第四話:星詠み団、覚醒!? 謎理論と都の異変に立ち向かえ!
都が原因不明の怪異と不安に包まれる中、安倍晴明は、これまでにないほどの高揚感と使命感に打ち震えていた。
彼にとって、この都の異変は、まさに自らが提唱する「新・陰陽道(宇宙霊的秘儀バージョン)」の真価を発揮し、「影詠み」様にその実力を示す絶好の機会(と勝手に思い込んでいる)だったからだ。
「……来た! ついに来たぞ、光栄! 我らが真の力を示すべき『試練の刻』が!」
晴明は、自宅の庭で、いつものように賀茂光栄を前に、目を爛々と輝かせながら叫んだ。その手には、最近彼が熱心に製作していた、奇妙な装飾が施された木の杖――名付けて「星辰導きの聖杖」(ただの拾ってきた杖に、鳥の羽根とキラキラ光る石を括り付けたもの)――が握られている。
「試練の刻、ねぇ……。都じゃ、夜も眠れないって大騒ぎになってるってのに、お前はなんだか楽しそうだな」
光栄は、相変わらずの冷静なツッコミを入れつつも、晴明のその異常なまでの熱意に、どこか引き込まれ始めている自分も感じていた。確かに、この得体の知れない異変は恐ろしい。しかし、晴明の言葉には、それを乗り越えられるかもしれないという、不思議な説得力(?)があったのだ。
「楽しんでいるのではない! 宇宙の法則が、我々に『立ち上がれ』と囁いているのだ! 聞こえぬか、光栄! 星々の歌が! 大地の呻きが!」
晴明は、大げさな身振りで天を仰ぐ。
(……いや、俺にはカラスの鳴き声と、隣の家の赤ん坊の泣き声しか聞こえんが……)
光栄は、そう思いながらも、黙って晴明の次の言葉を待った。
「我ら『星詠み探偵団(仮)』は、この都の危機に際し、正式に『対怪異特殊戦略部隊・天狐の眼』へと進化する! そして、この私が、その初代筆頭指揮官、コードネーム『星影の導師』を拝命する!」
晴明は、ビシッと敬礼(どこで覚えたのか)を決め、高らかに宣言した。
その姿は、もはやただの中二病を通り越して、何か新しい宗教の教祖のようでもあった。
仲間たち――最近では、晴明の熱意に感化され、「我々も都のために何かしたい!」と真剣に考えるようになっていた数名の貴族の子弟たち――も、晴明のその宣言に「おおーっ!」と力強く応えた。彼らの目には、もはや晴明が「ただの変わり者」ではなく、「偉大なる指導者」に見えているらしい。
「まず、我々の最初の任務は、都に蔓延る『負のエネルギー』の浄化である!」
晴明は、懐から自作の都の地図(ところどころ、謎の文様や星の印が書き込まれている)を取り出し、広げた。
「我が『星読みの術』と、各地で集めた『気の流れ』の情報によれば、特に負のエネルギーが集中しているのは、あの朱雀大路に出現した『黒き霧の残滓』、そして、例の『呪いの絵馬』があった寂れた神社周辺だ。まずは、これらの地点に『聖なる結界』を張り、邪気の侵入を防ぐ!」
彼らが言うところの「聖なる結界」とは、晴明が考案した「五行相生相剋霊的防御円陣(という名の、五色の石を円形に並べ、その間に清めの塩(普通の食塩)を撒き、中央に『破邪』と書いた札(ただの和紙)を立てたもの)」だった。
「この陣は、宇宙の根源的エネルギーである五行の力を調和させ、あらゆる邪気を中和し、消滅させるのだ! 皆の者、我に続け!」
晴明を先頭に、「天狐の眼」のメンバーたちは、それぞれの「聖なる結界設置キット(石と塩と札)」を手に、意気揚々と都の怪異スポットへと向かった。
その道中、彼らは「怪しい影」や「不気味な物音」に遭遇するたびに、
「出たな、妖魔め! 我が『星辰導きの聖杖』の輝きを見るがいい!」
「退散せよ、悪霊ども! 我らが『破邪の言霊』の力を思い知れ!」
と、大声で叫びながら、杖を振り回したり、謎の呪文を唱えたりした。
もちろん、その「怪しい影」の正体は、大抵、野良猫か風に揺れる木の枝であり、「不気味な物音」は、古い家屋の軋む音だったのだが、彼らの目には、それらが全て邪悪な存在に見えているらしい。
そして、目的の場所に到着すると、彼らは真剣な表情で「五行相生相剋霊的防御円陣」を設置し、全員で手を繋ぎ、晴明のリードで「浄化の祝詞(晴明が昨夜考えた、なんだか勇ましいけど意味はよく分からない歌)」を大合唱した。
その光景は、傍から見れば、子供たちが何やら真剣な「ごっこ遊び」をしているようにしか見えないかもしれない。しかし、彼らの瞳は真剣そのものであり、その声には、都を救いたいという純粋な願いが込められていた。
「……ふぅ。これで、少なくともこの一帯の『負のエネルギー』は、大幅に浄化されたはずだ」
儀式(?)を終え、晴明は満足げに汗を拭った。
仲間たちも、達成感に満ちた表情で頷いている。
「さすがは星影の導師様!」
「我々の力も、捨てたものではありませんな!」
彼らはまだ知らない。
自分たちのこの「なんちゃって浄化活動」が、実は、ほんの僅かではあるが、本当にその場の「気」の流れに影響を与えているかもしれないということを。
なぜなら、彼らの純粋な「信じる力」と、晴明の(結果的に)的を射た「謎理論」が、微量ながらも都に流れ込み始めた「励起光子」と、奇妙な形で共鳴し始めている可能性があったからだ。
それは、まだ誰にも理解できない、この世界の新たな「法則」の萌芽なのかもしれない。
一方、綾は……。
《マスター、都の数ヶ所で、微弱ながらも『励起光子』のエネルギーパターンが、一時的に安定化する現象が観測されました。原因は不明ですが、何らかの外部からの干渉があった可能性が……。特に、朱雀大路周辺と、例の寂れた神社周辺で顕著です》
フィラの報告に、綾は首を傾げた。
「外部からの干渉……? いったい誰が……? まさか、また『影詠み乙女の会』が何か……?」
綾は、晴明たちのこの奇妙な「活躍」には、まだ気づいていない。
安倍晴明と「天狐の眼」の、ちょっぴり(かなり?)ズレた正義の戦いは、始まったばかり。
彼らの中二病全開の行動が、果たして本当に都を救う力となるのか、それとも新たな騒動の火種となるのか……。
しかし、一つだけ確かなことは、彼らの純粋な情熱が、この混沌とし始めた都に、一筋の、奇妙で、しかしどこか心強い光を灯し始めているということだった。
そして、その光は、やがて「影詠み」の光と、思わぬ形で交錯することになるのかもしれない。




