甘色
昔から、「好き」は当たり前のように私の側にあった。
友達曰く、顔は悪くない。性格は…まぁ、表に出る分には問題なし。勉強も運動もそこそこ。
自分で言うのもアレだけど、モテる。
だからいつだって、甘くとろりとしたその感情は、求めればすぐに手に入るお手軽な、『当たり前に与えられるもの』だ。
なのに、
「ねぇ、詩織はさ、あたしのどこが好き?」
静かな二人きりの屋上に私の声が響く。
「あんたの好きなとこ?」
隣の君が軽く振り向く。
「何でいきなり?」
「んー…」
なんとなく、興味が沸いた。
「あたしってこんなんだからさ、」
初めて私が、心の底から好きだと思えたこの人が、
「正直、好きとか言われ慣れてるんだよね」
「ん、それは知ってる」
どんな『好き』を抱えてるのかとか。
「まぁ実際、言ってもらえるのが嬉しくないわけじゃないんだけど」
それを知るのが、とても恐ろしいことだとわかっていても。
「もしかして、まだ今朝のこと気にしてんの?」
「んー、まぁね…」
私のことをよく解りもしないで『好き』を投げつけてくる霊長類。私の気持ちなんて考えようともせず、ただ言葉を繰り返す人間共。
もう、うんざりだ。
「…はぁ」
手摺りに手を置く。
今朝、隣のクラスのウエダだかマエダだかいう男子から、いわゆる告白というものを受けた。
勿論お断り。いつもの、決まりきった台詞。ごめんね、私、好きな子がいるの。
私がウエダだか…まぁマエダで良いや。マエダ君を振ったという事実は、瞬く間に狭い校内を駆ける。
そして、これまた決まりきった反応。
マエダがかわいそうだと思わないの。ちょっとモテるからって調子乗ってる。あの子、今までに告られた男子全員振ってるんだって…えぇ、マジで?
陰口だっていつも同じ。あの子ってさ、言うほど可愛くないよね。みんなあの子の何が良いの? え、顔に決まってるじゃん。あ、そっかぁ! きゃははは。
はっきり言って、聞き飽きた。
でも、『みんな私の何が良いの?』
「…あんたって案外、めんどくさい性格してるね」
「…さらっと酷い」
いつもの君だ。
「…あたしはさ、自分なんかのどこが良いのかわかんないんだ」
…あ、やばい。
瞳が潤む。
「…っ!?」
突然、眼前に何かが飛んでくる。…ハンカチ?
「…負けず嫌い」
いつのまにか君が私をまっすぐに見ていた。
「頭の回転が早い、とても綺麗、意地っ張り、好きなことに馬鹿みたいに一生懸命」
私が君の誕生日にあげた薄桃色のハンカチが風に揺らめく。
「そういうとこ、私は好きだよ」
胸が鳴った。
「あと意外に女子力高いよね? マメで気が利くとか、手先が器用とか」
「意外にって…」
「それと、」
君は横を向く。
「仲間外れも臆せず、人と仲良くしてくれる…とか」
「え?」
「あんたには当然かもしれないけどね」
一度だけ、君がいじめというものに合ったことがあった。
そのときに唯一話し掛けたのが私だったらしい。けど実は、君がいじめられていることに気付いてなかっただけだったりする。
「私、これでも結構嬉しいんだよ」
横を向いたまま、君は小さく笑う。
「……うん」
君の側に寄る。
「…わかりにくいよ」
「知ってる」
また、風が吹いた。
「……詩織、」
初めて、感情が抑えられなくなった。
唇の感覚だけが麻痺したみたいだった。
君の表情は見えなかった。




