表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第二章 綾、星影を纏いし刻とき ~幼き瞳が見据える世界の歪み~
49/58

第二十二話:届け、星の言霊! 奇跡か偶然か、式神(仮)覚醒!?


迷子の猫探しの一件(結果的には成功?)以来、安倍晴明率いる「星詠み探偵団(仮)」の活動は、ますます熱を帯びていた。彼らは、都の小さな揉め事や探し物などに首を突っ込んでは、晴明の提唱する「宇宙霊的秘儀(謎理論)」を駆使し、時に成功し(大抵は偶然の産物)、時に盛大に空振りするという、微笑ましくも傍から見れば珍妙な日々を送っていた。


そんな彼らが、次なる「難事件」として挑んだのは、「夜な夜な蔵の米俵をかじる、巨大なねずみの退治」だった。

依頼主は、都で米問屋を営む初老の主人。蔵には屈強な番人も置いているのだが、どういうわけか毎晩のように米俵が荒らされ、しかもその鼠は一向に捕まらないという。

「これは、ただの鼠ではありますまい。あるいは、古狸か何かが化けているやもしれませぬ……。どうか、晴明様のお力で……」

主人は、藁にもすがる思いで、最近噂の「不思議な術を使う若様」に助けを求めてきたのだ。


「ふむ、巨大な鼠……。そして、人の目を欺く巧妙な手口。これは、まさしく『妖鼠ようそ』の仕業に相違あるまい!」

晴明は、いつものように真剣な表情で断言した。その瞳には、未知なる敵との対決を前にした、武者震いのような興奮が宿っている。

(……まあ、普通に頭の良い大きなドブネズミの可能性も高いけどな)

賀茂光栄は、またしても心の中で的確なツッコミを入れたが、もはやそれを口に出すことすら諦めていた。


晴明の作戦は、こうだった。

まず、蔵の周囲に「対妖鼠結界(という名の、猫が好みそうな匂いを染み込ませた縄と、キラキラ光る貝殻を吊るしたもの)」を張り巡らせ、妖鼠の逃げ道を塞ぐ。

そして、蔵の中央には、晴明が丹精込めて作り上げた「霊的捕獲装置(ただの大きな粘着シートに、晴明が考案した『妖鼠を惹きつける呪文』を書いた紙を貼り付けたもの)」を設置。

最後に、晴明自身が、蔵の入り口で「星の言霊ことだま」を唱え、妖鼠を誘き出し、捕獲するという壮大な計画だ。


「……そして、今回の作戦の要となるのが、我が新たなる力……『式神召喚の儀』である!」

晴明は、仲間たちを前に、自信満々に宣言した。

彼が取り出したのは、以前から作り続けていた、鳥の羽根と木の枝で作った、少し不格好な鳥の人形だった。しかし、以前と違うのは、その人形の目には、どこかで見つけてきたという小さな瑠璃色の玉が嵌め込まれ、翼には、晴明が「霊力を込めた」という墨で、複雑な文様(もちろん彼が考案したもの)が描かれていることだった。


「この人形に、我が霊力と星の言霊を注ぎ込むことで、一時的に生命を宿し、我らが意のままに動く『式神・天翔丸あまかけるまる』(今、命名したらしい)となるのだ! 天翔丸よ、妖鼠の動きを空から監視し、我に伝えよ!」

晴明は、人形を高々と掲げ、大真面目に呪文を唱え始めた。その姿は、傍から見れば、ただの子供が人形遊びに興じているようにしか見えない。

仲間たちは、固唾を飲んで見守っているが、光栄だけは(……いや、それ、どう見てもただの人形だろ。風が吹いたら落ちるぞ)と、冷静に観察していた。


その夜。

蔵の周囲には、晴明の指示通り「対妖鼠結界」が張られ、蔵の中には「霊的捕獲装置」が設置された。そして、晴明は蔵の入り口で、例の鳥の人形「天翔丸」を手に、精神を集中させていた。

「……来たれ、星の息吹よ! 我が声に応え、形を成せ! 目覚めよ、天翔丸!」

晴明が、声を張り上げ、人形に強く念を込めた、その瞬間。


――ピクリ。


「……え?」

晴明の手にあった鳥の人形が、ほんの僅かに、動いたような気がした。

いや、気のせいではない。人形の頭が、ほんの少しだけ、持ち上がったのだ。そして、瑠璃色の目が、まるで生きているかのように、微かな光を宿した……ように見えた。


「お、おお……! 動いたぞ! 天翔丸が、我が呼びかけに応えた!」

晴明は、興奮のあまり声を震わせた。

仲間たちも「す、すごい! 本当に式神様が……!」「晴明様、さすがです!」と、大騒ぎだ。

光栄だけは、(……いや、今の、ただの風で揺れただけじゃないか? それか、晴明の手が震えたとか……)と、半信半疑だったが、あまりの場の盛り上がりに、何も言えなかった。


晴明は、さらに人形に念を込める。

「行け、天翔丸! 蔵の中の妖鼠を探し出し、我に知らせよ!」

すると、晴明の手からふわりと浮き上がった「天翔丸」は、まるで意思を持ったかのように、ゆっくりと蔵の中へと飛んでいった……ように見えた。

実際には、晴明が隠し持っていた細い糸で巧みに操っていたのだが、暗闇と興奮の中では、誰にもそのトリックは見破れなかった。


そして、数分後。

「天翔丸」が、再び晴明の元へと戻ってきた(もちろん、糸で手繰り寄せた)。そして、晴明は「天翔丸」に耳を澄ませる(ふりをする)。

「……うむ、そうか。妖鼠は、蔵の北東の隅、米俵の陰に潜んでいると……。よし、皆の者、突入だ!」


晴明たちの「突入」の結果、蔵の隅からは、確かに普通のネズミよりは少し大きいものの、特に妖しくはなさそうなネズミが一匹、慌てて飛び出してきた。そして、運良く(?)晴明が設置した「霊的捕獲装置(粘着シート)」に引っかかり、あっけなく捕獲されたのだった。


「やったぞー! 妖鼠退治、成功だ!」

「これも全て、晴明様の『星詠みの秘儀』と、天翔丸様のおかげだ!」

仲間たちは、手を取り合って大喜び。晴明もまた、満足げな表情で頷いていた。

(……まあ、結果的に捕まえられたんだから、良かったんじゃないか? 式神が本当に動いたかどうかは、もはやどうでもいい気がしてきた……)

光栄は、少しだけ疲れた笑みを浮かべた。


この「妖鼠退治」の一件は、晴明にとって、そして彼の仲間たちにとって、大きな自信となった。

特に、晴明は「天翔丸」が自分の呼びかけに応えた(と信じている)ことに、大きな手応えを感じていた。

(やはり、私の理論は間違っていなかった! 星の力と霊的エネルギーを組み合わせれば、無機物にさえ命を吹き込むことができるのだ!)

彼は、さらに深く「式神使役の法」の研究に没頭していくことになる。


そして、この時、晴明が「偶然」と「トリック」と「仲間たちの思い込み」によって生み出した「なんちゃって式神・天翔丸」の伝説は、数年後、都に本物の魑魅魍魎が跋扈し始めた時、思わぬ形で現実のものとなる。

晴明の、純粋で強大な「信じる力」と、彼が独自に編み出した(しかしどこか的を射ている)謎理論が、本当に「何か」を呼び覚まし、物理法則を無視したかのような奇跡を引き起こすことになるのだ。

その時、人々は目の当たりにするだろう。「安倍晴明、恐るべき陰陽師なり!」と。

そして、その陰で、綾は(え、あれ、どういう原理なの!? 私の知ってる科学じゃないんだけど!?)と、一人頭を抱えることになるのかもしれない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ