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ピュアバースへようこそ!  作者: てんた
三匹の子ぶた編
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第11話 子ぶたのお泊り

三匹の子ぶた編 第三回

 西の空が赤くなる頃、わらの家はとりあえず完成した。技能と材料の不足のため窓は一切なく、出入り口は小さな穴のような隙間にむしろを垂らしただけのもので、潜って出入りする。室内には束を解いたわらを敷き詰めた。とうもろこしの夕食を大急ぎで採り、おトイレも済ませて、皆、わらの中に潜り込んだ。

「日が沈んだら眠り、日が昇ったら起きる。これが子ぶたの生活ね! 明日は早いよ! みんなおやすみ!」

 一日の労働で疲れてもいた。すぐ眠れるだろう……と、ニイナは思ったが、そうではなかった。日頃はもっと遅くまで起きているから? それとも、友達とのお泊り会でハイになっている?

 室内は真っ暗で何も見えないが、何しろ狭い家なので、息遣いや身動きの音で誰が何をしているのかはわかる。

(ダリヤちゃんも眠れていないみたい。アンナちゃんは……どっちかわからない)

 アンナからは息の音と共に、くっついた唇が離れる時のパ行のような破裂音が激しくしているのだが、起きていて小声で何かをつぶやいているのか、眠っていてむにゃむにゃ言っているだけなのか、判断がつかない。ニイナは我慢できなくなって、ひそひそと無声音で言葉を発した。

「ダリヤちゃん、起きてる?」

 聞こえるかどうか心配だったが、すぐ返事があった。

「起きてる」

 ダリヤも無声音で話す。ニイナは続ける。

「アンナちゃん、起きてると思う?」

「何か、言っているみたいだけれど」

「寝言かな?」

「わからないわ」

 もう我慢できない。

「アンナちゃん、起きてる?」

 アンナの様子に変化はない。相変わらず、破裂音が聞こえる。ええい、有声音で言うよ!

「アンナちゃん?」

 自分で驚くほど、声が大きく響いた。アンナの破裂音が、止まった。

「なあに?」

 アンナの声。普段通りのクリアな音声で、寝ぼけた感じはない。

「ずっと起きてた?」

「ええ」

「何してたの? 何か言ってた?」

「眠れないから、一人で、しりとられしていたの」

 え?

「しりとり?」

「ううん。しりとられ」

 え??

「えーと、それ何?」

「しりとられ、って何よ?」

 ダリヤも知らないようだ……知らないよね? 何?

「りんご」

 え??? アンナちゃん、何?

「って言ったら、ゴリラ、って続けるのがしりとりでしょう?」

「あー、うん」

「とり、って続けるのが、しりとられなの」

 え?……りんご……とり……。

「わかったわ」

 ダリヤが言った。なんか、得意げ……。

「前の人が言った言葉の、最初の文字が最後に来るような言葉を次の人が言うのね」

 りんご……とり。とり……りんご。しりとりの逆順か!

「そうなの。前は弟が眠れない時によくやっていたのだけれど、今は部屋が別だから」

「そうか! 今日は久しぶりに弟と寝るんだね! しかも2人とね!」

 言ってからニイナは、しまった、と思った。アンナを長男とみなして、またダリヤを刺激した?

「じゃあ、わたし達でやってみる?」

 そう言ったダリヤも何か楽しそう。大丈夫だった!

「じゃあ次わたしね!」

 言ってからニイナはまた、ダリヤに先にやらせればよかったかな、と思った。でも、この順番でないと、やっぱり収まりが悪いんだ。

「じゃあ、とり、の次、お願いね」と、アンナ。

 と、で終わる言葉……ええと、あれ? 意外と難しい?

「しりとりより、難しいかも?」

 ダリヤが言った。ダリヤも考えているが、すぐは思いつかないようだ。

「ヒントほしい?」

 アンナが言う。うーん、悔しいが……。

「下さい! 初心者なんで許して」

「学校の授業で使う」

 え? えーと、何だろう?

「わかったわ」

 ダリヤが言った。また得意げ……。

「わたしからもヒント、上げようか?」

 何かアンナに言われるよりも悔しい。でも……。

「悔しいけど、お願い」

 ダリヤは笑って、言う。

「じゃあヒント。カキカキカキカキ、カキカキカキカキ」

 え?

「それ、ほんとにヒント?」

「ヒントよね? アンナ」

「大ヒントだと思う」

 え? カキカキカキカキ、カキカキカキカキ……あ!

「わかった! ノート!」

「正解」

「やったー! でも、しりとりより難しいね! しりとらず」

「しりとられ」

「あ、そうか」

「楽しいね。ニイナも、弟とこんなことしてる?」

 ダリヤが言った。確かにこんなに楽しそうなダリヤは、初めてかもしれない。

「わたしは、動物あて、とかかな」

「それは何?」

「わたしは動物です、誰でしょう、って1人が言って、他の人がいろいろ質問して、正体を当てるんだ。何を食べますか、とか、何色ですか、とか、どこにいますか、とか聞いて、その答えを聞いて、だんだん絞っていく」

「へー。それも楽しそう。やっぱり、兄弟がいると楽しそうね。わたし1人っ子だから、うらやましい」

 そうか、ダリヤちゃんはこういう夜を過ごした経験がないんだ……ニイナは少し胸が詰まった。

「わたしとアンナちゃんが、ダリヤちゃんと兄弟以上の親友になるよ。兄弟はけんかもするけれど、たとえけんかをしても関係は絶対変わらない。そんな仲になろう。ずっと一緒にやって行こうよ!」

「ありがとう。お願い」

「アンナちゃんも、いいよね?」

「わたし達は親友。もうなってる」

「もうって、いつから?」

「さっき」

「さっき?」

「そう。しりとられをしたから、もう親友」

「そこ?」「それが基準?」

「そう」

 平然と言うアンナ。ダリヤも、ニイナも爆笑。今夜は楽しい。


 目覚めたニイナは、状況が理解できなかった。

 ここはどこ? わたしの部屋じゃない……天井も壁も布団も、わらの塊……そう、ここはわらの家……わたし達が昨日作った、わたし達の家。今日は、木の家を作るんだっけ。

 アンナも、ダリヤもいない。わたしだけ、寝坊した?

 わらをかき分けて、むしろをめくって外に出る。陽光が眩しい。

「おはよう」

 ダリヤが、むしろの上に座ってとうもろこしを食べている。

「おはよう。ごめん、寝坊しちゃった?」

「わたしもさっき起きたところよ」

 影は長く、太陽はまだ低い。でも、夜明けからは久しいはずだ。

「アンナは、川に顔を洗いに行っている」

 ニイナの疑問に先回りして、ダリヤが言った。アンナも早起きしたわけではないみたい。

「じゃあ、わたしも行ってくるね」

「ええ」

 お母ちゃん?の用意してくれた物資には偏りがあって、家を建てるための資材は豊富にあるが、建った家で生活するためのものが少ない。おトイレ用のちり紙こそあるが、衣服などの布製品はまるでない。水がぬるめば川で水浴びもできようが、着替えがない。洗濯も川でするしかないが、乾くまで裸でいないといけない。

(兄弟なら裸は見慣れている。親友も裸を見せ合いっこするものなのかな)

 アンナちゃんが川に裸でいたらどうしよう……と思っているうちに川に着いたが、もちろんそんなことはなかった。我ながら変なことを考えるのは、まだ寝ぼけているからか、と、ニイナは思う。

「おはよう」

「おはよう」

 アンナが振り返り、がらがらうがいをした水を口から吐いて言った。顔が水に濡れているが、タオルがないから濡れっぱなしだ。

「この川に魚いる?」

 昨日のダリヤの言葉を思い出して、ニイナは言った。

「大きな魚は見たところいないみたい」アンナが言った。

「深いところにはいるかもしれないけれど、網がないと捕るのは難しいかもしれない。むしろ森に動物がいるなら、わなを仕掛けたい」

「動物ってどんな?」

「うさぎとか」

 うさぎを殺して食べるのはちょっとかわいそう……でも、とうもろこしもすぐなくなるだろうから、仕方ないのかもしれない。

 アンナの隣にしゃがんで、水面を見下ろす。水は澄んで、浅い水底が丸見えだ。糸のように小さな魚が数匹、すっと動いた。これでは食べごたえがない……第一、捕まえられないだろう。

 鏡のように顔が映る白い水面に両手を差し入れるとさざ波が立った。ひんやりとした両手を上げて顔に当てると、顔もひんやりとする。両手に水が残るうちに上下に動かして顔をこする。繰り返す。パシャパシャと音がする。両手を下すタイミングで、はあと息をつく。次に、水をすくった両手を口に当て、水を吸う。口中が冷たくなる。ぶくぶくとうがい。後ろを向いて、川辺の砂利に水を吐く。繰り返す。最後に、頭を引いてあごを上げ、がらがらとうがい。同様に水を吐く。

 アンナは、帰らずに待っていてくれた。ニイナが立つと、アンナは歩き始めた。家の前に着くと、ダリヤが黙ってとうもろこしを差し出す。アンナと共にむしろに座って食べる。

 今日は何をする? 木の家を建てる。一日で建つのだろうか? 建たなくても、わらの家があるから当面は困らない……本当にそうだろうか? 雨が降っても、雨漏りはしないのだろうか。もっと、屋根にわらを重ねる?

 食べ物も、真剣に探さないといけない。魚や動物……そもそも、とうもろこしの畑がどこかにあるのだろうか? 自分達で畑を作る? 他にも食べられる植物……木の実、草の実はないのだろうか?

 黙ってとうもろこしを食べながら、ニイナは考える。アンナもダリヤも、黙っている。黙って、とうもろこしを食べながら、同じようなことを考えているはず。ぼんやりと……いや、ぼんやりはしていない。2人とも、にらむように目線を上げて、ニイナの方を見ている……いや、ニイナではない、その背後を。え、何?

 ニイナが振り返ると、驚くほど近くに、黒い服を着た少年が立っていた。

「あなたは誰?」

 アンナの声に、少年が答える。

「狼」


(続く)

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