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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
幕間:励起光子の囁きと二年の猶予 ~綾の鍛錬、晴明の探求~

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其の六:姫君の心遣い、影の衆に贈る「秘密兵器」開発秘話!


都に束の間の平穏が訪れ、綾が「お姫様教育」と「影詠みとしての鍛錬」という目まぐるしい二重生活を送っていたある日のこと。

彼女は、ふと、自分を陰で支えてくれる「影向衆ようごうしゅう」の者たちのことを思った。

彼らは、橘の指揮のもと、危険も顧みず、文句一つ言わずに「影詠み」のために尽くしてくれている。アルビオン王国の一件や、その後の小さな怪異騒ぎでも、彼らの情報収集能力や、迅速な避難誘導がなければ、もっと大きな被害が出ていたかもしれない。


(……弥助さんや小吉さんたち、いつも無理ばかりさせてしまっているわ。彼らがもっと安全に、そして効率的に動けるようなものが、私に作れないかしら……)

綾の胸に、仲間への感謝と、そして技術者としての探究心が同時に湧き上がってきた。


その日の夜、亜空間シェルターの制御室で、綾はフィラに相談を持ちかけた。

「フィラ、影向衆の人たちのために、何か特別な『道具』を開発したいの。彼らが身に着けていても目立たず、でも、いざという時に身を守ったり、任務を助けたりできるような……」

《マスターのご提案、素晴らしいと思います。彼らの活動データを分析した結果、特に防御力と情報収集能力、そして機動力の向上が有効であると推測されます》

フィラは、即座にいくつかの基礎設計案をホログラムスクリーンに表示した。


そこから、綾とフィラの、影向衆向け「秘密兵器」開発プロジェクトが、極秘裏にスタートした。

まず取り掛かったのは、「薄絹のうすぎぬのよろい」と綾が名付けた、見た目は普通の絹の下着だが、シェルターのナノテクノロジーで織られた特殊繊維製の防刃・耐衝撃インナーだ。

「これなら、普段着の下に着ていても全く分からないし、万が一の時にも安心よね」

《はい、マスター。さらに、表面に微細な温度調節回路を組み込むことで、夏は涼しく、冬は暖かく過ごせるようにすることも可能です》

「それは素敵! きっと喜んでくれるわ!」


次に開発したのは、「千里眼の眼鏡せんりがんのめがね」と「聞き耳頭巾ききみみずきん」。

眼鏡は、一見するとただの水晶を薄く削っただけの飾り眼鏡だが、レンズには望遠機能と暗視機能、そして微弱な励起光子の流れを可視化する(使用者には「気の流れが見える」と説明する予定)特殊コーティングが施されている。

頭巾は、内側に超小型の集音マイクと増幅回路が仕込まれており、壁越しの囁き声さえも聞き取ることができる。

「これで、弥助さんたちの情報収集も、ずっと楽になるはずだわ」


さらに、綾は「仕込みしこみかんざし」と「韋駄天の足袋いだてんのたび」の試作にも着手した。

簪は、美しい花の飾りの中に、麻酔効果のある微細な針を隠し持っている。足袋は、特殊な衝撃吸収素材と、足裏に微弱な反発フィールドを発生させる機構を組み込み、驚異的な跳躍力と静音性を実現する。

(これは、特に潜入任務が多い黒子さんたちに役立つはず……。ふふふ、これを使えば、屋根から屋根へ、まさに影のように飛び回れるかもしれないわね!)

綾は、自分の発明品に、子供のように目を輝かせた。


これらの「秘密兵器」は、全てシェルターの「物質創造ラボ」で、綾の指示のもと、フィラが精密に製造していった。素材はシェルター内のリサイクル資源を最大限に活用し、エネルギー消費も極力抑えるように設計されている。

そして何より、これらの道具は、「ぱっと見、ただの日常品、しかしその実態は超ハイテク!」という、綾の「影詠み」としての活動コンセプト(?)を色濃く反映したものだった。


数週間後。

いくつかの試作品が完成し、綾はそれを橘に託すことにした。

「橘、これを影向衆の皆に使ってみてほしいの。もちろん、これが何なのか、どこから来たのかは、絶対に秘密よ。『影詠み様からの、ささやかな下賜品』ということにしておいてちょうだい」

綾は、「影詠み」の姿で、いくつかの小さな葛籠つづらを橘の前に差し出した。


橘は、その葛籠を恭しく受け取り、中身を検めた。

そこには、見た目は普通の絹の肌着や、美しい簪、そして何の変哲もない足袋や眼鏡が入っている。しかし、長年「影」として生きてきた橘の勘は、これらの品々が、ただならぬ「何か」を秘めていることを感じ取っていた。

「……影詠み様。これは……?」

「ふふ、使ってみれば分かるわ。きっと、皆の助けになるはずよ」

綾は、意味ありげに微笑んだ。


橘は、影詠み様の深遠なるお考え(と、そのお茶目な一面)に、改めて畏敬の念を抱いた。

(影詠み様は、我々下々の者のことまで、これほどまでにお気遣いくださるとは……。このご恩、万死に値する!)

彼は、涙ぐみながら(心の中で)、これらの「下賜品」を、影向衆の者たちに届けることを誓った。


こうして、綾が開発した「秘密兵器」たちは、何も知らない影向衆の元へと渡ることになる。



彼らが、これらのハイテク装備をどう使いこなし、そしてどんな珍騒動(あるいは大手柄)を巻き起こすのか。そして、この装備開発は、シェルターが励起光子エネルギーを限定的ながらも取り込めるようになったことで、以前よりは潤沢な(しかし無限ではない)エネルギーの下で行われていた。それでも、より高度な機能や出力を求めれば、エネルギー効率の問題は常について回る。綾は、そのバランスに頭を悩ませつつも、仲間たちのために最高の装備を届けたいと願うのだった……。

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