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ガーリックトースト

翌朝、教室にて


「うわー、ハトバ君て同じクラスだったんだ。

びっくりした――」

「……あぁ、」

全然驚いているように聞こえない声で蒼井想羅は言った。しかもまた苗字間違えてるし。

嫌がらせだろうか。

そのまま無言で自分の席に着き、しばらく静けさが続いたが、やがて続々とクラスの連中らが集まってきた。


「蒼井ー!昨日の午後の授業、なんで出なかったんだよ―。お前いなかったから俺が当てられたじゃんか!」

何となく視線をそちらに向けてみると、蒼井想羅は何人かの友達に囲まれ、雑談をしているらしかった。

変人でも友達はいるのだと、なんだか不思議だ。


「それに女子は、"授業中寝てる蒼井君見れなかった〜"って騒いでたぞ。

…きれーな顔しやがって!コノヤロウ!!」

「へ――、すごいねぇ―……あーお腹空いた。

何か持ってない?」


すごい。見事に会話が成り立っていない。

さすが変人。

人気者なのに、変人。いや、変人だからこそ?

「――昨日もおなか減りすぎて、なーんか俺倒れたらしい。んで、それを助けてくれた命の恩人さんがいたんだよ」

「はぁー?!マジかよ!

つか誰だよ、お前拾ってくれた超親切な奴って?」


え………。


「うんと、……ハトバ君」

また間違えてる。

記憶する気がないんだろう、コイツは。

何となく、周りの空気が代わった。


「ねーハトバ君。なんか食べるもんない?

俺、また倒れそうなんだけど」

周りがとうとう確信したらしい。

蒼井が言っているのは、"あの"羽柴理久なのだと。

「蒼井、命の恩人って………羽柴?」

一瞬きょとん顔になって

「ああ、そうだ。ハシバ君だ」

ざわつき始める周囲に、何故コイツは気づかない。

「蒼井」

耐え切れなくなったのと面倒くさくなったのは、多分半々くらいだったと思う。

「――ふがっ」

今日の昼食の予定だったカレーパンを、容赦なく蒼井の口へ突っ込んだ。

「それ、やる。だから、もうあっちいけ」


微妙な空気が流れ、そのまま担任が来たので、ホームルームが始まった。

蒼井想羅は気にせず、カレーパンを幸せそうに咀嚼していた。

* * * *

1時間目が過ぎ、2時間目が過ぎ、そして3時間目、4時間目が過ぎた。

いつも通りに、淡々と過ぎていった。


教科書、ノート、その他色々を無理矢理机に押し込んでいると、

ガンッ、 と扉を苛立ちに任せて開ける音が響いた。

教室が静まり返る。

開いた扉から、3人の体格の良い男子と、頭の良さそうな顔をした男子が入ってきた。

見覚えがあるのは確かだった。

そいつらは、わざわざ俺の席まで来て、椅子に座る俺を上から見下ろした。

いきなり髪を捕まれた。


「よくこんな頭で、成績優秀なんて言われてるよなぁ…?」

「余裕ぶっこいてんじゃねーよ。いつも人のこと見下してるような目ぇしやがって!―だから、そーゆー目がムカつくんだよ!!」



ガァァァンッッ


4人のうち1人、坊主頭の奴が机を蹴っ飛ばした。

机は中のものを全て吐き出し、無惨にも倒れ、周りの机や椅子を巻き込んだ。逆ギレ、か。


「―――それだけ?」

「は?」

女子たちが小さな悲鳴を上げ教室を出ていく。

坊主頭と対峙する。

まったく、でっかい図体して中身は小学生以下なんだな。

自分の怒りがコントロールできなくて、他人にぶちまける。

人間らしくて、愚かだ。

カナシイね。

「そんなに俺がムカつくなら、堂々と殴れば?

1発でも2発でも、あんたらの好きなように」

俺は別に、顔が腫れようが、歯が折れようが別にどうだっていい。

本当にもう面倒くさい。

ほとんど毎日来る喧嘩の相手に、味気ない日々に、

騒音ばかりの世の中に、呆れた。

呆れては"もっと"と、何かを求めた。

この退屈を埋めてくれる何かを、ずっとずっと待ち続けていたんだと思う。

坊主頭が顔を真っ赤にし、とても悔しげな顔になった。

髪を掴んでいた手に、一層力が加わる。

もうそろそろ、くるな…


「――ッ、うぜーんだよ……!!」


大きく拳を振り上げた。

その時。



「――ハトバ君、これカレーパンのお返し―――…」

緊張感がまるでない声が、静かな教室でよく聞こえた。―横、すぐ近くで。


「ガッッ」


フワリといい匂いがし、蒼井は右手に持っているパンを坊主頭の口に押し込んでいた。


「………どう?ガーリックトーストだよ。

おいしーでしょ?」

そのままグイグイとパンを押し込んでいく。

ワックスで髪を立てている奴が、蒼井につかみ掛かった。

「なんだよ、てめぇ!」

「あれ?君もほしいの?」

「ふざけんな!!」

こんな状態でも蒼井は無表情でいた。周りが騒ぎはじめる。

「え?!蒼井君!?」

「なんで羽柴なんか…」

「大丈夫かよあいつ!」


心配する者、

訳がわからないでいる者。様々な反応だった。

そんな俺は、それを他人事のように見ていた。


「……ああ!喧嘩か―。

でもさ、殴ったらイタいじゃん。やめといた方がいいよ。

ってゆーかさー、昼食食べよーよ?」

コイツ、もしかしなくても馬鹿なのか…?

それともなんか策略でもあんのか?

普通、こんなところに割って入って来ないだろ。

自分に何の利益もない。

それどころか、今後変に目をつけられる可能性だってある。

不利益だらけだ。


「……………?」

蒼井に左腕を捕まれた。

目で「立て」と言われた気がした。

「パン、おごったげる。つまんないことしてないで来て」

蒼井にしてははっきり、そして少しの命令口調。

このままここにいて、コイツらに殴られるか、蒼井にパンを驕ってもらうか。

無論、俺が選んだのは後者だ。


「逃げんじゃねぇ!!」

怒鳴り散らす坊主頭を見て、蒼井が冷たく笑った。


「あんさ、1対5ってどうなの。一人じゃ自信なくて怖いから…?」ずっとヘラヘラしてる奴だと思っていただけに、蒼井のさっきの"笑い"は意外だった。

(………変な奴)

相手の怒りは頂点に達しているはずなのに、何も言い返さない。

いや、言いたくても言えないのだろう。

図星だったから。

俺はもう、何も言うことはなかったので黙って教室を出た。



「ね、」


横から覗き込むようにして、いつの間にか蒼井想羅が横に立っていた。


「さっきの人達、トモダチだった?」

何を根拠に言ってんだ。

天然なのか、ただの阿保なのか。


「まさか。ってかなんでお前、入ってきたんだよ」

「ん――?ハトリ君にパンを奢ないと、って思った……から?」

俺に聞いてどうする。しかもそれ、答えになってるのか?

「…俺、羽柴理久なんだけど」

「えーなにー?知ってるよー」

「"羽柴"って一度も正しく呼ばれてない」


蒼井が黙る。

瞬きを3回して、「実は…」と話しはじめた。

「俺、まったくもって記憶能力がないんだよね」

ふざけてる様子がない分、余計呆れてしまった。

そんなことは知っている。まったく……

「やだー、ハト……ハシバ君。そんな顔しないでよ。眉間にシワー………」

「うるさい。ん、メロンパン頼む」

「…………」

「なんだよ、奢るんじゃなかったのかよ」

「いや、奢りますケド。

なーんか、かわいらしーの食べるんだね。は…しば君」

「そうか?」

美味ければそれでいいだろ。


「おばちゃーん、コレちょうだい」

「あらっ!!想羅くん!また来てくれたの〜?嬉しいわぁ。あらあらそっちの子は可愛いわねぇ。はい、110円ねっ」

購買の50代くらいのおばさん。名前は美智子……?美千代…?とにかくそんな感じ。

「あ。30円足りない…」

じっ、と俺を見てくる蒼井。言いたいことは言われなくてもわかった。

ポケットから自分の財布を出し、足りない30円分をおばさんな手渡した。

引っ込めようとしたら、ガシッと手を捕まれた。

「な…………っ」

シワシワであったかい手は意外にも力強く、簡単に振りほどけない。

「想羅くんのお友達よね?また来てねぇ、美味しいパンばかりだから」

惜しみ無くにっこり笑うおばさん。

どう対応すりゃいいんだ。

「はぁ〜〜…想羅くんは美少年でカッコイイけど、あなたも可愛い顔してるわぁ。いいわねぇ……」

可愛いと言われて嬉しいはずもなく、微妙な顔になっていたことだろう。

初対面でこんなに話されても、困るだけなのだ。どうすれば―――…

「おばちゃん。もう離したげて。困ってるカラ」「あらら、ごめんなさいね。でも本当、待ってるわ。またね!」

「……どうも」




* * * * * *

ようやくおばさんに解放され、向かった先は屋上。

風もなく、心地好い暖かさだった。

真ん中のほうまで歩いて、そこに胡座をかいて座った。しばらくして、蒼井はゴロンと仰向けに寝転がり、俺はメロンパンのビニールを破り、食べはじめた。

口の中が渇いていたからパンがパサパサで、飲み込むのがなかなか難しかったけど、黙々と無言で食べた。


「――――30円、明日返すよ」

「別に、いい」

「あ、そう?はは。そりゃどーも

コイツ、本当何考えてんだかわからない。

ふと、昨日の記憶が頭を過ぎる。

駅前にいた、あの全身真っ黒の女。

一瞬目が合ったと思うのに、時間が過ぎれば過ぎるほど、間違いだったと思えてくる。

虚ろで無関心で光を打ち消してしまうようなあの目。何故か蒼井の目と似ている気がした。


「ハ……シバ君って全然笑わないんだね――…」

いつの間にかその目はしっかりと俺を見ていて、何を言われたのかを理解するのに時間がかかった。

"笑わないんだね――…"

「…お前はヘラヘラ笑いすぎだ」

「んー、そぉなの?俺は笑いたい時に笑ってるだけだけどな――」

面白くもないのに笑う方がおかしい。

嫌々笑うんなら無愛想と呼ばれるほうがいくらか楽だし。

ずっとニコニコしてる奴を見ると、気持ち悪いとすら思える。


「……いよっと、」

蒼井が起き上がり、ちらりと俺を見た。

「ハ……ハト…あれっ?」

しばらく考えるそぶりを見せたが、何かの拍子に諦めたらしい。顔を俺に向ける。

「……やっぱ無理だ。ね、"リク"でいい?」

「………はぁ?」

「俺、名前が"ソラ"だからなんか覚えやすくてさ。

…理久、」

「なんだよ」

「――――――何言うか忘れた」

「………………」


変な奴。この印象はきっと永遠モノだろうな。


「じゃあ俺、教室戻る」

「うん」

他人から見たら冷たいやり取りにしか見えない。

ただ、

蒼井想羅と羽柴理久はそういう人間だった。

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