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第二十一話 影の報復

夜明け前。


牢の中はいつになく湿っていた。


鉄の匂いと血のような臭気が、


微かに鼻を突く。


レインは薄く目を開けた。


遠くで、鍵の回る音。


誰かが夜警の時間に合わない動きをしている。


(……動いたな)


体を起こすと、廊下の向こうに人影が見えた。


松明を持たず、足音を殺している。


レオンだった。


レインは寝たふりをした。


やがて、牢の前に立つ気配。


鍵束が鳴り、鉄格子が軋む。


レオンは周囲を確認し、


ゆっくりと扉を開いた。


その手には、短剣。


刃は油で濡れ、反射しないように仕上げられている。


(……殺しに来たか)


レインは呼吸を浅くしながら、


壁際に身体を滑らせた。


心臓がわずかに跳ねるが、


その鼓動さえ“使える”と直感していた。


レオンが囁く。


「悪いな……お前の口は閉じてもらう」


レインは答えず、


床のわずかな砂を靴で擦った。


その音に反応して、レオンが動いた瞬間——


背後から別の声が飛ぶ。


「動くな!」


ハルド看守長の声。


同時に松明の光が差し込み、


数名の看守が飛び込んできた。


レオンは驚き、短剣を取り落とした。


鉄が床を叩く音。


「……な、なぜ……」


「お前が動くと思っていた」


ハルド看守長は冷たく言い放つ。


「詐欺師の言葉に耳を貸すのは癪だが、


奴の推測は当たっていたようだな」


レオンは拘束され、


必死に弁解を口にする。


「違う! 俺は命令されただけだ!」


「誰に命令された」


「上の……管理局の……!」


その瞬間、


どこかで爆ぜるような音が響いた。


地下の通気口から、黒煙が吹き上がる。


火災か? 否、爆発。


看守の一人が叫ぶ。


「倉庫だ! 火が出てる!」


ハルド看守長は即座に指示を飛ばす。


「全員避難を優先しろ! 囚人は外に出すな!」


廊下が混乱に包まれる。


レインは鉄格子の影で、その光景を冷静に見つめていた。


(……来たな。


“上”が証拠ごと口を塞ぎに来た)


炎の光が壁に反射し、牢の中を照らす。


レオンは連れ去られ、


看守たちの怒声が響く中、


レインは小さく息を吐いた。


「……皮肉だな。


真実に近づくほど、周りが焼け落ちていく」


エルドが隣から叫ぶ。


「おい、今なら逃げられるぞ!」


「まだだ」


「何でだ!?」


「混乱が足りない。


火が全てを飲み込むまで、動くな」


火の粉が舞う。


天井が崩れ、石の破片が床を叩く音。


レインの瞳には、燃え盛る赤が映っていた。


(この混乱の中に、“出口”がある)

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