*5* 異世界ファンタジー?!
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、ぶなしめじ、スノーラビットの肉…
全て一口大に切り分けてから、鍋底で溶かしたバターと軽く炒めた後に塩コショウ。その後牛乳を注いで煮込めば、なんとも食欲をそそる匂いが立ち込めてくる。
「バルドルさんは本当に料理が出来るんですね?!」
俺が料理をする隣で、ヘルローズが楽しそうにはしゃいでいる。
うん。可愛い。
妹がいたなら、こんな感じだっただろうか?と妄想してみるも…きっとノルンの方がリアルに近いだろうと思い直す。
ヘルローズが良い子過ぎるんだ。
「旅の間、仕方なくだったけど、俺が料理担当だったから。この世界の食材にも多少慣れたと思うよ。」
この世界の野菜だけは、元いた世界とあまり変わらないのだが、肉は魔獣を倒さないと手に入らない。魚も魔獣の仲間の魔魚。何より、木の実や果物類も凶暴だったり、なるばしょが特殊だったりで超貴重だと理解した。
旅の途中、森の中で青林檎に似た果物を発見した俺は、噛みつかれそうになった苦い思い出がある。
ノルンには『指の1、2本食われておけば、多少強そうに見えたかもしれないのに。残念。』とパワハラまがいな言葉を受け、俺は心を軽く病んだ。
今なら苦手な人種を、『エルフ族』と『お転婆なJK風女子』と答えるだろう。…あ、狸国王も腹黒神官も、我儘王子も、誇り高すぎ銀狼族も、勝手すぎる魔術士も…嫌いかもしれないな…。考えないようにしているけれど。
まあ・・・話を戻すと。
この世界の食材事情から察するに、牛乳もとても貴重なのだろうと思いきや…蛇口を捻ると出てくる不思議飲み物だったことに俺は驚愕した。
この世界の根本的な部分がマジで分からない。どうしたら蛇口から牛乳が出てくるんだ?水道管の先に牛の乳房が多量にあるのだろうか?
軽く、元いた世界の牧場の牛の乳房部分に長い管を付けた様子をイメージして…何とも言えない馬鹿馬鹿しさに苦笑する。
厨房の端、主に飲み物が並ぶ一角にある蛇口。さも当たり前のように壁に付いたその蛇口こそが、俺の驚愕のそれである。
洗い場の蛇口からはちゃんと水とお湯が出るのに…この蛇口からは白い液体が無限に出てくる不思議。
解明できる気がしないので、考えても仕方がないが…やっぱり気になる。
「ふふふ…。バルドルさんは面白いことに興味をお持ちになるんですね。私にとっては『そういう物』という認識でしたので、何故と言われても答えられません。」
物心ついた時には『そう』だったのだから、『そういう物』でしかないのだと言うヘルローズに、納得を示す。
「ヘルローズが『そう』だと言うのだから、『そう』なのだろうな。まあ、お陰で今日は寒い時に食べると美味い物を作れる。」
俺が鍋の番をしている間に、ヘルローズはパンを焼き始めたようだ。
石窯のような大きなオーブンに、慣れた手つきで小分けにした生地を並べた鉄板を入れると、素早く扉を閉めた。
「このコンロもそうだけど、オーブンの火って薪じゃないんだな?」
旅の間中、俺はキャンプ飯のように薪を焚べた火の上に鍋をセットして料理をしてきた。
しかしこの城の厨房には薪はおろか、火種となりそうなものが何一つないのに、コンロに鍋を置けば火が点くし、オーブンに至っては、扉を開けた時点でずっと火がついていたかのようだった。
「どうなっているんだか、見ていても全く分からないのは、俺がこの世界に慣れていないからなのかな。」
半ば理解するのを諦めた俺の様子に、何か思い出したかのようなヘルローズが答えた。
「この城全体の設備は、ロキサスとマキシム爺さんが考えたはずですので、夕食後に資料を探してみましょうか。多分…執務室の棚にあるはずです。」
宝探しの提案をしたかのような、楽しそうなヘルローズの様子に、つられて笑いが溢れる。
「大事な物なんだろう?俺なんかに見せても良いのかい?」
「あら?今の私はこの国の王女ですよ?私が良いと言えば良いのです。バルドルさんがそれを見て悪いことを企むようにも見えませんし。」
彼女の言葉に少し驚いた。
失礼かもしれないが、ヘルローズが悪いことを企む人間がいるということを知っているとは思わなかったからだ。
ある意味で、ヘルローズは究極の箱入り娘だ。この世界のこの国のこの城付近のことしか知らないはずだから、誰よりも可愛がられて育った彼女が『悪い人間』に出会ったことがあるとは、俺には思えなかった。
危機管理的な発想が生まれることが意外に思えた。
そんな私の思考を読み取ったかのように、ヘルローズが寂しく笑った。
「私だって、3年間何もしなかったわけではないのです。私が生まれる前…多くの国民をヨトゥンヘイム大国へ送り出すまでは定期的に来訪されていたという、世界機関の役人の使者が来なくなったことを不思議に思い、ヨトゥンヘイムに聖獣を使って義父の死を知らせる手紙を送ったりもしました。しかし、手紙を届けたはずの聖獣は帰らず、ある日を境に聖獣たちがこの国から出るのを嫌がるようになったのです。聖獣同士は何かを感じると聞いていますので、もしかしたら手紙を届けに飛んだ彼は殺されてしまったのかもしれません。」
『そんなはずはない』と言えないのは、俺自身もこの世界に召喚されてから出会った人たちの、自分本位な言動に振り回され、疲弊していたからだろうか。
先程『嫌いかもしれない』と自覚したくらいだしな…。
確かに奴らなら聖獣だろうと何だろうと、自分の理屈に当て嵌めて殺すことも厭わないだろうな…と考えた時、ミズガルズ国王オーディンが首に巻いていたマフラーのような物が、白いフクロウの羽に似た素材ではなかったかと思い出す。
もしかして…。
しかし、憶測でしかない話で無駄にヘルローズを悲しませるのも嫌なので、俺は口を噤むことを選んだ。
「牛乳にこんな使い方があったんですね。」
俺特製。祖母仕込のクリームシチューを口に含むなり、ヘルローズの表情がぱあっと輝きに満ちる。
ヘルローズを喜ばせることが出来た俺は、テーブルの下の手でガッツポーズを作る。
「いつものスープと変わらない材料なのに、こんなに変わるなんて。」
「そうだろう、そうだろう。やはり美少女とクリームシチューは合うよね~。」
頬が緩むのを自覚しつつ、目の前で美味しそうに食事をするヘルローズを眺めていたそんな時、聖獣が勢い良く飛び込んできた。
「あらあら、アレス。どうしたの?」
「ホホウ…ホホウ…」
ー嫌な魔力がこの国に近付いているのだー
ん?
聞いたことのない中年男性の声がしたような気がして、周囲を見回す。
ふとシロフクロウと目が合った気がして、まさかな…と思っていると
ーお前、勇者のくせに頭も悪ければ、鈍すぎるよな?ー
シロフクロウの溜め息を初めて聞いた俺の【嫌いな人?リスト】に、『シロフクロウ』が追加されたのだった。




