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ピュアバースへようこそ!  作者: てんた
最終決戦遍
28/30

第28話 集合会議

最終決戦編 第三回

 関係者全員が集合して、会議が開かれる。

 塾に使われているというその広い部屋にいるのは、仮称・奈田先生、本名・胡桃沢寧人――お父様、胡桃沢マリ――お母様と、クララ。アンナ、ニイナ、ダリヤと、そのお母様方。そして、金平糖子先生。ピュアメイトの第一世代と第二世代、その全員。

 お父様は、伊達眼鏡を外して、ひげをきれいに剃り、以前がうそのような男前になって現われ、アンナとニイナを驚かせた。ダリヤは、なぜか満足げにそれを見ていた。

 お母様は、当たり前のようにお父様の隣に座る。美男と美女……なるほど似合いのカップルに見える。けど、お母様が顔を向けても、お父様は目を合わせない。シャイなのかもしれない……けど、反対側の隣にいる金平先生とは、普通に目を合わせる。身長差はあるけど、こちらの方が夫婦然としている……クララは、何となく胸が詰まる思いがした。

「皆さん、急にお集まりいただき、申し訳ありません」

 お父様が話し始めた。

「まず、泥瀬教授の病状について、あらためて報告します。病名は脳出血。僕より症状は重い。けど、一命はとり止めた。意識ははっきりしているけど、どうやら意思を失っていて、人に指図されないと行動ができなくなっている。交代でなるべく付き添っています。今後どれだけ回復するかだけど、僕自身と糖子君の経験が、看病に生かされればと思います。

 では、本題に入ります。十数年前の僕達の問題は、誰もがピュアバースに没入できず、ピュアメイトに変身できなくなくなることだった。今起きている問題は、逆に、没入し過ぎること。そして、ピュアメイトに変身していない時にも……ピュアバースの外でさえも、無自覚にPIの能力を使えるようになってしまっていること。アンナ君、ニイナ君、ダリヤ君がテストで全教科満点を取ったことが、その証しだ。今、3人に何が起きつつあるのか。ピュアメイトはピュアバースにおけるアバターに過ぎないはずなのに、ピュアメイトの方が本体になってしまうのではないか。その恐れもなしとは言えない」

 「3人」と言われるたびに、クララは胸が痛む。仲間外れにされている気がする。

 確かに、ピュアメイトに変身した回数は少ない。それに、変身時に苦痛がある。アンナ達には苦痛がないと言う。

(わたしには、素質がないのかもしれない)

 アンナ達は、選ばれた子。わたしは、選ばれなかった。お母様達のように、いずれ変身もできなくなるのかもしれない。

 選ばれるのがいいことなのかはわからない。けど、アンナ達と一緒にわたしも戦いたい……クララはそう思う。

「そこで、アンナ君達には、ピュアメイトの活動をやめてもらうことにした。今まで本当にありがとう。そして、君達を危険に晒してしまったことを、心からお詫びします」

 え?……わたしは?……わたしも対象?……それとも、わたしだけは違うの?

「わたしは、先生のご意見に反対します」

 アンナが声を上げた。眉間にしわがよっている。

「PIの暴走は、まだ封じられていません。わたし達の役割は、まだ果たされていません。それに危険と言いますが、それほどの危険でしょうか?」

「むしろ成績が上がってありがたいです。この塾に通って良かったです」

 ニイナが言った。これは、緊迫した場の空気を和ませる冗談のつもり……だろうけど、誰も笑わない。誰にも、笑える余裕がない。そのために、呑気なニイナが本気でそう言っているようにも聞こえるし、あるいはきつい皮肉とも取れる。

 お父様もニイナは無視して、アンナに向かって反論する。

「ピュアバースから、戻って来られなくなってからでは遅い。僕は意見を述べているのではない。決定を伝えている」

「それは横暴です。PIを制御するためにわたし達、ピュアメイトが必要なのでしょう? なぜわたし達の意見を聞かないんですか?」

 アンナも言い返す。頑固な彼女は、思い込んだら大人相手にも引かない。

「危険が予想される以上、続けさせるわけにはいかない。ピュアバースの危険を軽視して、死にかけた僕の、これは義務だ」

「先生のおっしゃることはわかります」

 ダリヤが口をはさんだ。クールな彼女も、緊張のゆえか少し声が震えている。

「でも、将来的に危険があるとしても、今それが差し迫っているとも思えません。ゴーグルを使わないピュアバースへの没入は、わたしにも経験があります。アンナにしても、まだコントロールできない状態ではないと思います。PIの能力が使えると言っても、記憶力とか思考力とか、元々あるものが強まっただけで、まだ人の心を読むみたいな、超能力が生じたわけではありません。ですから、もう少し、ピュアメイトを続けてもいいのではないでしょうか」

「もう少しだけ、と言っている間に何かあったら、取り返しがつかない。今やめるしかない。人魚姫の時には、全員が同時に夜、寝ている間にピュアバースに入ってしまい、僕が気付いていなくてフォローできなかった。危険は増していると言わざるを得ない」

「でも、まだPIが制御できていません。世界を救うためには、危険を冒すこともやむを得ないのではないですか?」

 アンナが言った。筋論で押すつもり……これにはお父様も手を焼こう。

「PIは、人間のためにいろいろしてくれている。物語を消したことにしても、彼なりに合理的な話につくり変えた上で、再び世に出そうとしていたのかもしれない。それも君達のおかげで、最近はなくなっている。そもそもそれは子供の遊びのようなもので、情緒の発達と共になくなって行く……そうも期待できるんじゃないか?」

 PIは音楽を消そうともした……クララはそう言おうとして、とどまった。PIの暴走には、大おじ様、お母様、そしてクララ自身も、濃淡はあれども関わっていた。お父様は、少なくともこの場では、そこには触れない。PIの暴走を、大きくも言わない……お母様とクララを、かばおうとしているのかもしれない。

 けど、アンナは納得しない。お父様との応酬が続く。もしアンナに、PIの側に立っていた過去を非難されたら……そう考えるだけでクララは、胸がつぶれる思いがする。

「物語の中で、PIは常に真剣でした。子供の遊びと軽視はできません」

「軽視はしていない。その物語の中に君達が没入したまま、戻って来られなくなる恐れを重視している」

「そもそも、ピュアメイトがピュアバースに没入を続けることは、PIを制御し続けるためにはむしろ必要なことなのではないですか?」

 中学生が大人、それも科学者と対等に論争する。そこにもう、PIの能力が発揮されているのだとしたら……けど、アンナはPIの代弁者でも操り人形でもない。意思は自分で持っているはず。

「必要性ではなく、危険性の評価によって決定する。没入して戻って来ない、これが危険でなくてなんなんだ?……没入はいいとしても、戻って来られないのはだめだ」

 ニイナが割って入る。

「では先生、あと一回だけ。それでどうでしょうか? あと一回で、PIと決着をつける。つかなくても、それで終わりにする」

 お父様は、目が泳いだ。動揺している。隣を向いて……お母様ではなく、金平先生の方を向いて、小声で何やら話し出した。クララは、それを見るのが、つらい。

「ちょっと待って下さい」

 クララは、耐え切れず声を上げた。お父様も、金平先生も、話をやめてこちらを見る。

「わたしはどうなるの? わたしは、わたしだけは、今後もピュアメイトになっていいの?」

 お父様は、また金平先生の方を見て、軽くうなずいた。任せる、という意思表示のようだった。金平先生が話し出す。

「今、皆さんに意見をいただきましたけど、皆さんは未成年です。それぞれ保護者と、話し合って下さい。その上でまた全体で集まって、結論を出しましょう。クララさんも、先輩とマリさんと相談して下さい」

 次いでお父様が話し出す。

「話し合っていただく選択肢は、2つ。もうピュアメイトをやめるか、あと一回だけ変身を許すか。他はありません。これが妥協点です。親子で話し合って、あとで結果を教えて下さい」

 金平先生が立ち上がった。

「アンナさん、ニイナさん、ダリヤさんとそのお母様方は、2階にご案内します。別々に部屋で話し合ってもらいます」

 皆、ぞろぞろと2階への階段を上がって行く。まだ何か言いたげだったアンナも、母親に促されて去った。残ったのは、3人……お父様、お母様と、クララ。

「本当は、マリと2人で話し合ってくれればいいんだ。僕に保護者の資格はない」

 お父様が、クララを見て言った。全体会議の時から席を移動していないため、大きなテーブルを挟んで、クララだけが離れた所にいる。

「けどクララ君、君はアンナ君達とは違う。先ほどの君の質問だが、君の身にはまだ大きな危険は迫っていないと見ている。だからまだピュアメイトを禁じる必要はないと思う」

「では、わたし一人がピュアメイトとして戦い続ければいいのね? 危険のあるアンナ達は、もう変身しなくていいと」

「僕もそう思っていた。けど……あと一回、最終決戦を3人でやってほしい。そうも思えて来た。結論は、3組の親子の考えに委ねようと思う」

「最終決戦を……3人で? わたしも入れて4人でしょう?」

「最終決戦には、君を参加させない。君は温存する」

「なぜ? わたしが一番、危険が少ないのでしょう?」

「少ないのと、ないのは違う。万が一の場合に全滅を避けるために、君には残ってもらう」

「なぜ?……なぜ残るのがわたしなの?……自分の娘だから?」

「あとに残れるのが、君だけだからだ。アンナ君達には、次はない」

「クララ」

 お母様が、初めて口を開いた。この時初めて、お父様がお母様に目をやった。クララは、それだけで嬉しかった。

「あなたのアバターは、まず寧人が使い、次にわたしが使った。PIに最も強く拒まれた2人。その影響が、恐らくあなたに及んでいる。ピュアトルスタヤ達とは違う。変身時に苦痛があるのも、そのため。その代わり、没入が深まらず、危険が少ない。だから、最終決戦では、アンナさん達を信じて、あなたは待って。待つことが、あなたの戦い。その後が必要になれば、そこが、あなたの出番。それが、あなたの役割。あなたは強い子だから、それができる。わたしも寧人も、信じてる」

 クララが栗木さん達に言ったようなことを、お母様がクララに言う。これは、逆らえない。けど……待つにも、方法があるはず。

「わかった。けど、一つだけ条件を出させて。最終決戦で、わたしはピュアメイトに変身はしない。けど、ピュアバースには入らせて。アンナ達の戦いを、この目で見守りたい」

「あなたの考えはわかるわ……いざとなったら変身する気ね。それはだめ」

「いや、認めようよ」

「いいの?」

「ああ。その代わり、僕が絶対に変身させない」

 お父様とお母様は、見つめ合った。隣に座っているから、距離は近い。クララは、それだけで嬉しかった。わたしには両親がいるんだ……そう初めて実感できた気がした。

「失礼します」

 低い声が聞こえた。いつの間にか階段の下に、金平先生が立っていた。いいところだったのに邪魔をして……こういうところが、嫌い。クララは金平先生をにらみつけた。

「上の話し合いは済んでいます。こちらはどうですか?」

「いいね?」

「ええ」

「はい」

「OKだ。全体会議を再開しよう」


 アンナ達のお母様達が一人ずつ、親子の話し合いの結果を述べた。皆、あと一回だけ変身して、最終決戦に臨みたい、ということだった。クララはアンナが気になってじっと見つめていたが、相変わらず眉間にしわを寄せているものの、何も言わなかった。不承不承、承服させられたのかな……そう思った。

 最後にお父様が、クララのことを伝えた。クララは身にまだ大きな危険が迫っていないから、変身はあと一回に限らない。ただ最終決戦では、不測の事態に備えて一人変身を避ける温存策を取る。この役割は、今後も変身できるクララにしかできないから、理解してもらいたい……クララはアンナ達の反応が気になったが、特に表情に変化もなく、発言もなかった。

 アンナ達3人が最後の変身をし、PIと話をつける。そう決まった。日時については、土曜日丸一日を休息に当て、日曜日の朝8時半に、この塾で決行。そうお父様が提案し、誰からも異論が出ずに、そのまま決定した。

 散会となった後、アンナが金平先生に、最後に子供だけで話し合いたいので、先ほど使った部屋を貸してほしい、と頼んで、OKをもらった。お母様達は先に帰り、クララ達は階段を上がって、ある部屋に入った。普段、2階は全て金平先生が使っている。そこは書斎とのことで、机と椅子、あとは本棚があるだけの簡素で殺風景な部屋だった。専門外のはずの医学書が、たくさんあるのが目につく。

(お父様の看病のために勉強したんだな)

 金平先生は、長くお父様を支えていたと言う。何となく嫌っていた彼女を、見直す機会が近頃は多い。

「奈田先生にしてやられた。親子で話し合う前に、まずわたし達だけで話し合うべきだったと思う」

 アンナが口を切った。一つだけの椅子にニイナが座り、あとは皆、畳に直に座っている。

「でもそれで結論が変わった?」

 ダリヤが尋ねると、アンナが答える。

「変わらなかったかもしれない。でもみんなに、わたしの考えをよく知ってもらいたかったし、クララのことも先に知っておきたかった」

「ごめんね。けど、わたしも知らなかったの」

 クララは言った。

「わたしだけ残るなんて、本当は嫌なの。みんなに申し訳ない」

「心配ないよ」

 椅子の上から、ニイナが言う。

「クララちゃんがこの先、一人で戦う必要はない。最終決戦で、けりをつければいいんだから……最終決戦って、なんか響きが格好いいよね」

「ちょっと待って。アンナの考えって、何?」

 ダリヤが聞いた。アンナが答える。

「ピュアメイトの危険は、ピュアバースに没入しすぎること……でもそれってやっぱり、PIを制御し続けるためには、むしろ必要なことだと思う」

 皆、しんと静まり返った。アンナが、さらに過激なことを言おうとしている?

「変身はあと一回って言われた時、PIとの戦いに決着がつくまで、変身しっぱなしでピュアバースにずっといればいい、って思ったの。可能だと思う?」

 アンナの問いに、ダリヤが答える。

「可能かもしれないけど、長く変身していると、たとえ決着がついても、戻って来られなくなるのかも……それが先生の言う危険なんじゃない?」

「でも、むしろそれが必要なんじゃないか、というのがわたしの考え」

「戻って来られないのは、やっぱり嫌じゃない?」と、ニイナが言う。

「わたしも戻って来られないのは嫌。でも、世界を救うためにそれが必要だとしたら?」

 そう言えば、アンナ達は塾に入る際に、危険があっても世界を救う、という誓約書を出していると言う。クララは塾に入っていないから出していない……そういう細かいところにも差があるのが、嫌ではある。

「わたしね」

 ダリヤが、落ち着いた口調で言う。

「人魚だった時、アンナとニイナを助けるために、尾を脚に替えたでしょ。海の生活を捨てて、王子と結婚して、人間として生きることも真剣に考えたの。でも、そうはならなかった。アンナの考えは、その時のわたしの考えに似ているかもしれない。誰かを助けるために、別の世界に行って、戻らない。でも、そう考えても、結局そうはならないんじゃない? 相手は同じPIなんだから」

「わたしは結婚するわけじゃない。戦いに行くの」

「人魚姫の王子が魂をほしがっていたのも、PIの願望の現われなんじゃない? 最終決戦って言っても、そもそもどう戦うのか、どんな決着があり得るのか、イマージュある? 誰かが魂を与えないと、PIが納まらないのだとしたら?」

 今度はダリヤの言葉に、皆が黙った。よし、ここは、わたしの出番……クララは意を決して、言った。

「今考えてもわからないなら、出たとこ勝負しかないでしょう? 決着がつけばよし、つかない時は、戻って来て。そして、あとはわたしに任せて。あなた達が、決着がつくまで戻らないなら、わたしが残る意味がない。わたしもみんなと行きたい。けど、わたしには違う役割がある。だからわたしは、歯を食いしばって、残るの。その役割を、みんなに認めてほしいし、わたしがそれを果たし得ることを、信じてほしい。そして必ず、戻って来て。お願いします」

 クララは自然に、涙があふれた。

「わかったよ。信じる。クララちゃんも、わたし達を信じて」

 ニイナが椅子から下りて、抱き着いて来た。勢いがあり過ぎて、クララはニイナと共に畳の上に転がった。

「痛い」

「ごめん」

「クララ、ありがとう。アンナも、いいわね?」

 ダリヤが言ってくれた。アンナも、ほほ笑んでいる……これはOKね。やっぱりかわいい……今度は、クララがアンナに抱き着いた。この感触……隕石が落ちた時を思い出す。

「わたしは?」

 ダリヤが言って、抱き着いて来た。さらにニイナが乗っかって来る。重い。

 大騒ぎし過ぎて、金平先生が見に来た。

「けんかしているのかと思ったわ」

「最終決戦に向けたトレーニングです」

 ニイナが言った。みんなで笑った。


(続く)

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