くちづけチョコレート味
バレンタインデー前夜、伝統ある名門、銀華女学院の白嶺寮。
手作りチョコを可愛くラッピングするパジャマ姿のルームメイトに、亜麻音は頬を膨らませていた。
「……何個あるのよいったい」
他の女の子にチョコをあげるの自体、面白くないのに。
不機嫌な亜麻音へ、ルームメイト悠羽は、
「もう、妬いてるの? だいじょうぶ、全部友チョコだよ」
小動物を見るような目をしながら、明るい髪色の亜麻音の頭を撫でてあげる。
「こ、子ども扱いするなってば! 私だって、四月には四年生(一般の高校における一年生)なんだからね!」
「はいはい、そういう台詞は、私が添い寝しなくても眠れるようになってから言ってね?」
亜麻音は身長143cm、15歳にして小学校低学年によく間違えられるツンツン娘。これでも、良家のお嬢様だ。同学年ながら悠羽は発育もよく、肩のあたりで切り揃えた黒髪が活発な印象。
二人じゃれあっていると、まるで姉妹のよう。あまり同い年には見えない。
「ほんとうに、本命チョコは無いんでしょうね……?」
いくつも並んだチョコの箱を目に、小声で呟く亜麻音へ、
「ん、何か言った?」
ぐいっと悠羽が顔を近付ける。
「な、なんでもないってば!?」
急接近な顔に、鼓動を跳ねあげて赤くなる亜麻音。その表情に悠羽は、
「ははーん、さては味見したいのかな?」
悪戯っぽく微笑み、チョコをひとつ口に含んで、
「……じゃあ、そんな亜麻音ちゃんに、一足早く味わわせてあげるね。本命チョコの味」
……ちゅっ。
重ねられた唇は、チョコレートの味がした。