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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第三章 励起光子の奔流、試練の二年 ~綾と晴明、迫る刻限に備えよ~

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第十三話:逆転の発想、励起光子よ力となれ! 姫君の覚悟と銀色の奇跡


綾とフィラによる「ぱっと見陰陽師じゃん」な技術開発は、着実に進んでいた。しかし、その力の源であるシェルターの蓄積エネルギーは、もはや危険水域に達しようとしていた。

「ゴギョジュンカン式霊力増幅装置・試作一号」のテストでは、その圧倒的な性能と引き換えに、シェルターのエネルギー残量が致命的なレベルまで減少する寸前だったのだ。


「……これ以上は、無理ね」

綾は、制御室のメインスクリーンに表示された、赤く点滅するエネルギー残量ゲージを見つめ、唇を噛み締めた。どんなに優れた技術も、それを動かすエネルギーがなければ、ただのガラクタだ。

「フィラ、シェルターの自己修復機能や、予備エネルギーシステムは……?」

《申し訳ありません、マスター。長年の稼働と、最近の励起光子による外部環境の不安定化により、予備システムもほぼ枯渇状態です。自己修復機能も、現在のエネルギーレベルでは正常に作動できません》

フィラの声には、隠しようのない焦燥感が滲んでいた。


(このままでは、シェルターの機能が停止してしまう……。そうなったら、フィラも……そして、私がこの世界で生きていくための、最後の砦が……)

綾の胸に、これまで感じたことのないほどの危機感が押し寄せる。

太古の記憶がもたらす知識も、シェルターという安全な場所と、フィラというサポートがあってこそ活かせるのだ。それらを失ってしまえば、自分はただの非力な五歳の少女に戻ってしまう。


「……フィラ、一つだけ、試してみたいことがあるの」

絶望的な状況の中、綾の瞳に、ふと強い光が宿った。

「励起光子は、私たちの世界にとっては『異物』であり、『脅威』でもある。でも、同時に、それは莫大なエネルギーの塊でもあるわよね?」

《……はい、マスター。その通りです。しかし、そのエネルギーは極めて不安定で、制御は困難かと……》

「ええ、分かっているわ。でも、もし……もし、その励起光子のエネルギーを、直接シェルターの動力源として取り込むことができたら……?」

綾の言葉に、フィラの思考回路が一瞬停止したかのように静まり返った。


それは、あまりにも大胆で、そして危険な発想だった。

異世界の法則を内包し、この世界の理を歪ませる未知のエネルギーを、自分たちの生命線であるシェルターの動力源にするなど、諸刃の剣にも程がある。一歩間違えれば、シェルターそのものが暴走し、崩壊してしまう可能性すらあった。


《マスター……それは、あまりにも危険すぎます! 過去の記録にも、そのような試みは……》

「でも、他に方法があるの? このまま指をくわえて、エネルギーが尽きるのを待っているだけなんて、私にはできないわ!」

綾の声は、普段の冷静さを失い、強い感情を帯びていた。

「それに、フィラ。あなたならできるかもしれない。あなたの解析能力と、シェルターのシステムなら、あるいは……。もちろん、私にも手伝えることは何でもするわ。この世界の『気』の流れと、励起光子の干渉パターンを、私の感覚で捉え、あなたに伝える。二人でなら、きっと……!」


綾の真剣な眼差しと、その言葉に込められた信頼に、フィラは再び思考を開始した。

マスターの言う通りだ。このままでは、いずれ破滅が訪れる。ならば、僅かでも可能性があるのなら、それに賭けるしかない。そして、マスターは、あの太古の超文明の叡智を受け継ぐ、唯一無二の存在なのだ。

《……分かりました、マスター。危険性は極めて高いですが、試してみる価値はあります。シェルターのエネルギー変換システムを改造し、外部からの励起光子エネルギーの限定的な取り込みと、その安定化を試みます。マスターには、励起光子の『流れ』を正確に感知し、私にリアルタイムでフィードバックしていただく必要がございます》


そこから、綾とフィラの、まさに命がけの共同作業が始まった。

綾は、シェルターの外部センサーと自らの感覚を極限まで研ぎ澄ませ、都の上空から降り注ぐ「励起光子の奔流」の中から、比較的安定した流れを見つけ出し、それをシェルターのエネルギー取り込み口へと誘導する。

それは、荒れ狂う嵐の中で、一本の細い糸を手繰り寄せるような、繊細で危険な作業だった。

一方、フィラは、セントラルコアの全能力を解放し、取り込まれた励起光子のエネルギーを、シェルターの動力源として利用可能な形へと変換・安定化させるための、複雑なプログラムをリアルタイムで構築していく。


何度も、エネルギーが暴走しかけ、シェルター全体が激しく振動し、警報が鳴り響いた。

綾は、その度に意識を失いそうになりながらも、歯を食いいしばって励起光子の流れを制御し続けた。

フィラもまた、自身の論理回路が焼き切れんばかりの負荷に耐えながら、必死でエネルギーの安定化を図った。


そして、どれほどの時間が経過しただろうか。

ついに、シェルターの制御室の照明が、力強い安定した光を取り戻し、エネルギー残量ゲージが、ゆっくりと、しかし確実に上昇を始めたのだ!


「……やった……やったわ、フィラ!」

綾は、安堵と疲労でその場に座り込みながらも、満面の笑みを浮かべた。

《……はい、マスター! 励起光子エネルギーの、限定的ながらも安定した取り込みに……成功しました! これで、当面のエネルギー問題は……解決です!》

フィラの声もまた、隠しようのない喜びと、そしてマスターへの深い感謝に満ちていた。


この瞬間、綾とフィラは、絶望的な状況を打破し、新たな可能性の扉を開いたのだ。

励起光子は、もはや単なる脅威ではない。それは、使い方次第で、無限の力を与えてくれる「恵み」ともなり得る。

そして、この経験を通じて、綾は確信した。

(フィラやシェルターの力も素晴らしい。でも、それだけに頼っていてはダメだ。私自身が、この励起光子の力を理解し、制御できるようにならなければ……!)


綾の瞳に、新たな決意の光が灯る。

それは、「影詠み」として、そして一人の「技術者」として、この世界の歪みに立ち向かい、未来を切り開いていこうとする、力強い覚悟の光だった。

そして、その覚悟は、彼女を「超絶何でもできるぞ~」な、真のスーパーヒロインへと成長させる、重要な一歩となる。


シェルターのエネルギー問題は、ひとまず解決した。

しかし、世界の歪みは、依然として進行し続けている。

綾の「ぱっと見陰陽師じゃん」開発は、この新たなエネルギー源を得て、さらに加速していくことになるだろう。

そして、その力が、やがて都を襲う本格的な「魑魅魍魎」との戦いで、どれほどの輝きを放つのか。



物語は、一筋の光明と共に、次なるステージへと進む。

綾ちゃんの「超絶何でもできるぞ~」な影詠み様の活躍に、乞うご期待!

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