第二十話:王の決断、風の傷への「蓋」と二年後の狼煙
「風の傷」への無謀な接近を試みた紅蓮の爪のガルと仲間たちは、隻眼のグゥルによって、獣牙の荒野の掟に基づき、厳しい「お仕置き」を受けることになった。
それは、彼らの誇りである「牙」や「爪」を一時的に封じられ、荒野で最も過酷とされる狩り場へ、武器も持たずに放り出されるというものだった。そこで生き延びることができれば許されるが、多くの者は二度と戻ってこないという、まさに命がけの試練だ。
しかし、ガルたちは、意外にもその試練を乗り越え、数日後、満身創痍ながらも、より精悍な顔つきとなって戻ってきた。彼らは、異界の光景を垣間見たことで、自分たちの世界の厳しさと、そして「力」への渇望を、改めてその身に刻み込んだのかもしれない。
この一件は、獣牙の荒野の頂点に立つ「百獣の王」――その名は“隻角のヴォルガ”――の耳にも、もちろん届いていた。
ヴォルガは、その名の通り、額に一本だけ、天を衝くような巨大な角を持つ、獅子にも似た威厳ある姿の魔獣だった。彼は、若い頃はその武勇で荒野を震え上がらせたが、王となってからは、むしろ深い思慮と冷静な判断力で、この荒々しい獣たちの世界を統べていた。
「……グゥルよ、若い衆の『冒険心』も、度が過ぎれば身を滅ぼす。しかし、彼らが垣間見たという『異界の光景』、そしてそこから聞こえたという『悲鳴』……。無視はできぬな」
ヴォルガは、玉座(巨大な獣の頭蓋骨で作られている)に腰掛け、低い声で言った。その声には、王としての威厳と、そしてどこか底知れぬ深みが感じられる。
「はっ。あの『風の傷』は、我らの世界の『魂の炎(励起光子)』を吸い出し、代わりに異質な『気』を吐き出しております。そして、時折、我らの世界の獣が吸い込まれ、その向こう側で『歪んだ姿』と化しているとも……。放置しておけば、いずれ我らの世界にも、何らかの災いをもたらすやもしれませぬ」
グゥルは、改めて事の重大さを訴えた。
ヴォルガは、しばし沈黙し、何かを深く考えているようだった。そして、ゆっくりと口を開いた。
「……ウルラよ、古の伝承に、このような『世界の裂け目』に関する記述はあったか?」
賢者のウルラが進み出て、恭しく頭を下げた。
「はい、王よ。遥か昔、我らの世界と『虚無の世界』とを繋ぐ『影の門』が現れ、そこから名状しがたい『古きもの』が侵入し、この荒野を恐怖で覆い尽くしたという記録がございます。その時もまた、世界の『魂の炎』が乱れ、多くの獣たちが正気を失ったとか……」
「ふむ……。歴史は繰り返す、か」
ヴォルガの目が、鋭く光った。
「ならば、我らもまた、備えねばなるまい。あの『風の傷』が、かつての『影の門』と同じものかは分からぬ。しかし、放置しておくには危険すぎる」
そして、ヴォルガは決断を下した。
「まず、あの『風の傷』の周囲に、我ら獣牙の民の総力を挙げて、巨大な『封じの壁』を築く。物理的に、そして我らの『魂の炎』の力を込めた呪術的な壁で、これ以上のエネルギーの流出と、獣たちの吸い込みを防ぐのだ。それは、いわば『蓋』のようなものだ」
「おお……!」
長老たちは、王の決断にどよめいた。それは、莫大な労力と時間を要する、まさに国家事業とも言えるものだった。
「しかし、王よ。その『蓋』は、いつまで持ちこたえられましょうか? あの『風の傷』は、今もなお、その力を増しているように見えますが……」
グゥルが、懸念を口にする。
「……いずれ、その『蓋』も破られる時が来るやもしれん。だが、それまでに、我らは力を蓄え、そして、あの『風の傷』の向こう側……『虚無の狩り場』の正体を、徹底的に探る必要がある」
ヴォルガの言葉には、強い意志が込められていた。
「斥候を放ち、かの世界の情報を集めよ。そこに住む『二本足』どもが、我らにとって脅威となるのか、あるいは……利用価値のある存在なのか。見極めねばならん」
そして、ヴォルガは、最後にこう付け加えた。
「……そして、もし、かの世界が我らの『新たな狩り場』となり得るならば……その時は、我ら獣牙の民が、総力を挙げて、その『扉』をこじ開けることになるだろう。その時は、おそらく……二年後。この荒野に、再び『大いなる狩りの季節』が訪れる時だ」
その言葉は、まるで未来を予見するかのような、絶対的な響きを持っていた。
こうして、「百獣の王」ヴォルガの号令のもと、獣牙の荒野では、「風の傷」を封じるための壮大な「壁」の建設が開始された。それは、彼らの世界の「魂の炎」を練り込んだ巨大な岩や骨、そして強力な呪術が施された霊木などを用いた、まさに原始的でありながらも、強大なエネルギーを秘めた「蓋」となるはずだった。
そして、同時に、選りすぐりの斥候たちが、命がけで「風の傷」の向こう側――綾たちの世界――の情報を集めるべく、密かに派遣され始めた。
二年後。
綾が七歳になり、安倍晴明が十七歳を迎え、そして、この国の「陰陽寮(仮)」が、ようやく形を成し始める頃。
獣牙の荒野では、その「蓋」が、限界を迎える事となる。
そして、「百獣の王」ヴォルガが下すであろう、次なる決断。
それは、二つの世界を巻き込む、避けられぬ戦いの狼煙となるのかもしれない。
嵐の前の二年間。
獣牙の荒野にとってもまた、静かなる準備期間となる。
そして、その準備が完了した時、彼らの飢えたる牙は、容赦なく異世界へと向けられることになるだろう。
物語は、いよいよ本格的な「衝突」の予感を孕みながら、その時を待つ。
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はいどーもー!作者の~かぐや〜でございます!
いやー、ついに第三章「励起光子の奔流、試練の二年 ~綾と晴明、迫る刻限に備えよ~」、これにて完結でございます! 皆様、お付き合いいただき、誠にありがとうございました!
……ふぅ。(満足げな溜息)
いやね、作者、正直に申しますとね、今回の第三章、書いててめちゃくちゃ楽しかったです!
だって、ほら、ようやく物語がね、作者の当初の想定していた「ちょっぴりシリアスで、世界の謎に迫っていく感じ」に近づいてきたじゃないですか! ええ、ええ、そうでしょう!?(誰に言ってる)
「励起光子」の発見と命名! 都を襲う怪異の予兆! そして、獣牙の荒野の不穏な動き!
いやー、これぞファンタジー! これぞ異世界! って感じで、書いてるこっちもドキドキワクワクが止まりませんでしたよ!
特に、晴明くんが「雷煌鳥・零式(自爆型)」で廃寺の入り口をドカーン!とやったあたりなんかは、「そうそう!こういうのが書きたかったんだよ!」と、一人でガッツポーズしてましたからね!(光栄くん、ごめん)
え? 「いや、影詠み様フィーバーとか、晴明くんの中二病とか、だいぶコミカルだったじゃん」ですって?
……そ、それはそれ! あれはあれで、物語の清涼剤というか、スパイスというか……うん、そういうことにしておいてください! 人生、山あり谷あり、シリアスありコミカルあり、ですからね!
さて!
この第三章で、いよいよ世界の「歪み」が本格化し、二年後には「獣牙の荒野」のヤバそうな奴らがドッと押し寄せてくるぞー!という、なんとも不穏な感じで終わりましたが……。ホントのところ、作者もまだ今後の明確なストーリーは、イメージ出来ておりません。
そして皆様、ご安心ください!(?)
その前に、またしても長めの「幕間」が、ドーンと入る予定でございます!
ええ、だって、綾ちゃんも晴明くんも、まだ成長途中ですからね! いきなり最終決戦とか、無理ゲーですから!
この二年間の間に、彼らがどんな風に力をつけていくのか、そして、どんな日常を送るのか……。
例えばですよ?
綾ちゃんも、そろそろお年頃(まだ五歳だけど!)。貴族の姫君たるもの、学問やお稽古事も始めなきゃいけないわけですよ。もしかしたら、この異世界にも、「寺子屋」的な、あるいは「宮中お姫様学園(仮)」みたいな施設があって、そこに通い始めることになるかもしれませんねぇ。
そうなったら、もう大変!
「姫様、その計算問題、なぜ暗算で一瞬で解けるのですか!?」
「綾様、その舞、あまりにも人間離れした動きでございますが、どちらで習われましたの!?」
「え、隣の席の晴明くんが、授業中に紙人形で遊んでる……しかも、なんかちょっと浮いてる!?」
……みたいな、学園あるある(異世界&超文明チート風味)が、炸裂しちゃうかもしれませんよ!?
そして、もちろん、我らが「星詠み探偵団(仮)」と「影詠み乙女の会」の活動も、ますますパワーアップ(&暴走)していくことでしょう!
晴明くんの「新・陰陽道(謎理論)」は、どこまで進化するのか!?
香子ちゃんたちの「影詠み様グッズ」は、ついに都の経済を動かすほどの規模に!?
橘さんと黒子たちの、影詠み様への忠誠心(と勘違い)は、もはや宗教レベルに!?
……とまあ、そんな感じで、シリアスな本編の合間に、腹筋崩壊必至(?)のコミカルな日常エピソードを、これでもかというくらい詰め込んで、全20話くらい(あくまで予定)でお届けしたいなー、なんて考えております!
「いや、幕間長すぎだろ!」ってツッコミは、もう、聞こえなーい、聞こえなーい!
というわけで!
まずは第三章、最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
この先の「嵐の前のドタバタな二年(仮)」、そしてその先に待ち受ける「獣牙の荒野」とのガチバトル(予定)も、ぜひぜひお楽しみに!
それでは、またすぐ、幕間でお会いしましょう!
(P.S. 綾ちゃんの学園生活……制服とかあったら、絶対フィラが魔改造しそうだなぁ……。うん、楽しみ!)




