表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第四章 獣牙の咆哮、星影の覚醒 ~綾と晴明、七歳の試練~

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/155

第十四話:獣牙の斥候、再び!~都に潜む影と、橘の暗躍~


朱雀門での激戦から数ヶ月が過ぎ、都に表面的な落ち着きが戻ったかのように見えた頃。

しかし、その水面下では、獣牙の荒野の者たちによる、新たな「侵攻」が静かに始まっていた。隻角の魔将ヴォルフラムは、前回の「斥候戦」の失敗を教訓に、より巧妙で、より狡猾な手段で、この世界の「秘密」を探ろうとしていたのだ。


「……良いか、貴様ら。今回の任務は、戦闘ではない。あくまで『潜入』と『情報収集』だ。あの黒衣の小童……『影詠み』とかいう者の正体と、その力の源。そして、この都に隠された『星の盾』なるものの手がかり。それらを、何としても掴んでくるのだ。決して、派手な騒ぎを起こしてはならぬぞ」

獣牙の荒野の奥深く、ヴォルフラムは新たに編成された斥候部隊の精鋭たちを前に、低い声で厳命を下した。その瞳には、冷徹な計算と、そしてこの世界への尽きない好奇心が宿っている。

斥候部隊のリーダーに任命されたのは、影狼かげろうのフェンリルと呼ばれる、小柄だが極めて俊敏で、気配を消す術に長けた獣人だった。彼らは、ヴォルフラムから与えられた、励起光子の流れを僅かに歪め、姿を周囲の風景に溶け込ませる特殊な「隠れかくれみの」を身に纏い、夜陰に紛れて、再び都へと潜入を開始した。


彼らの動きは、以前のゴルデアやセツナのような破壊的なものではなく、まるで影のように、都の闇に紛れ込み、人々の目と耳を巧みに避けながら、情報を集めていく。

彼らは、都の様々な場所に「印」を残し、そこから微弱な励起光子を放出して、周囲の「気」の流れや、特異なエネルギー反応を探知しようとした。また、時には、物乞いや旅芸人に化けて人々の会話に耳を澄ませ、「影詠み」や「安倍晴明」に関する噂話や目撃情報を収集した。

その活動は、極めて慎重かつ巧妙で、宮廷陰陽寮(仮)の未熟な監視網では、なかなかその尻尾を掴むことができなかった。


しかし、この都には、もう一つの「影」が存在した。

橘と、彼が率いる「影向衆ようごうしゅう」である。

彼らは、綾(影詠み)の指示のもと、都の隅々にまで情報網を張り巡らせ、どんな些細な異変も見逃さなかった。そして、獣牙の斥候たちが都に潜入したその日から、彼らの不審な動きを、即座に察知していたのだ。


「……橘様、例の『西からの客人』、動き始めました。都の数カ所に、奇妙な『印』を残しております。また、市場や寺社周辺で、不審な物乞いや旅芸人が目撃されているとの報告も」

朧月邸の地下、影向衆の秘密の詰所で、弥助が緊張した面持ちで橘に報告する。

「ふむ……。ヴォルフラムめ、今度は力押しではなく、じわじわと内側から探りを入れてくるつもりか。小賢しい手を……」

橘は、腕を組み、静かに目を閉じた。彼の頭の中では、斥候たちの動きと、都の地図が重ね合わされ、彼らの狙いが分析されていく。

「……弥助、小吉、お蝶、そして疾風。お前たちに命ずる。斥候たちの動きを徹底的に監視し、その目的と、彼らが集めている情報を特定せよ。ただし、決して直接的な接触は避け、こちらの存在を悟られてはならぬ。これは、我ら影向衆の、真の『影』としての働きが問われる任務だ」

「「「ははっ!!」」」

黒子たちは、主の命に、決死の覚悟で応えた。


そこから、都の闇を舞台とした、獣牙の斥候と影向衆による、静かなる情報戦と、息詰まるような駆け引きが始まった。

影向衆のメンバーたちは、綾姫様から下賜された「ハイテク装備」を最大限に活用する。

弥助は「千里眼の眼鏡(黒子用・改良版)」で斥候たちの微細な動きを捉え、小吉は「聞き耳頭巾(高性能集音マイク付き)」で彼らの密談を盗聴する。お蝶は「薄絹の鎧(光学迷彩機能試験搭載バージョン)」を身に纏い、まるでカメレオンのように周囲の風景に溶け込みながら斥候を尾行し、疾風は「韋駄天の足袋(超静音ホバー機能付き)」で屋根から屋根へと音もなく飛び移り、斥候たちの逃走経路を予測する。

彼らの動きは、もはや人間離れしており、獣牙の斥候たちも、自分たちが何者かに監視されているという漠然とした気配は感じつつも、その正体を掴むことができない。


そんな中、斥候の一人、鼻の利く犬型の獣人が、都のはずれにある朧月邸の周辺に、極めて微弱ながらも、濃厚な「影詠み」の気配(綾の励起光子の残り香と、橘の結界の気配)を嗅ぎつけた。

「……ここだ! 間違いない! あの黒衣の小童の『巣』は、この屋敷に違いないぞ!」

彼は、仲間たちに合図を送り、慎重に朧月邸への潜入を試みようとした。


しかし、その動きは、既に橘によって完全に予測されていた。

「……ふん、やはりここに来たか。愚かな獣め」

橘は、朧月邸の庭に巧妙に仕掛けられた「対侵入者用・自動迎撃式・足止めトラップ(という名の、大量の粘着性のトリモチと、踏むと大きな音が出るように細工された瓦)」を起動させる。

斥候の獣人は、まんまとその罠にかかり、手足がトリモチでベタベタになり、大きな音を立てて転倒し、あっという間に影向衆の者たちに取り押さえられてしまった。

「な、何だこれは!? い、いつの間に……!?」

捕らえられた獣人は、何が起こったのか理解できず、ただただ呆然とするばかりだった。


「……ふぅ。まずは一体、か。さて、この『お客様』から、ヴォルフラムの狙いを、じっくりと聞かせてもらおうかのぅ」

橘は、捕らえられた獣人を前に、いつもの穏やかな表情の奥に、冷徹な光を宿らせていた。

彼の「影」としての暗躍は、今宵もまた、都の平和を人知れず守っている。


一方、その頃、宮廷陰陽寮(仮)では……。

「晴明様! またしても、都の西で『奇妙な光る印』が発見されたとの報告です! これは、もしや『影詠み』様からの、我々への新たな『メッセージ』なのでは!?」

道満が、興奮した様子で晴明に報告する。

「なに!? 光る印だと!? すぐに現場へ向かうぞ! これこそが、『星の盾』の謎を解く鍵やもしれん!」

晴明は、獣牙の斥候が残した「ただのマーキング」を、またしても壮大な勘違いと共に追いかけ始めるのだった。

(……晴明、そっちは多分、ただの獣のションベン跡だと思うぞ……)

光栄の心労は、今日も今日とて、限界を知らない。


都の影で繰り広げられる、三者三様の思惑と暗躍。

獣牙の斥候たちは、果たして「影詠み」の秘密にたどり着けるのか。

橘と影向衆は、主君の秘密を守り抜き、都の平和を維持できるのか。

そして、晴明は、いつになったら真実に気づくのか(あるいは、気づかないまま新たな奇跡を起こすのか)。

物語は、ますます複雑に絡み合い、そして予測不可能な方向へと進んでいく。

だが、それがまた、この物語の面白さなのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ