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*6*  再会

 魔術師ヘイムダルは思考した。

 アースガルズ神国、最高幹部である教皇猊下の命を受け、勇者たちの一行に紛れてミズガルズ国王の野望を阻止する役目を遂行中…魔術師である己の力量を見誤った挙句、勇者たち一行とはぐれてしまうとは…不覚にも程がある。

 しかも、何故彼らは私を探しもしないのかと思えば、私がはぐれている間に解散していたと知り…恥の上塗りだ。

 教皇猊下の逆鱗に触れる前に勇者(バルドル)を見つけ出し、再度仲間にならなければ。

 アースガルズ神国で、ちょっとした魔術具の不具合を、顔見知りの店で直して貰っていた数日間の間に、予想外の展開を向かえるとは…流石に『裏をかかれた』とはこのことだ。

 ミズガルズの我儘クソ王子が花街に入り浸っていたから、一行はまだアースガルズ神国内にいるのだと…まんまと騙されたわけだが…これが私の正体に気づいた勇者(バルドル)の作戦だとしたら、私は完璧なる敗北を食らったことになる。

 悔しいが認めよう。

 馬鹿そうに見えたのも、勇者(バルドル)の作戦のうちだったなんて!私もあいつら同様、異世界人を見くびっていたらしい。

 蓋を開けてみれば、各国の名だたる武将たちが、異世界人一人にまんまとやられた構図となったわけだが。

 勇者(バルドル)は何処まで気付いていたのだろうか…。それぞれが自身の真の役割をひた隠しにしていたというのに…。恐ろしい奴だ。


 さて、そんな回想をしている場合ではない。

 私は勇者(バルドル)の足取りを追ってヘルヘイム国にまで来たというのに…この氷の礫のせいで生命力と精神力が尽きかけている。そのために得意の魔術すらも発動出来ないのだ。

 せっかく顔見知りの職人に高い金を出して修理して貰ったばかりの魔術具も、海を渡る途中、凍り出したかと思った瞬間、粉々に砕けてしまった。

 私の持ち金のほとんどをはたいたというのに!だ。

 …つまり、私はこのまま氷漬けになってしまうらしい。

 ………無念だ。

 北東の方角…500マイルほどの場所から勇者(バルドル)の魔力を微量だが感じているのに、近付くことも出来ないなんて…。

 もしかして、これも勇者(バルドル)の作戦なのだろうか?

 …私は、とことん勇者(バルドル)の足元にも及ばない癖に、彼を見くびり続けていた『愚か者』だったようだ。

 そんな真実を死ぬ間際に知ることになっても、後の祭りだ…。そういえば、後悔は先には立たないものだったではないか…。

 勇者(バルドル)にもう一度会えたなら、傅き膝まずいて許しを乞おう。

 愚かな私を、勇者(バルドル)は笑ってくれるだろうか?…蔑むだろうか?…無視されなけりゃ、それで良いじゃないか。

 ああ…、今思えば…勇者(バルドル)を…無視するなんて…馬鹿なこ…と…を…するん…じゃ…なか…っ……た。


 「げっ!!?ヘイムダルじゃん?!え?我儘クソ王子の護衛は辞めたのか?」


 勇者(バルドル)の声が聞こえるなんて…私の後悔は、自覚するより深いらしい。

 「おーい!!また無視してんのかぁ?!」


 …凍ってなければ、返事くらいは出来るだろうが…。


 「ヘイムダル〜!!お湯をかけるぞぉ!!」


 ん?

 とうとう、希望的な幻聴が聞こえるようになるとは…これは天国の天使の悪戯か?


 あれ…?

 温かいなあ…。

 …温かいというか…

 「熱い!!!」

 「あ、悪い。入れすぎた。」

 「バルドルさん!お湯の温度は徐々にって言ったじゃないですか!」

 想定外の覚醒のさせられ方をした俺の目に飛び込んできたのは、俺が後を追っていた勇者(バルドル)と、金髪に青い目の神話に出てくる女神のような少女のやり取りだった。

 「え?…なんで?」

 「あー、死んだかと思ったよな〜。俺も数日前までそんな感じだったわ。でも、俺と違ってヘイムダルは心臓が止まっていたのは3時間ほどだ。ちなみに、俺は3日間だった!」

 何故かドヤ顔で説明をしてくれているが…勇者(バルドル)が私を助けたというのか?

 何故だ?勇者(バルドル)は私を始めとする各国の使者たちの裏をかいたはずではなかったのか?

 いや…その上で追ってきた私を油断させる魂胆かもしれない。

 この男は単純馬鹿に見えて、実はなかなか油断の出来ない奴だと知ったばかりのはずじゃないか。

 私は2度と騙されない!

 油断させる作戦には乗らないという意思表示のつもりで、勇者(バルドル)を睨見つけた私に、勇者らしからぬ態度で謝罪してきた。

 「そんなに熱かったのか?悪かったよ。見た所、火傷はしていないみたいだけど、痛みは見た目じゃ分からない事もあるもんな。ごめんな。」

 …痛みは見た目じゃ分からない。

 何かの隠語か?

 …は!!私が正体を隠していることを知っていると脅しているのか?

 正体を知っていて、知らないフリをして内心、馬鹿にしていたことを謝っているという意味なのか?

 くそっ。

 「ああ、そうだよ!私はアースガルズ神国の密偵だ!何処でバレたんだ?そんなに私の演技は下手だったと言いたいのか?!」

 「…へ?…密偵?」

 「アースガルズ神国?」

 私のやぶれかぶれの発言を、鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情を見せる勇者(バルドル)と女神のような少女に、私まで呆気に取られる。

 「え?…知っていたんだろ?」

 「いや?そもそも、ヘイムダルって話せるんだな?いっつも一人黙りこくってるか寝てるかだから、話す機会もなかったじゃん。そんな奴の身の上なんか、知るはずないよ。」

 予想外の答えに、私は頭の中が真っ白になる。

 「…じゃあ、なんで皆解散してんだ?他の奴らだって国からの命令でお前を見張るよう言い付けられていたはずじゃないか?」

 「ええっ?!みんなもそうだったのか!?てか、ヘルモーズは花街を制覇する目標のため、ノルンは実家の爺さんが危篤だから、テュールは夢にまで見た鍛冶場をみつけたから別れただけだぞ?それで言うと、ヘイムダルこそ何処に行ってたんだよ?俺はてっきりヘイムダルはヘルモーズの護衛だと踏んでいたんだが?」 

 真剣な表情で今までのことを説明する勇者(バルドル)を見て力が抜けた。

 「私はアースガルズ神国の教皇猊下の影だ!他所の国のくそ王子なぞ知るか。」

 「ええっ?じゃあ、ヘイムダルは何処で居なくなったんだよ。」

 「アースガルズ神国で、馴染みの店に魔術具の修理依頼をしている隙に、お前たちが勝手に国を出ていったんじゃないか!」

 キッと睨みつける私に、心底申し訳なさそうに勇者(バルドル)が謝るのを目の当たりにした私は、国の為に教皇猊下の為にと命を懸けていた時間が、心底馬鹿らしく思えてきた。

 「そうだったのか…ごめんな。」

 「いや・・・先に礼を欠いたのはこちらの方だ。すまなかった。」

 「うーん。とりあえず、ヘイムダルは俺に追いついたわけだし?教皇猊下?の命には背いていないんじゃないか?」

 「な?!」

 敵自らが敵宣言を暴露したというのに、敵に塩を送るというのか?

 勇者(バルドル)は『勇者』ではなく『聖者』だったのか?

 「・・・私の考えが根本から違っていたということだろうか?」

 「お前の考えなんて、どうでもいいからさ。早く着替えて飯にしよう。腹減ってるだろう?」

 屈託なく笑うこの男に、自分の事しか考えていない私が敵うはずなどなかったのかもしれん。

 「裏をかかれたと思い込んでいたのは、私の弱さが原因だったようだ。」

 「反省はいいから、早く湯船から出てくれ。」

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