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**Prologue**

 高齢化が進んだこの国を護る為に、私なりに色々やってきたつもりだ。

 先程、この国の最後の民が息を引き取った。

 最後まで見えなくなった白く濁った瞳を潤ませて「すまないのぉ…ありがとうのぉ…」と繰り返していた恩師の姿が瞼の裏に焼き付いている。


 ヘルローズ・エーリューズニルは黒い雲で覆われた空を見上げ、自分の無力さを受け入れ、奥歯を噛みしめた。

 生まれも分からない孤児だった私を、前王だったロキサス(義父)は愛を持って育ててくれた。

 『この国には子供はおろか、若者もいない。『呪われた国』だの『世界の流刑地』だのと言われているが、この国の人々は呪われてもいなければ、罪を犯してもいないのだ。それでも、お前はこの国に来てくれた。それがどんな理由であったとしても、(ワシ)にとっては女神のように尊い。』

 世界地図の下の端に描かれるエーリューズニル国は、1年の大半が氷で覆われた国なので、農作物も育たない。

 農作物が育たなければ、飢えてしまうため、数十年前にロキサスの決断で子供のいる家族や、これから子供を設けたい夫婦を、同盟国であるヨトゥンヘイム大国へと送り出したと聞いている。

 『氷に覆われたこの国は死を待つだけだと思っていたのだが、ヘルローズのお陰で忘れていた希望を取り戻すことが出来た。ありがとう。お前を一人にしてしまう儂を許してくれ。』

 ロキサス(義父)の最後の言葉が頭の中で繰り返される。

 「お義父様…。貴方が愛した民たちを私は護ることが出来たのでしょうか。」

 答えは解らないままに、雪が降り始めた空に向かい、私は一つ息を吐いた。


 エーリューズニル城の周囲は、この国の民たちが眠る墓場になっている。

 そんな墓地の中心にある一際大きな墓標の下に眠るロキサス(義父)の側に、新たな穴を掘り、最後の民だったマキシム爺さんを眠らせることにした。

 「貴方に教えられた土魔法のお陰で、みんなのお墓が作れたのよ。マキシム爺さんの魔法には敵わないけれど、私もなかなかやるでしょう?」

 幼少期の私の魔法の師匠だった彼にお別れを告げ、城に戻る。



 城に一歩入れば外の吹雪が嘘のように暖かい。

 城全体を薄い膜状の結界で覆っている為、気温はいつも一定なのだ。

 誰もいない立派な城の中が賑わっていた日々を思い出す。

 ロキサス(義父)の魔力で結界を維持できる城の中に、高齢化した国民たちの居住区があったため、氷に覆われた広いエーリューズニル国にいる人類はこの城だけという、なんとも不思議な国家が出来上がっていた。

 ロキサス(義父)が床に伏せってからは、結界の維持は私の役目になった。

 1日1回、城の中心である元謁見の間の、国王が座る王座の上に無造作に置かれた魔道具に魔力を込めるのだ。

 『使いもしない王座など魔道具置きで丁度良いではないか。ある意味、儂より国民の役に立つ魔道具こそが座るに相応しいとは思わないか?』

 ロキサス(義父)の発言に反発しつつも、他によい場所がないことで諦めた様子のこの国の最後の重鎮たちの姿に笑い転げた日々が、昨日のことのよう。

 そんな不思議国家も、今では私だけになり…不思議に不思議が上掛けされた状態になってしまったわ。


 私が生まれる前まで…国民をヨトゥンヘイム大国へ送り出すまでは定期的に来訪されていたという、世界機関の役人の使者たちも来ない国。

 「ここは、世界から忘れ去られた国ね…。」

 ふっと小さく息を吐いて、中庭で採れた野菜でスープでも作ろうかと厨房を目指す。

 

 カツカツと一人分の靴音が鳴り響く廊下を歩いていると、目の端に見慣れた白い翼を見つけた気がして窓の外を覗く。

 「ホウホウ…ホウホウ…」

 「あら、出かけていたの?おかえりなさい。マーズ。」

 窓を開けて白いフクロウの姿型をした聖獣を城内に入れてやる。

 中に入ったマーズが私の頭の上で羽を休めたのを確認して、私はふふっと笑いを溢す。

 「人間はいなくなっちゃったけど、私には貴方たちがいるもの。寂しくなんてないわ。」


 ヒルローズ・エーリューズニル。唯一人(ただひとり)のエーリューズニル国民にして、唯一のエーリューズニル王女。

 今はまだ15歳の少女が世界を変えていく【始まり】はこれから先の話。

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