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第28話:Process5[濡れ衣の枚数]Flow4

 時間は遡り、リガルがウィリオンとともに何者かの襲撃を受けた前日のことである。


 ヒューレ錬金術工房・武器販売コーナーにはプリシラが店番として座っているだけだった。エニア・ヒスイ・クードは休憩室の机で、額を付き合わせて話し合っている。


「皆さん、〝あの話〟はどう思いますか? 私はちょっと信じられないんですけど……」


 エニアが他二人に尋ねた。


「わたしも、全然想像つかない……」


 エニアとヒスイは話題に上がっている〝あの話〟というものに懐疑的だ。

 一方のクードは……、


「僕は……悪いけど、正直少しは可能性があると思った。ファシエさんを疑いたくないし……でも、やっぱり何かの間違いなんじゃないかと思う」


 彼も結局、他二人と同じ意見に落ち着いたようだ。

 エニアはほっとした顔で、次の話に移る。


「皆さん同じ気持ちで良かったです。でも、なんでファシエさんは〝あんな話〟をしたんでしょうか?」


 エニアの問いに、ヒスイとクードは首を横に振る。


「分かんない……」

「僕も分からない……でも、ファシエさんはきっと悩んだ上で"あの話"をしたんだって事は分かるよ」


 クードの言葉に、エニアも頷く。


「私もそう思います。あのときのファシエさん、なにか思い詰めているように見えました。それが単に〝あの話〟のせいなのか、もしくは……」


 三人の間に、しばしの間沈黙が降りる。

 その中、ためらいがちにヒスイが口を開く。


「……ふぁしえ、嘘ついた……?」

「……僕としては、そんなことは考えたくないけど……」


 考え込むヒスイとクード。しかしエニアは、やはり攻めの発現をした。


「ここは、私たちで独自に調べてみましょう。一体この街で、誰が、何をしているのかを。ちょっとプリシラさんに店番をお願いしないといけませんが……ヒスイさん、クードさん、それでいいですか?」

「僕は問題ないよ。この事態をはっきりさせたいからね」

「うう……人と話すのは怖いけど……ちょっと頑張る……」


 そして3人は、リガルとウィリオンとは別の行動を取り始めた――


   ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 俺とウィリオンを、ファシエが正体不明の人間達と共に襲撃して逃げていった。その事実は俺たちが動揺するに十分な衝撃をもたらした。普通なら、そのことは騎士団に報告すべきものだ。


 しかし、俺たちは悩んだ。ファシエが何の理由もなくこんなことをするとは思えなかった。理由があるのなら、それを知りたい。

 その思いはウィリオンも同じだったようで、騎士団に報告するのはアークハウスの拠点内を調べてからにしたいと言い出した。


 俺も手伝いたかったが、部外者の俺が拠点内を調べているのは、それはそれで怪しい。


 これ以上事態をややこしくしないためにも、アークハウス内の調査はウィリオンに任せ、俺は工房へ戻った。


 翌日から、武器屋の仕事をしながらも、ファシエの事が頭から離れなかった。なぜ俺たちを襲撃するような真似をしたのか。


 ウィリオンの言ったように、俺たちが魔物の暴走について捜査している事をよく思わない奴らの妨害なのだとしたら、その事件にファシエも関わっているということなのか。


 それも考えられない。ファシエは他者が傷つくことを嫌い、自分に大けがを負わせた魔物との共生を考えるようになるほど心優しい人物だ。何か、何か理由があるはずだ。


 気になることと言えば、ファシエの件の他にもある。俺が戻ってくる前から、エニア・クード・ヒスイが全然店にいないのだ。計算が苦手なはずのプリシラに店を任せて、3人はずっと外出している。


 何をしているのかと聞いても、新しい武器と評価の準備だと答えるばかり。何か隠しているような気がするんだが……。まあ、ファシエのことを隠しているのは俺の方も同じなんだが。


 そして、いつもと同じように見えるプリシラの方も、何かがおかしいことに俺は気づいていた。


   ▽ ▲ ▽ ▲ ▽ ▲ ▽


 そして、今日もプリシラと二人で交代しながら店番。

 今は俺の方の休憩時間なのだが……、


「あ~も~、お客さん、全然来ないじゃんか~」


 交代の時間を無視してプリシラが控え室に入ってくる。


「おいこら、ちゃんと店番しとけ、エニアに怒られるぞ」


 俺が至極まっとうな注意をすると、プリシラはふてくされたようにこちらをにらむ。そして、テーブルの上のクッキーをつまんで口に放り込み、サクサクかみ砕きながら話す。


「だってぇ~、どーせお客さんなんかこないしー、ずっと座ってるだけじゃつまんないんだもん……」


 そう言って、普段からそうするように、机に腕と上半身を投げ出してだらける……"プリシラ"。


「……」

「ねーねー、なにか面白い話とかないのー?」

「あ~、面白い話ってんじゃないけど、お前にちょっと聞きたいことがある」

「ん、アタシに聞きたいこと? なになに?」


 そして、軽く身を乗り出したプリシラに、俺はさきほどから感じていた疑問を投げかけた。


「……お前、誰?」


 プリシラの、いや、プリシラのように見える何者かの目に、一瞬だけ高度な知性の光が掠めた。しかし次の瞬間には、何とも頭のゆるそうな雰囲気に戻る。


「誰って、どういうことー? アタシ、プリシラだよー。見てわかんない?」

「パッと見じゃいつも通りだ。だが、なにかおかしい。そう思う材料はいくつもある」

「ん~、そう言われてもさあ~……その材料ってなに? 例えばどんなこと?」


 困惑しているような表情も、いつものプリシラと同じに見える。しかし、


「プリシラが歩くときは、大抵重心が安定していない。でも今のお前は、本来安定している重心をわざと崩しているように見える」

「え、そんだけ?」

「他にもあるぞ。足音だってわざとドタバタさせてるし、物を見るときの眼球の動きがちがう。それに、プリシラはクッキーを食いながらそんな器用に話せない」

「ええ~、リーくんの勘違いじゃないのー?」


 その呆れる表情も、やはりプリシラのものだ。


「あと、決定的な証拠がひとつある」

「証拠って~?」

「ああ、プリシラはな……」


 そして俺は言い放つ。


「俺と二人きりのときは、俺のことを『お兄ちゃん♡』って呼ぶんだよ」


 ……沈黙。


 沈黙に次ぐ沈黙。


 しかし、プリシラの振りをしているソレの表情が徐々にニヤけだし、テーブルに頬杖をついた。プリシラなら、こんな人を馬鹿にしたような表情はしない。


「く、くっだらないなあ~、もう。【神剣じんけん】くんさあ、もうちょっと何とかなんなかったの?」

「あ? お前みたいなワケ分からん奴にはこれくらいでちょうどいいだろ?」


 そして俺は、椅子に座り直したソイツと改めて向き直る。

 以前、ヒューレ店長がプリシラを診察したときに、何かが気になっていた様だった。それが、目の前のコイツのせいだったのかは分からんが――


「一体何の用だよ……"アホ毛様"?」

"アホ毛様"。何者でしょうか。


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よろしくお願いします。

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