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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

涼風シリーズ

柑橘

作者: 花屋


「涼風」を先に読むことをおすすめします。


「つきあってください!」


 うるうると目をうるませ、こちらを見上げてくる彼女。胸の前で組まれた手は、庇護欲をかきたてる。


 普通の男子ならば、「はい!」と即答してしまうだろう。


 だが、問題が1つある。


「すまないが……私に同性愛の趣味はないんだ」


 私が女だということだ。



  **



「まったくモテるよな。お前のせいで俺たちに女子がまわってこないんだよ」


 野乃ののが鼻をならす。彼はやつあたりのように、ハンバーガーをほおばった。

 私も年頃の子供だ。ファストフードは嫌いではない。


 ストローに口をつけると、オレンジジュースのさわやかな味がひろがる。


「私だって不思議なんだ。共学だというのにな。髪をのばしても、効果はなかったし」


「なんかさ、こう。紫草しぐさはオーラが違うんだって。女子の理想に合うんだろ」


「オーラ?雰囲気ということか?確かに、私はほかの子と違っているとは思うが……」


 だが、それを深く考えたことはない。私は私であるのだから、そういったことに、あまり興味はわかなかった。


 ただ――()が、告白してきた彼女のような、可愛い女の子が好きならば、少し考えるかもしれない。


「つうかさ、今まで何回、告られたんだよ?」


 告白、と聞いて思い浮かぶのは――やはり、あの可愛らしい笑顔。


「そうだな――さっきもあったぞ。ショートボブの、なんか守ってやりたくなる子だったな」


「マジ!?それで遅くなったのか。つうか、そんな可愛い子までレズに走るとか……男子諸君を代表して泣きたいな」


 ゆっくりとジュースを飲みほす。柑橘系のさわやかな味が、どこなく苦く感じられる。


「妬いた……か?」


 冗談の、つもりだった。


「は?いや、俺は会ったこともない奴を好きにはならないぞ?それとも、あれか。俺の知り合いだったのか?」


 けど、あまりに見当違いのことを言うものだから、腹がたった。


 怒ることは――できないのだが。


「いや、何でもない」


「そうか?つうかさ、お前、そいつらと付き合わねえの?もういっそ、お前もレズになれよ」


「馬鹿なことを言うな。私に同性愛の趣味はない」


 私は首をふって否定した。



「それに、私の好きな人も男だしな」



「ゴホッ」


「……大丈夫か?」


 野乃がとつぜんむせた。……いい気味だ、と思わなかったこともない。


「ああ、大丈夫。……で、誰なんだ、その好きな奴は」


 私は野乃の目を見返した。


 好奇心などできいているのではないことは、明らかだ。戸惑い、不安――様々な感情が瞳の中で揺れている。


 それがなかったら、曖昧にごまかしたものを。


 私は、唇を吊り上げた。


「教えないよ、お前にだけは」


 野乃にだけは、教えるものか。


 この鈍い男か、私の気持ちに気づくか。それとも、すぐそばにいる幼なじみ()が、1人の女だということを思い出すか。


 それまでは、この名前は胸のうちに秘めておこう。


読んでくださってありがとうございます。


「柑橘」は「涼風」の数ヵ月後ぐらいですね。


感想等いただけたら嬉しいです。


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