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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第四章 獣牙の咆哮、星影の覚醒 ~綾と晴明、七歳の試練~

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第十二話:瓦礫の中の誓い、民衆の希望と為政者の決断


朱雀門を襲った悪夢のような戦いから数日が過ぎた。都の南半分は、まるで巨大な獣に蹂躙されたかのような痛ましい傷跡をそこかしこに残していた。倒壊した家屋、焼け焦げた柱、そして、いまだに微かに漂う異形の者たちの不快な残り香。それは、平和な日常がいかに脆く、そして容易く奪われるかを、都の人々にまざまざと見せつけていた。


しかし、人々はただ絶望に打ちひしがれているだけではなかった。瓦礫の中から、逞しく立ち上がろうとする生命の息吹があった。男たちは懸命に瓦礫を運び出し、女たちは炊き出しの準備に奔走し、子供たちは、その小さな手で、壊れた家財道具を片付ける手伝いをしていた。その瞳には、恐怖の色は残しつつも、決して消えることのない、未来への光が宿っている。

時折、瓦礫の山の上で、棒きれを刀代わりに「影詠み様、参上!」と叫ぶ子供や、「いでよ、我が式神!」と、どこかの天才少年を真似る子供たちの姿が見られた。その無邪気な姿は、大人たちの疲弊した心に、ほんの少しの笑みと、そして「この子たちのために、何としてもこの都を再建せねば」という強い意志を呼び起こさせた。


綾は、お忍びで、侍女のふりをしてその惨状を目の当たりにしていた。胸が締め付けられるような光景だった。しかし、それ以上に、人々のその逞しさに、彼女は心を打たれていた。

(……これが、人の強さ……。どんな絶望の中にあっても、決して希望を捨てない、その心の力……)

綾は、改めてこの都を、この人々を、自分の全てを懸けて守り抜かねばならないと、固く誓った。だが同時に、あのヴォルフラムという指揮官の圧倒的な力、そして獣牙の荒野の底知れぬ脅威を思うと、自分の今の力が、あまりにも非力に感じられてならなかった。

(もっと……もっと強くならなければ……!)


宮中では、連日、為政者たちによる緊急の会議が開かれていた。

藤原為時は、やつれた顔に深い隈を作りながらも、帝の前で、今回の被害状況と、獣牙の荒野からもたらされた明確な「侵略の意志」について、声を震わせながら奏上していた。

「……陛下。もはや、これは単なる怪異現象ではございません。我らの知らぬ異界より、明確な敵意をもって、この国を脅かす者どもが現れたのでございます。このままでは、都の、いや、この日ノ本の行く末さえも……!」

他の公卿たちもまた、顔面蒼白となり、あるいは「これは、何かの天罰ではないか……」と、現実から目を背けようとする者さえいた。


しかし、為時の、そして共に帝に強く働きかけた左大臣の悲痛な訴えは、ついに帝の心を動かした。

「……分かった。これより、宮中に『宮廷陰陽寮きゅうていおんみょうりょう』を正式に設立し、都の守護と怪異対策の全権を委ねる。そして、その長には……安倍晴明を任ずる!」

帝の決断は、会議室に新たな衝撃を走らせた。

「な……安倍晴明と申されますと……あの、まだ元服も済ませておらぬわらべを……!?」

古参の貴族たちからは、驚きと、そしてあからさまな不満の声が上がる。

「藤原卿のご推薦とはいえ、あまりにも若輩すぎるのではないか!」

「そもそも、あの者の『術』など、本当に信頼できるのか……?」

しかし、帝の意志は固かった。

ちんは、あの朱雀門での晴明の働きを、そして民が彼に寄せる期待を、確かにこの目と耳で確かめた。若さ故の未熟さはあろう。だが、それ以上に、あの者には、この国難を乗り越えるための『何か』があるように思えるのだ。……異論は許さぬ」

帝の、その静かな、しかし絶対的な言葉の前に、もはや誰も反論することはできなかった。


その頃、亜空間シェルターの制御室では、綾とフィラが、朱雀門での戦闘データを徹底的に分析していた。

スクリーンには、ヴォルフラムの冷徹な表情、ゴルデアの圧倒的なパワー、そしてセツナの俊敏な動きが、何度も繰り返し再生されている。

「……ヴォルフラムの戦術は、冷静かつ合理的。そして、彼は明らかに、私たちの力を試していたわ。ゴルデアやセツナは、おそらく彼の『駒』の一つに過ぎない。その背後には、もっと多くの、そして強力な戦力が控えているはずよ」

綾の分析は、的確だった。

《はい、マスター。彼らのエネルギーパターンを解析した結果、彼らは励起光子を、我々とは異なる方法で、より直接的に『身体能力の強化』や『特殊な攻撃』に転用している可能性が高いです。特に、ヴォルフラムからは、極めて高密度かつ安定した励起光子の放射が観測されました。彼は、このエネルギーを自在に操る術を持っているのかもしれません》


「気の刃の出力では、ゴルデアの硬い毛皮を完全に断ち切ることはできなかった……。もっと、瞬間的な破壊力を高める必要があるわね」

綾は、シェルターの物質創造ラボへと向かった。彼女の頭の中には、既にいくつかのアイデアが浮かんでいる。より励起光子のエネルギー伝導率が高い新素材の開発、刃の形状の最適化、そして、エネルギーを一点に集中させ、爆発的な威力を生み出すための新たな機構……。

それは、太古の記憶にある「プラズマブレード」や「フォースフィールド」の理論を、この世界の励起光子技術で再現しようという、壮大な試みでもあった。


同時に、綾は「広範囲への影響力を持つ術」の必要性も感じていた。

「一体多数の状況では、個別の敵を倒しているだけでは追いつかない。もっとこう、戦場全体を覆うような、広範囲の浄化フィールドとか、あるいは、敵の動きを一時的にでも封じ込めるような……」

フィラと共に、彼女は様々なシミュレーションを繰り返す。しかし、それは同時に、膨大なエネルギー消費と、制御の難しさという壁に直面することを意味していた。


それでも、綾は開発を諦めなかった。

「ぱっと見陰陽術」の見た目の「それっぽさ」も、彼女にとっては重要な要素だ。

「フィラ、この新しい『対怪異用・閃光鎮圧式符』、もう少し発光パターンを派手にして、ついでに『急急如律令!』って唱えたら、なんかこう、後光が差すみたいなエフェクトとか追加できないかしら?」

《……マスター、承知いたしました。ホログラム投影によるオーラエフェクト及び、効果音の追加ですね。……ただ、あまり派手にしすぎると、バッテリーの消耗が激しくなりますが……》

「そこは、なんとか頑張ってちょうだい! やはり、見た目のインパクトも大事なのよ、こういうのは!」

綾の、妙なこだわりは、こんな時でも健在だった。


都では、復興への槌音つちおとが響き始め、人々は瓦礫の中から、新たな生活を築き上げようとしていた。その胸には、「影詠み」と「安倍晴明」という二つの希望の光を灯しながら。

そして、その光を絶やさぬため、一人の姫君は、人知れず、その小さな手で未来を切り開こうと、今日もまた、新たな「力」を求め続ける。

その努力が、やがて大きな奇跡を生むことを信じて――。

だが、その道のりは、まだ遠く、そして険しい。

為政者たちの決断は下された。しかし、本当の戦いは、これから始まるのだ。

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