*2* 勇者バルドルと仲間たち
夜の帳。
つまり、夕方と夜の間の…徐々に辺りが暗くなる頃。
「キャンプみたいだ」と浮かれたのは最初だけで、今の俺は空腹と疲労感でグッタリしている。
今日だけで何回目になるだろう…自分のステータスをぼうっと見つめては、独り言を呟いた。
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【名前】 〈改名〉バルドル・オズガルド・アンクローネ (袴田流士)
【種族】 転移者
【性別】 男
【Lv.】55【STR(強さ)】 58、【DEX (器用さ)】 60、【VIT(持久力)】 58、【MND(精神力)】61【INT(賢さ) 】51、【LUK(運) 】 50
【称号】 おもてなしの国からの召喚者
かろうじて勇者 隠れ潔癖
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自分のステータスを眺める度に感じる焦燥感に溜め息が漏れる。
このステータス画面を考えた奴、性格が悪すぎやしないかい?
『かろうじて』って何?
『かろうじてる部分』をもはや知りたい所存だ。
強さも賢さも『普通』だと思うのだが…本当に勇者なのか?と自分でも疑わしい。
国王のステータスから推察するに、100がMAXと考えれば、50が平均だろう。
大学を卒業して3年。
中小企業だが、黒字を出し続けているやり手社長の下で、日々営業に勤しんでいた俺の身体は…確かに格闘技向きではない。
だから、強さについては納得もできよう。だが、しかし!だが、しかしだ!賢さ51って…!バカでもないけど、利口でもないこの中途半端な感じが、腑に落ちないのは、俺の自己評価が高いのか?実はナルシストだったことを自覚すべき案件?
『流士は時々バカなんだよな〜。』
営業成績で唯一勝てなかった、俺のボスである社長の笑い声が頭の中を支配していく。
「なに?その天気予報みたいな残念さ。いや、平均値はバカじゃねぇし!」
思い出して一人でむしゃくしゃしていた俺に、冷めた言葉がかけられる。
「うるさいんですけどぉ?勇者って名ばかりで、顔は普通だし性格は変だし、私の長年の夢が打ち砕かれた悲しみを償って欲しいんですけどぉ~?」
いわゆる勇者パーティーに王命で加えられたハイエルフのノルンが、汚物を見るような視線で嫌味を言う。
腹が減って苛立っているのは分かるが、八つ当たりは良くない。
「ノルン氏。他人の容姿を悪しざまに口に出すのは、人として失礼だゾ。」
「うっさい。ガキのくせに。失礼なのはお前の存在だろ?つうか、変な呼び方すんなし。」
お転婆ウルフは、齢28歳の俺に大剣を突きつけて睨めつけてくる。
見た目JKなハイエルフのノルンだが、年齢は俺の3倍以上のため、全く聞く耳を持ってくれない。…理不尽だ。
「悪かったな…お前の夢を壊した、なんちゃって勇者でよ。」
口を尖らせ、ぶうたれて言えば、傍観していた銀狼族のテュールが宥めに入ってくれた。
「ノルン。バルドルもミズガルズ国の都合で召喚された被害者なのだ。今の神殿に、まともな神聖力と魔力量を持つ神官がいないことはお主も解っていただろう?こんなでも国が勇者だと言えば勇者なのだ。諦めろ。」
なかなかに辛辣なフォローを入れられ、俺のメンタルは既にボロボロだ。
プライドの高い獣人族のなかでも特に貴重種である銀狼族の彼もまた、世界中のどの山よりも高いプライドを持っているのだろう。
そんなテュールの特技はスリングショット。二股の小枝に括り付けた伸縮性のある紐に小石などを引っ掛けて飛ばす…別名パチンコだ。…意外だ。
ただし、テュールのスリングショットはとんでもない代物だった。
襲ってきたクマ型魔獣『ブラッドベア』の心臓部分に直径20センチほどの穴を空けた実績を持っている。
あの分厚い身体の前面から、穴を通してあちら側が見えた時、俺は言葉を失ったのは言うまでもない。
今は、俺の身体に風穴が空く日が来ないことを祈るばかりだ。
「ねぇ!どうでも良いけど、誰かご飯作ってよ。」
ノルンとテュールと俺のやり取りなど、全く興味がないと言わんばかりに、ミズガルズ国第二王子のヘルモーズが不満気に言い放つ。
『Lucky国王』の息子であるヘルモーズは、父親からの魅力的な能力は全く遺伝されなかったようで、【LUK(運) 】 30のただの我儘王子である。
ヘルモーズの我儘に対して完全スルーを決め込むノルンとテュール。そして、この場で野宿と決まった瞬間から寝てしまった魔術師ヘイムダル。
いかにも魔術師と言わんばかりの黒いローブを頭から被っている彼は、本当に眠っているのかすら怪しい。
とは言え、それを確認出来るほど俺のメンタルは強くない。
「はいはい、作らせて頂きますよ。…俺も料理が得意なわけじゃないから、味に期待はしないでくださいよ。」
仕方ないな…と腰を上げた俺に、テュールが何かを思い出し慌てた様子で注意を述べ出した。
「おい、バルドル。変な気を起こして魔法を使おうなんて考えるなよ?お前は普通に料理すればいいんだからな?」
この世界に召喚された日に、魔法の加減が分からず王城の客室を丸洗いした挙句、そこにあった家具やら飾りやらを粉砕してしまったことを言っているのだろうが、俺だってあの後、多少は学んだのだ。
今では自分の手に持つ物だけを多少の傷を付ける程度で洗い流せるように成長している。
「そんなに心配ならテュールが作ればいいだろう?」
俺の言葉にテュールは『何を言っているんだ?』と言わんばかりの驚きの表情をして見せた。
「俺が料理をしたら、それは食べ物ではなく武器になっちまうだろう?」
テュールのステータスに書かれた『【称号】 天才武器職人』はダテじゃないらしい。
流石に空腹のまま夜を越せる程の忍耐力はないと自覚している俺は、誰かに期待することを諦めて料理に取り掛かるべく、空間魔法が施されたバッグから鍋や食材を取り出すと、祖母ちゃん直伝『(異世界)野菜のごった煮』と『根菜スープ』を作った。




