第十五話 綻び
夜。
いつものように静まり返った牢内に、異音が混じった。
鉄格子が軋むような音。だが巡回の足音ではない。
レインはわずかに目を開けた。
(……今のは外だ。通路じゃない)
わずか数秒後、短い悲鳴。
金属のぶつかる音が響き、どこかで水のはねる音がした。
それで囚人たちの眠りが破られた。
「なんだ!?」「誰か倒れたぞ!」
灯りが走り、通路の向こうで看守の声が上がる。
「巡回のブロスが襲われた! 起きろ!」
その名を聞いた瞬間、レインの中の思考が凍りついた。
ブロス——。
数秒後、松明を持った別の看守が現れた。
怒鳴り声とともに鉄格子が開き、囚人たちは壁際に押し込まれる。
通路には血の跡。
ブロスが倒れていた。腹を斜めに裂かれ、うめき声を上げている。
「犯人は!?」
「……わからねぇ。暗闇の中から——」
その時、一人の囚人が震えながら叫んだ。
「レインが! あの詐欺師がブロスと話してた! 昨日の夜も!」
その一声で、空気が変わった。
看守の目、囚人の目、すべてがレインに集まる。
(……最悪の形で、信頼が裏返った)
看守が駆け寄り、鉄格子を蹴り上げた。
「貴様か!? 何を吹き込みやがった!」
レインは両手を上げたまま、静かに答えた。
「俺じゃない」
「言い訳は署長の前で聞く!」
牢が開かれ、鎖が鳴る。
その瞬間、グレンが間に割って入った。
「待て! ブロスがまだ息してる!」
「下がれ!」
「聞けって! 傷の位置がおかしい! 上から斜めに切られてる!」
レインは気づいた。
(……囚人の手口じゃない。短剣じゃなく、軍の刃物。内部の人間か?)
その瞬間、彼の頭の中でいくつもの線が走った。
誰が得をする? なぜ今夜?
答えを探す前に、看守がブロスを引きずって行った。




