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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第二章 綾、星影を纏いし刻とき ~幼き瞳が見据える世界の歪み~

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第十九話:影詠みの奇策、呪詛返しと偽りの式神舞う夜


玄幽の巧妙な悪事に、綾は「影詠み」として、そして「なんちゃって陰陽師」として、彼を懲らしめるための準備を着々と進めていた。


フィラの分析によれば、玄幽が「呪いの絵馬」に使用していた毒物は、特定の植物から抽出される微量の神経毒で、少量であれば数日で自然に回復するが、継続的に摂取すれば深刻な健康被害を引き起こす可能性のあるものだった。


(なんて悪質な……。でも、これなら中和も難しくないわね)




綾の作戦は、玄幽の「呪詛」を、そっくりそのまま彼自身に「お返し」するというものだった。もちろん、それは本物の呪詛ではなく、科学的なトリックと心理的な揺さぶりを組み合わせた、影詠み流の「お仕置き」だ。




決行は、新月の夜。玄幽が最も「魔力が高まる」と称して、怪しげな儀式を行っていると噂される日だった。


綾は「影詠み」の姿となり、例の寂れた神社へと向かった。その手には、いくつかの「秘密道具」が握られている。




まず、綾は神社の境内に奉納されている全ての絵馬に、フィラが調合した中和剤を、霧吹き状の小型噴霧器(もちろんシェルター製)で吹き付けて回った。これで、少なくとも絵馬からの毒物の影響はなくなるはずだ。




次に、玄幽が寝泊まりしている社務所の周囲に、以前よりもさらに巧妙な「結界(に見える仕掛け)」を施した。


それは、一見するとただの縄や紙垂しでに見えるが、実は微弱な電流が流れており、人が近づくと静電気のような不快な刺激を与える。さらに、特定の場所に踏み込むと、地面に仕掛けた小型の音響装置が、低い唸り声や、鎖を引きずるような不気味な音を発生させる。


そして、社務所の入り口には、前回よりもさらに禍々しい「鬼の面(の絵)」――今回は、フィラのホログラム投影技術を使い、暗闇で目が赤く光り、時折表情が変わるように見える――を設置した。




仕上げは、「式神(に見える小型ドローン)」の投入だ。


綾は、フクロウ型やカラス型の小型ドローン数体を、神社の屋根や木々の上に配置。これらのドローンは、赤外線センサーで玄幽の動きを感知し、彼が社務所から出ようとしたり、誰かに助けを求めようとしたりすると、集団で彼の周囲を飛び回り、甲高い鳴き声や、羽ばたきの音で威嚇するようにプログラムされている。


(これで、あの悪徳祈祷師も、しばらくは社務所から一歩も出られないでしょう。そして、その間に……)




綾は、社務所の床下に潜り込み、フィラの指示通り、玄幽が普段使っている寝具や食器に、ごく微量の「お返し」の毒物――もちろん、絵馬に使われていたものと同じ、しかし濃度はさらに薄く、数日間の不快な体調不良を引き起こす程度に調整されたもの――を、特殊な気化装置を使って付着させた。


そして、玄幽が金品を隠していると思われる床下の壺の中に、一枚の「式符」を忍ばせた。その式符には、「汝の悪行、影が見ている。悔い改めぬならば、呪詛は汝自身に返るであろう。影詠み」という、脅迫めいた文言が記されている。




全ての準備を終えた綾は、音もなくその場を立ち去った。




翌日から、玄幽の身に異変が起こり始めた。


まず、原因不明の体調不良に襲われた。頭痛、吐き気、そして全身の倦怠感。彼が絵馬の被害者たちに与えていた症状と、全く同じだった。


さらに、社務所から一歩でも外に出ようとすると、どこからともなく不気味な鳥の群れが現れて威嚇し、周囲には奇妙な音や声が響き渡り、鬼の面が禍々しく光り輝く。完全に「呪われた空間」に閉じ込められてしまったのだ。


そして、極めつけは、隠していた金品がごっそり消え失せ(もちろん、綾が「影詠み」として事前に回収し、後で被害者たちに匿名で返還する手筈だ)、代わりに不吉な「影詠みからの警告文」が残されていたことだった。




「お、おのれ……! わ、私の呪詛が……跳ね返ってきおったというのか……!? そ、そんな馬鹿な……!」


玄幽は、自身の仕掛けた罠に、そっくりそのまま自分が嵌ってしまったことに気づき、恐怖と絶望で完全に正気を失いかけた。


彼は、数日間、悪夢のような状況に閉じ込められ、心身ともに衰弱しきった末、ついに全てを諦め、命からがら都から逃げ出したという。その後の彼の行方を知る者はいない。




この一連の出来事は、都の人々の間で、再び「影詠み様の新たなる奇跡」として語り継がれることになった。


「影詠み様は、邪悪な呪詛さえも打ち破り、悪しき祈祷師を退散させたのだ!」


「あの神社の周りに張られていたという不思議な縄や札、そして鬼の面こそ、影詠み様の強力な結界の証!」


「そして、空を舞っていたという黒い鳥たちは、影詠み様がお使いになる式神様に違いない!」


人々は、綾が仕掛けた「なんちゃって陰陽道」を、本物の霊験あらたかな秘術として、ますます畏敬の念を抱くようになった。




そして、この事件の顛末を、誰よりも熱心に調査し、分析していたのが、安倍晴明だった。


彼は、玄幽が逃げ出した後の神社を訪れ、そこに残された「結界」の痕跡や、「鬼の面」の残滓(ホログラムが消えた後の微細なエネルギー粒子)、そして村人たちが語る「式神」の目撃情報を、食い入るように調べ上げた。


(この配置……やはり、星辰の動きと陰陽五行の理に基づいている。そして、このエネルギーの残滓は……通常の呪力とは異なる、もっと純粋で強力な何か……。まさか、これが古に伝わる『真の式神使役の法』なのか……!?)


晴明は、綾の仕掛けた科学的トリックの数々を、彼自身の持つ知識と天才的な直感で、ことごとく「高度な陰陽術」として解釈し、再構築していく。


彼はまだ知らない。自分が追い求めている「影詠みの秘術」の源泉が、実は遥か太古の超科学であり、その使い手が、都の片隅で静かに微笑む五歳の姫君であることなど、夢にも思っていないのだ。




しかし、この事件は、安倍晴明の心に、強烈なインスピレーションと、そしてほんの少しの「中二病」の種を蒔いた。


(私も……いつか、あのような強力な式神を従え、邪を祓う真の陰陽師に……!)


彼の瞳には、新たな目標を見据えた、熱い光が宿り始めていた。それは、やがて彼を、奇抜な衣装と謎理論を振りかざす、唯一無二の天才陰陽師へと変貌させていく、ほんの始まりの出来事だったのかもしれない。

中二病の夜明けは、かくも静かに、そして熱く始まったのである。

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