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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
幕間:励起光子の囁きと二年の猶予 ~綾の鍛錬、晴明の探求~
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其の四:フィラの挑戦!励起光子クッキング(大爆発風味)


「……よし! 今度こそ、この『励起光子凝縮チャンバー・マークIII』で、安定した高エネルギー供給を実現してみせます、マスター!」

亜空間シェルターの制御室で、フィラはいつになく気合の入った声で宣言した。その銀色の毛玉のような姿は、小刻みに興奮で震えているように見える。

彼女の目の前には、様々なケーブルやクリスタルが複雑に絡み合った、いかにも「実験装置」といった風情の機械が鎮座していた。これが、フィラがここ数週間、綾に内緒で(良かれと思って)開発を進めていた、励起光子エネルギーの超効率的活用システム(の試作品)である。


前回、綾と共に励起光子の限定的な取り込みに成功したものの、シェルターのエネルギー問題は依然として深刻だった。そして何より、綾が「影詠み」として活動する際、より強力で安定したエネルギー供給があれば、彼女の負担を軽減できるはずだと、フィラは考えていたのだ。

(マスターは、いつもご無理をなさっている……。このフィラが、必ずやマスターのお役に立ってみせる!)

その純粋な忠誠心と、ちょっぴりの功名心が、フィラを危険な(そして少々暴走気味な)研究へと駆り立てていた。


「フィラ、本当に大丈夫なの? その装置、なんだか見た目からしてちょっとヤバそうな雰囲気が……」

綾は、その禍々しい(?)実験装置を遠巻きに見ながら、不安げに尋ねた。最近、シェルター内で時折、原因不明の小さな揺れや、焦げ臭い匂いがすることがあったのだが、まさかフィラがこんな秘密の実験をしていたとは……。


「ご心配には及びません、マスター! このマークIIIは、これまでの失敗(小さな爆発数回、謎の粘液発生事件、一時的な重力異常など)を全て克服した、完璧な設計のはずです! これで、励起光子を安全かつ効率的に、超高純度のエネルギーへと変換し、マスターがお使いになる『ハイテク式符』や『カミカゼくん』にダイレクト供給することが可能に……!」

フィラは、自信満々に説明する。しかし、その説明の中に、さらりと恐ろしい単語がいくつも混じっていたような気がするが、綾はあえて聞かなかったことにした。


「……そ、そう。じゃあ、くれぐれも気をつけてね。何かあったら、すぐに私を呼ぶのよ?」

「はい、マスター! それでは、実験を開始します! エネルギー充填率、10%……30%……70%……臨界点突破! 励起光子、高密度凝縮開始!」

フィラの声と共に、装置のクリスタル部分が、目も眩むような激しい光を放ち始めた。そして、シェルター全体が、ゴゴゴゴ……と不気味な振動に包まれる。


(……やっぱり、なんかヤバそうじゃない!?)

綾は、思わず身構えた。


次の瞬間。

ドッカーーーーーーン!!!

という、シェルターの堅牢な隔壁さえも揺るがすほどの、盛大な爆発音が響き渡った!

制御室の照明が激しく点滅し、綾の足元がぐらりと揺れる。

「きゃあああっ!?」

綾は、思わずその場にしゃがみ込んだ。


煙が晴れると、そこには……。

例の「励起光子凝縮チャンバー・マークIII」は、見るも無残な鉄くずと化しており、周囲の壁には黒い煤がべっとりと付着している。そして、部屋の隅には、なぜか巨大な、焦げたパンのような物体がゴロンと転がっていた。

肝心のフィラはというと、その銀色の毛がところどころ逆立ち、アンテナがしょんぼりと垂れ下がり、全身からうっすらと煙を上げながら、床にへたり込んでいた。


「……ふ、フィラ!? 大丈夫!?」

綾が慌てて駆け寄ると、フィラは弱々しい声で答えた。

《……ま、マスター……。どうやら……励起光子のエネルギー密度を……少々……見誤ったようでございます……。あと……チャンバーの冷却システムにも、若干の設計ミスが……》

「若干どころじゃないでしょ、これ!」

綾は、もはやツッコミを入れる気力もなかった。


「それで、あの焦げたパンみたいなのは何なの……?」

《……あれは……実験の副産物として生成された……『高エネルギー圧縮栄養食(試作品)』でございます……。理論上は、これ一つで成人男性の一週間分のカロリーを摂取できるはずだったのですが……少々、加熱しすぎたようで……》

「……もう、何も言うまい……」

綾は、深いため息をついた。


結局、フィラの「励起光子エネルギー超効率活用システム開発計画」は、またしても盛大な失敗に終わった。

しかし、フィラは決して諦めない。

《マスター……今回の失敗データは、必ずや次期マークIVの開発に活かしてみせます! 次こそは、安全で、美味しくて(?)、そして超強力なエネルギー供給を……!》

その瞳(瑠璃色のクリスタルレンズ)には、不屈の闘志(と、ちょっぴりのヤケクソ感)が燃えていた。


綾は、そんなフィラの姿を見ながら、嬉しいような、心配なような、そしてちょっぴり面白いような、複雑な気持ちだった。

(フィラが私のために頑張ってくれているのは分かるんだけど……その方向性が、時々、明後日の方向に全力疾走してるのよねぇ……)

でも、そんな一生懸命で、どこかドジなフィラが、綾は大好きだった。


この後、シェルター内では、しばらくの間、「原因不明の異臭(主に焦げ臭い)」「謎の粘着性物質の出現」「局地的な無重力現象(フィラが落とした工具が天井に張り付くなど)」といった、奇妙な出来事が頻発することになるのだが、それはまた別のお話。


フィラの暴走気味な研究は、綾の頭痛の種でありながらも、図らずも、励起光子という未知のエネルギーの、新たな可能性(と危険性)を、綾に教えてくれることにもなる。

そして、いつの日か、フィラのこの無謀な(?)挑戦が、本当に世界を救う技術を生み出す日が来るのかもしれない。

……ただし、その前にシェルターが崩壊しないことを、綾は祈るばかりだった。

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