第十一話:試行錯誤の「式符」と、暴走気味の「紙人形」
励起光子のエネルギーを「陰陽術」に見せかけて利用する――その方針を定めた綾とフィラの研究開発は、昼夜を問わず続けられていた。
亜空間シェルターの「物質創造ラボ」は、さながら秘密の工房の様相を呈し、そこには様々な試作品と、そして数々の失敗作の残骸が転がっている。
「うーん、この『発光する護符(という名のLEDシート内蔵和紙)』、もう少し発光パターンを複雑にできないかしら? ただ光るだけだと、あまり『霊験あらたか』って感じがしないのよね……」
綾は、試作品の護符を手に、首を傾げた。彼女の美的センス(?)は、意外なところで発揮される。
《マスター、それならば、内部のマイクロプロセッサに、より複雑な点滅アルゴリズムを組み込みましょう。例えば、七色の光が呼吸するように明滅したり、あるいは、特定の呪文(音声認識)に反応して、特定の文様が浮かび上がるようにすることも可能です》
「それ、すごく陰陽師っぽいじゃない! やってみて、フィラ!」
こうして開発された「ハイテク式符」は、見た目はただの和紙の護符だが、綾が特定のキーワード(例えば「急急如律令!」など、それっぽい呪文)を唱えると、表面に複雑な光の文様が走り、微かな音を発したり、周囲の温度をわずかに変化させたりするという、なかなかの「演出効果」を持つものとなった。
(これなら、悪党を威嚇したり、あるいは逆に、困っている人を安心させたりするのに使えるかもしれないわね)
綾は、完成した式符を満足げに眺めた。
次に取り組んだのは、「式神(に見える小型ドローン)」の改良だった。
以前、玄幽祈祷師の時に試作した鳥型のドローンは、威嚇や偵察には使えたが、もっとこう、「使役している感」が欲しい、と綾は考えたのだ。
「フィラ、この紙人形の式神、もう少し『生きている』ように見せることはできないかしら? 例えば、私の声に反応して、もっと複雑な動きをするとか……」
《マスターのご要望、承知いたしました。現在開発中の『生体模倣AI制御システム』を、この紙人形ドローンに試験的に搭載してみましょう。これにより、マスターの声紋や感情パターンを認識し、より自然で、あたかも意思を持っているかのような動作が可能になるかと……ただし、まだ開発途上のため、予期せぬ挙動を示す可能性もございますが》
「面白そうじゃない! やってみましょう!」
綾は、好奇心旺盛な技術者の顔で、フィラの提案に飛びついた。
そして、完成したのが「自律思考型(?)紙人形式神・試作二号機」――綾は、こっそり「カミカゼくん」と名付けた――だった。
それは、以前の鳥型とは異なり、簡素ながらも人の形をした紙人形で、関節部分には微細なアクチュエーターが仕込まれ、胸部には例の「ハイテク式符」が貼り付けられている。
「カミカゼくん、おはよう!」
綾が声をかけると、紙人形はぎこちなく頭を下げ、両手をパタパタと振った。
「おお! 動いたわ! すごいじゃない、フィラ!」
綾は、子供のようにはしゃいだ。
しかし、フィラの懸念通り、この「カミカゼくん」は、時折、予期せぬ挙動を示した。
例えば、綾が「お茶を持ってきて」と頼むと、部屋の中を猛スピードで飛び回り、壁に激突してバラバラになったり(幸い、すぐに修復可能だったが)。
あるいは、綾が少し大きな声を出すと、それを「怒り」と認識したのか、突然、部屋の隅で体育座りをして、プルプルと震え始めたり。
そして、最も困ったのは、綾が「影詠み」の黒衣に着替えると、それを「敵襲!」と判断したのか、綾に向かって猛然と突進してきて、その小さな紙の拳でポカポカと殴りかかってくることだった。
「ちょ、カミカゼくん、私だってば! 落ち着いて!」
綾は、自分の作った式神(?)に追いかけ回されながら、悲鳴を上げる羽目になった。
《……マスター、申し訳ありません。どうやら、AIの感情認識パラメータの調整に、まだ若干のバグが残っているようです……。ただちに修正いたします》
フィラの冷静な声が、制御室に響く。
それでも、綾はこの「カミカゼくん」に、奇妙な愛着を感じ始めていた。
暴走気味ではあるが、一生懸命に綾の命令に応えようとする姿は、どこか健気で、そしてフィラとはまた違った意味で「相棒」と呼べる存在になりそうな気がしたのだ。
(もう少し調整すれば、きっと立派な『式神』になってくれるわよね……。都の人たちも、これを見たら、きっと『影詠み様は、ついに人型の式神まで操るのか!』って、ますます畏敬の念を抱いてくれるはず……ふふふ)
綾の「ぱっと見陰陽師じゃん」計画は、着々と(そしてちょっぴりコミカルに)進行していた。
他にも、綾は「結界(に見える、指向性エネルギーバリア発生装置)」や、「浄化の光(という名の、殺菌・消毒効果のある紫外線照射ランプ)」、「遠隔透視の術(小型カメラとARゴーグル)」など、様々な「なんちゃって陰陽術」の試作品を開発していった。
それらは全て、太古の超科学と、この世界の「陰陽」という概念を、綾なりに融合させようとした試みの産物だった。
しかし、これらの技術開発に没頭するあまり、綾は一つの重要なことを見落としていた。
それは、これらの装置を動かすための「励起光子」エネルギーの消費量が、彼女の予想を遥かに超えていたということ。そして、シェルターの蓄積エネルギーが、急速に減少していっているという事実に――。
試行錯誤と、時折の暴走。
綾の「ぱっと見陰陽師じゃん」開発は、まだ道半ば。
しかし、その技術は、確実に、後の都を救うための重要な布石となりつつあった。
たとえ、そのエネルギー源に、大きな不安要素が潜んでいたとしても……。




