私色
何か理由があってこの高校に入ったわけではなかった。
強いて言えば、この学校に美術部があったから。
はっきり言って、学力は充分だったから、部活に専念できると確信した。
小学校の頃から友達だった詩織も、ただ美術部があるからという理由でここに来た。
入学してから絶望した。
当の美術部は、廃部寸前だったから。
だが幸い、二人以上で部活の存続は認められるらしい。
私と詩織、二人きりの美術室。
君がふと口にした言葉に、眩暈がするほど陶酔した。
「世界で二人だけみたいね」
いつのまにか、君を目で追うようになっていた。
気付いたときには、友情はもう戻れないほど形を変えてしまっていた。
そしてやっと思い知る。
あぁ、もうこんなところにまで来てしまった、と。
「詩織、」
「ん?」
気付いたら君の名前を呼んでいた。
「…なんでもない」
きっと、君がこんなに優しい顔を向けるのは私だけ。
そう思い込んで疑わなかった。
私は、愛されることしか知らなかった。
「…詩織…」
美術室で楽しげに話す君と知らない男子生徒。君の軽やかな笑い声が聞こえてくる。
一人、廊下に立って考える。
「…どうして」
どうして特別だなんて思ったんだろう。君の笑顔が自分だけに向けられるなんて、そんなわけがないのに。
あぁもう、何でこんなにショック受けてんだろ。
てか、他人に期待なんてしてなかったはずなのに、こんな、羨ましいなんて感情。
いつか、君が言っていた。
『筆はね、私にとって命みたいなもの』
『あんたは、絵具みたいね』
私の命には等しく及ばない、と言われた気がした。
澱みきった身体を突き付けられて、やっと自覚した。
友達にこんな感情を抱く自分を認められないまま、欲しいものから目を背けたまま、持て余すほどの飢餓感に翻弄される。
勝手に空回って傷付いて、独りきりで空しさに苛まれて。
あぁ、こんなはずじゃなかった。こんな目で友達を見てる自分なんて知りたくなかった。
身体の底で渦巻く汚い衝動も、今まで感じたことのない他人への惨めな妬みも、もう全部、全部捨ててしまいたい。
なのに、どうして?
…どうしようもなく、好きだった。
一方的に想いをぶつけることが、どれだけ独りよがりなものかを知っているからこそ。
何処にもいけない。君に触れたい。そんな自分を刻んでやりたい。こんな気持ち、あって良いはずがない。
君の笑顔を見るたびに君を裏切っているような背徳感に襲われる。それでも、この距離を守るためには、言うわけにはいかなかった。
触れる熱を、夢にまでみた。
ふれてはいけないと、しっていた。




