Amen―アーメン―
二人の関係。
「あ―――――…」
またこんな所で寝てる…。店も鍵かけてないし。
無用心だな――。
まだ暑いっては言っても、もう夏は終わりに近いし、夕方は多少冷えるのに。
それに、どうしてだか今日はあの暑苦しい真っ黒なロングコートを着ていない。とゆーか、七分丈のブラウス一枚って……
「夢愛さん。起きてくださーい。日が沈みますよ――…」
肩を揺する。
微動だにしない。
それにしてもなんて細い肩だろう。折れそう。
「………よっ」
仕方がないので彼女の華奢な腕をもち、店の中に連れていくことにした。
ドアを開けると、いつものように可愛らしい鈴の音がチリン、チリンと2回鳴った。
「ニャ――――」
足元で子猫が鳴く声がした。白い毛に、金色の瞳の猫。―夢愛さん、また猫拾ってきたんだ。
これで何匹目だったかな。何でもかんでも助けようとしるのがこの人だから。
一体、今までどれくらいの生き物を助けてきたんだろう。
そしてその分、どれくらいの哀しみを背負ってきたんだろう。
自分と2つほどしか離れていないこの人が、会って大分経つ俺でもさっぱりわからない。
――出会ったのはどこだったかなぁ。
たしか、あの学校の屋上だったハズ。
あの時からこの人は黒い服を着ていた。
周囲から「魔女」と言われているというのに。
「………ん…想羅か。おはよう」
「あ、起きたんですか。おはよーございます」
茶色いくすんだソファーに彼女を下ろそうとした時だった。
ぱっちりとした二重の目が、ゆっくりと開かれた。「……今何時………?」
力が無駄に入っていない、やや高めの不思議な声で聞いてくる。
窓からの西日が彼女の大振りの髪飾りに当たり、キラキラしていた。
「おおよそ5時くらいですよ、多分」
俺は時計を持っていないし、この店にも時計はなかった。時計ばかりか、レジもクーラーも、機械的なものはこの店にはない。あるとしたら、黒塗りのダイアル式電話が隅のほうに置いてあるくらい。
お金がないのだと彼女は言っていた。
「まずい。おやつの時間だ。……あれ、山田さんは?」
眠たそうに目を擦りながら、フラフラと店を見回す。
「アルバイトの人でも来てたんですか?」
「あ、いたいた。おいで、山田さん」
身を屈ませて呼ぶ先には、さっきの白猫がいた。
猫はぴたりと動きを止めて、とたとたっ彼女の胸に飛び込んだ。
「――山田さんて……?」
「ああ、紹介しよう。彼が山田さん。ちなみにオスだよ」
「もっとかわいー名前つければいいのに…。
前の犬はアインシュタイン二世でしたよね―」
彼女ネーミングセンスはあまり良くない。オスだろうとメスだろうと関係なくつける。
彼女の名前も、「夢愛」と書いて「ゆあ」と読む。
あまり聞いたことのない名前だ。
「なんか、今日は楽しそうじゃないか。顔色いいし」細くて長い指が頬を触れる。少しひやりとする感触に、心臓が小さく跳ねた。
「うん。そーかもしれないです」
ほんの少しだけ口元が緩んだ気がした。
「聞きたい」
彼女も微笑む。
とても綺麗だと思った。
「――なんだか面白そーな人に会いました。実は同じクラスだったんですけど。髪がオレンジ色で、無口で、目つき悪くて、
俺にカレーパンくれるような優しー人でした」
* * *




