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神剣のプロトコル  作者: 深井立花 数白
第1章:ヘタレ剣士とアラモード
7/27

[Process2/5:ごはんと魔物とディフェンダー]Flow1/5

 武器評価を終えた翌日から、俺たちは長剣の販売を開始した。名前は普通に『ロングソード』となった。


 しかし昨日、【天地滅殺剣ナントカカントカ】なんて名前で売れるとは思えないと俺が主張し、改名を促したらエニアは大いにごねた。


「なんでですか⁉ すっごくかっこいいじゃないですか! 絶対、大人気間違いなしです!」


「嫌です! 普通に『ロングソード』なんてかっこよくありません!」


「ふん! リガルさんは中身が子供だから、私みたいな大人のセンスが分からないんです!」


 終いには、


「はは~ん……さてはリガルさん、私の天才的なネーミングセンスに嫉妬しているんですね?」


 とか見当違いなことを抜かしやがった。

 お前のセンスへの嫉妬など、努力してもできんわボケ。


 どうやら例の名前はエニアにとっては(あれで)傑作だったらしい。ちなみにMk.Ⅶ(マーク・セブン)とのことだが、初代~Mk.Ⅵ(マーク・シックス)があるわけではないらしい。どういうことだ。


 そこで俺は説得した。そこらのものとは一線を画す性能の剣の名前が普通に『ロングソード』なんて、逆にかっこよくないか? と。そして【天地ウンタラカンタラ】とやらは、ここぞというものができたときにとっておけ、と言った。

 エニアは俺の言葉に一理あると認め、ようやく改名を承諾した。

 疲れた。


 そして販売開始。最初はエニアに聞いていた通り、全く人が来なかった。しかし、やはり冒険者ギルドが性能を保証する意味合いは大きいのか、徐々に興味を示す人が増える。

 俺も店頭に立たされ、客の質問に答えさせられた。


「なあ、あんちゃん。このロングソードやたら軽いけど本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫っすよ。E級冒険者の俺でも、ウルフリザードが問題にもならなかったくらいっす」

「本当か? は~ん……見た目にはよらねえなあ……まあ、安いし、試しに1本もらおうかな」

「まいど」


 隣で聞き耳を立てているエニアの表情がわずかに緩む。うれしそうだな。そりゃそうか。

 自分が関わったものが売れるのは、俺も少し嬉しいかもしれん。


 結局、その日の午前中に3本売れた。流石にこれだけでは職業ランクも商業ランクも上がらないだろうが、全く売れなかったことに比べれば大きな進歩だろう。


 昼、エニアは厨房で鼻歌交じりに食事を作っている。仕事を始めて知ったが、エニアは凝り性だ。料理も凝るし、美味い。

 今日は香草や調味料に漬け込んだ鶏肉に薄い衣をつけて揚げるらしい。スパイシーな香りが漂ってきて食欲が刺激される。

 うむ。楽しみだ。


「お待たせしました、リガルさん。ごはんができましたよー」


 エニアは大きなトレーで料理を運んできた。そして俺の前に置く。向かいの自分の席に置く。最後に『俺の隣に座っている奴』の前に置く。


 そう、今このテーブルには、俺、エニアのほかにもう一人、知らない女が座っている。槍と大楯を持ち騎士風の金属鎧を着けた、無表情で少しぼーっとした女。多分エニアと同年齢くらいだ。

 その緑色のショートヘアからはネコミミが飛び出している。尻尾も生えているあたり、獣人だ。


 何を考えているか分からないが、食事の準備中にしれっと入って来て、今まさに俺たちの昼食に参加しようとしている。


「……いただきます」


 フォークとナイフを手に取り、そいつはご丁寧にお辞儀をしやがった。


「いただくな。お前誰だ」


 いただきますって言えば食べていい法律はない。


「わたしが何者か……という問いには、このごはんを以て答えようぞ……」

「答えなくていい。帰れ」


 俺はネコミミ女騎士の料理をひったくった。


「あ……ごはん……」


 そいつは酷く悲しそうな声を出し、耳と尻尾がへろへろと垂れ下がる。ほんのり罪悪感。


「大体エニア、なぜ見知らぬ人にメシを出した?」

「いや~、リガルさんがいつツッコむかな~と思いまして。それに……」


 エニアは彼女を気の毒そうな目で見る。


「お腹すいた……ごはんを下さい……」

「なんだかすごく困ってそうです」


 ネコミミ女騎士の腹が弱弱しく、きゅーと鳴った。


「困ってるの……ごはんを下さい……」

「まあ、それはなんとなく分かるし、メシ作ったエニアがいいならいいけどさ……」

「じゃあ、ごはんにしましょうか」


 全く、お人好しめ。


「「「いただきまーす」」」


 なんか納得はいかないが、冷める前にいただくことにする。さっくりカラッとした衣をまとった揚げ鶏を早速……。


「ばくばくもぐもぐがつがつむしゃむしゃ!!」


 えらい勢いでがっつくネコミミ女騎士。


「お前は少し遠慮しろ!」


   ◇◆◇◆◇


 メシ、美味かった。それはいいとして。


「で、結局お前は誰?」

「ん……わたし、ヒスイ……冒険者……」


 昼食後、食卓でそのまま尋問を開始すると、ようやく女騎士は名乗った。


「ヒスイさん、なんであんなにお腹を空かせていたんですか?」


 ヒスイが食事をもらおうとした経緯をエニアが尋ねると、また耳と尻尾がへろへろと力を失う。


「お金、なくなっちゃった……」

「じゃクエストでも受けろよ。冒険者なんだろ? パーティは組んでないのか?」


 俺に言えた事じゃないけどな。


「う、あ、その……前組んでたパーティは……ちょっと、あの、辞めたの……」


 おい、なんでしどろもどろになってんだお前。


「じゃソロでクエスト受けろよ」

「そうなんだけど……」

「リガルさん、あんまりいじめちゃダメです。きっとヒスイさんにも事情があるんですよ」

 

 おっと、エニアに追求を止められてしまった。この女に同情しているのか。


「そう、事情があるの……いじめるのは人道にもとる行為なの……」


 エニアの言葉に乗っかるヒスイ。


「お前調子いいな」

「まあまあリガルさん、まずはヒスイさんのお話を聞いてみましょうよ」


 というわけで話を聞く。ヒスイはC級の冒険者で、前のパーティでディフェンダーをやっていたが、今は一人で活動しているらしい。

 しかし、ひとりでクエストを行うのは慣れておらず、失敗続きで報酬が得られなかった。それで食べるものにも困っていたところ、この工房の前に貼り出されていた『ディフェンダー&ヒーラー募集』の貼り紙を見かけたらしい。

 そうすると、中からいい匂いがしてきたのでつい、ふらふらと食卓に着いてしまった、とのことだった。


 まあ、最後のひとつ以外は理解できる。俺も似たようなものだし。

 その話を聞き、エニアはがばっと身を乗り出して食いついた。


「ヒスイさん、ディフェンダーなんですか⁉ うちの募集を見て、来てくれたんですか⁉」

「うん……わたし、ディフェンダー……貼り紙、見てきた……」

「ありがとうございます! じゃあ、お仕事をお願いして……」

「ちょっと待った」


 俺ははしゃぐエニアを止めた。


「おいヒスイとやら。ひとつだけはっきりと聞いておく。お前、なんで組んでいたパーティを辞めた?」

「う……それは……それは……」


 俺の質問に答えられず、だんだんと冷や汗をかいてきたヒスイ。

 俺は直感的にだが、こいつがソロで活動していた理由に見当がついていた。


「お前、追放されたんじゃないだろうな?」

「ぎく」

「図星か」

「ち、違う、図星じゃない……むしろ、私が仲間に愛想を尽かせて見限ったっていうか、その、そういう感じなの……そして、いじめるのは人道にもとる行為なの……」


 微妙に俺を直視しないヒスイ。その視線はアクロバティックに泳いでいる。たとえるなら、バタフライだ。怪しい。


「じー」

「あう、あうあうあ……」

「もう、リガルさん。そんな決めつけは良くないです。せっかく募集に来てくれたんですから、ここは前向きに……」


 エニアはヒスイの不審な点には目をつぶるようだ。しかし、


「エニア。お前もラインナップ増やしたいからって、安直に飛びついているわけじゃないだろうな?」

「どき」

「お前もか」

「だってだって! 剣しか売り出せないなんて嫌です! 他の武器も早く売りたいです!」

「だからって……」

「売りたいです! 売りたいです!」


 腕を振り回してバタバタするエニア。こいつは武器のことになるとわがままだなあ……。


「あのなあ、ディフェンダーはパーティの生命線だぞ? そう簡単に信用すると痛い目見るぞ」

「むー、だったらヒスイさんは仮採用ということにします。一度ディフェンダーとしてお仕事してもらって、本採用はそれからということで。ヒスイさん、それでいいですか?」

「ん、大丈夫……わたしは、やればできるオンナ……」


 自分の胸をぽむ、と叩いて安請け合いするヒスイ。

 できないから食いっぱぐれてるんだろうが。


「はあ……いいのか、こんなんで……」


 天井を仰ぎ見てしまう俺。

 こうして、武器屋の仲間、というか不安要素が増えた。

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