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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第二章 綾、星影を纏いし刻とき ~幼き瞳が見据える世界の歪み~

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第十二話:甘き罠と黒い噂、蝕まれる都の日常


アルビオン王国使節団の長が放った恫喝めいた「提案」は、宮中に重苦しい雰囲気をもたらした。父・為時はじめ、国の重鎮たちは連日対応に追われ、その顔には疲労の色が濃くなっていた。


しかし、アルビオンの者たちの悪巧みは、それだけに留まらなかった。彼らは、表向きの交渉と並行して、より巧妙かつ陰湿な方法で、この国を内側から蝕もうとしていたのだ。




その一つが、「甘き罠」とも言うべき経済的な懐柔策だった。


アルビオンの商人たちは、都の有力な商人たちに対し、破格の条件での交易を持ちかけた。彼らが持ち込む珍しいガラス製品や毛織物、そして未知の香辛料などは、貴族たちの間で瞬く間に評判となり、それに目を付けた商人たちは、アルビオン側と結託することで莫大な利益を上げ始めた。


しかし、その裏では、アルビオン側がこの国の主要な産物(絹や漆、特殊な鉱石など)の流通経路を徐々に掌握し、経済的な支配力を強めていた。気づいた時には、都の経済の一部が、異邦の国の意のままに操られかねない状況になりつつあった。




さらに、彼らは「黒い噂」を巧みに利用した。


都の人々の間で、特定の貴族に関する悪評や、政権への不満を煽るような噂話が、どこからともなく広まり始めたのだ。その多くは根も葉もないデマだったが、人々の不安を巧みに利用し、じわじわと人心を惑わせていく。


「〇〇卿は、アルビオンと密かに手を組み、私腹を肥やしているらしい」


「今の政は、異国に弱腰で、この国の将来が危ういのではないか」


そうした噂は、人々の口から口へと伝わるうちに尾ひれがつき、やがては貴族社会の結束をも揺るがしかねないほどの力を持つようになっていた。




綾は、フィラを通じてこれらの情報をリアルタイムで把握していた。


《マスター、アルビオンの工作員たちは、都の酒場や市場、さらには一部の寺社にまで潜入し、計画的にデマ情報を流布している模様です。また、経済的な懐柔策も巧妙で、すでに複数の有力商人が彼らの支配下に置かれつつあります》


「……巧妙ね。武力で脅すだけでなく、金と情報でじわじわと首を絞めていくつもりかしら」


綾は、亜空間シェルターのコンソールに映し出された都の汚染状況(情報的な意味で)を示すマップを見ながら、苦々しげに呟いた。




父・為時も、これらの不穏な動きには気づいていたが、確たる証拠を掴むことができず、手をこまねいている状態だった。アルビオンの者たちは、決して自分たちの尻尾を掴ませないように、慎重に行動している。


「一体、誰がこのような噂を流しているのだ……。そして、この経済の混乱は、本当にアルビオンの仕業なのか……?」


為時の苦悩は深まるばかりだった。




そんな中、綾の身近なところにも、アルビオンの影が忍び寄ろうとしていた。


橘香子の父である左大臣が、アルビオンの使節から「特別な贈り物」として、美しいガラス細工の置物を受け取ったというのだ。それは、一見するとただの美術品だったが、フィラの分析によれば、その内部には微弱な盗聴機能が仕込まれていた。


《マスター、このままでは左大臣家の情報がアルビオン側に筒抜けになる可能性があります》


「……許せないわ。人の善意を利用するなんて」


綾の瞳に、怒りの色が宿る。




アルビオンの悪巧みは、まるで蜘蛛の巣のように、都の隅々にまで張り巡らされようとしていた。


経済的な支配、情報操作による人心の攪乱、そして権力中枢へのスパイ活動。


彼らの計画は、今のところ順調に進んでいるように見えた。都の人々は、気づかぬうちに異邦の国の掌の上で踊らされ、国の屋台骨は静かに、しかし確実に蝕まれつつあった。




「橘、アルビオンに協力している商人たちの不正の証拠を徹底的に集めて。それから、都に流れている悪質な噂の出所も特定する必要があるわ」


「影詠み」として、綾は橘に指示を出す。


「フィラ、左大臣家のあの置物、私たちが気づいたことを悟られずに無力化する方法はある?」


《はい、マスター。指向性の高出力電磁パルスを用いれば、外部から内部回路を破壊することが可能です。ただし、タイミングと位置調整が非常に重要になります》




状況は、刻一刻と悪化している。


綾は、この巧妙に仕掛けられた「見えざる侵略」に対し、いかに対抗していくのか。


そして、父や左大臣のような、国の中心にいる人々を、どうすればこの危機から救い出せるのか。


「影詠み」としての真価が問われる戦いが、今まさに始まろうとしていた。



都を覆う黒い雲は、いよいよ嵐を呼ぼうとしていた。そして、その嵐の中心で、小さな影が、静かに、しかし確かな覚悟を持って動き出す――。

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