭の中で炎を思い浮かべる。炎といえばメラメラだろうか。パチパチもある。だが、思いついたのは明るい光。

 真っ暗な夜闇も照らす、炎の光。

 原始の世界において人間が外の動物たちに対して優位を取ることができたのは、ひとえに炎によるものだ。

 炎に対して恐怖せず、それを逆に利用する。それこそが人間が文明を得る足がかりだった。

 偶然により生じた炎。雷や山火事を利用して人間は台頭してきた。

 それは即ち、自然を利用して自然に人間が挑んだという事でもある。

 俺にもしも魔法の素養があるのなら、そんな自然現象を利用できるはず。

 先生が見せたような、強烈にして激しい光を思う。いまはカードの裏側に隠れているが、光が強ければ見えるかもしれない。自分の中で光を強める。目を開いて、カードを見据える。

 ふと、白石先輩と自転車部員のことを思い出した。呪文のようなことを呟いていた、あれ自体に意味は無いらしいが。

 じっと考え込んだせいか、頭が熱くなるように感じる。ぼぅっとする。気が付くとあまり息をしていないことに気が付く。

 貯めに貯めた気合を、今この瞬間ぶつける。囁くように、叫ぶ。

かりよ」



 ポン、とカードが燃え上がる。

……すげぇ、できた。


……いや違う!


 あわてて手で炎を押さえる。熱い!いや当たり前だ!

 対面している岡さんもものすごいあわててる様子で手で炎を仰いでいる。

「あーそうなったか、ホイ」

 先生が来たかと思うと、手のひらからスプレーのような水霧を放出させる。

 炎が付いたのもあっという間だが、消されたのもあっという間だった。



 しばらく集中するも、それ以降は上手くいかなかった。対面する岡さんもウンウン言いながらだが、上手いこといってないようだ。

 少しはなれたところで、なにか話している声が聞こえた。

「で、半田!そのカード見つめてたら何か見えてきたか?」

「……二葉、三栄田よ、ものすごいものが見えてきた」

「おお、どうした」

「隣のクラス女子の――」

 ガタタッと2人席を立つ音。

「やーごめん冗談冗談」

 先生の雷が飛ぶ。文字道理の雷。

『あごごごごご!?』

 何ちゅう叫びを上げてんだあの三人。

「今ので5回目だぞ、そろそろ抵抗力出てきたかもしれないが女子へのセクハラ発言のたびやるからな」

 先生、容赦ねえ。というかもう5回電撃喰らってるほどセクハラしてんのかあの3人。

「せ、せんせい……だんだんこのしびれが快感に……」

「やかましいわー!」

 あ、また電撃喰らった。楽しそうな顔してやがる。ああはなりたくないな、と岡さんを見やると何故か羨望の表情。

「――わたし、あの3人のようになりたいです」

 うそん。

「えー……電撃喰らってくる?」

「あ、いやそうじゃなくって」

 そらそうよな。一応聞いてみただけであって。

「仲がすごく良いなと思って」

「そこかぁ」

 いやあの3人に憧れてますとか言われても困るんだけど。色恋沙汰は悲しいことに経験ないし。

「……あの、長嶺、さん」

「どうしたんです」

「どうか、今後よろしくお願いします」

 友達に、ということだろうか。えらく畏まった言い方をする人だなと思う。

「こちらこそ宜しく」

 握手がてら手を出す。震えながらも、岡さんは握り返してくれた。やや俺よりも手は暖かい、と思った瞬間。


 パァンと机の上から音が響く。二人そろってびくっと体を震わせてしまう。

机の上にカードはない。……どこに?と思い見上げると、空中に伏せてあったカードが飛散っている。

 そのうち一枚。

 丸く、そのまま円形に焦げ付いたかのような大穴がカードに開いている。焦げくさい、ツンと鼻をつくような苦い匂いがほんのすこし。ひらり、ひらりと舞うカードを俺は呆けた表情で見つめるしかなかった。

「きゅう」

 そういって椅子に倒れこむ岡さん。

……クラス一斉の視線を浴びる俺たち2人。


……どうしよ。

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