第五話:黒子たちの死闘奮闘(と心の叫び)~姫様(影詠み様)のためならエンヤコラ!~
朱雀門での激戦の最中、民衆の避難誘導と雑魚怪異の掃討に奔走していた影向衆の面々。彼らは、主君である影詠み様(その正体が愛すべき綾姫様であることは、トップシークレット中のトップシークレット)の危機を察知し、一部の精鋭が朱雀門へと駆けつけたが、残りのメンバーは依然として都の各所で、それぞれの「死闘(?)」を繰り広げていた。
「おい、弥助! 北の長屋通り、まだ逃げ遅れた子供たちがいるらしいぞ! 急げ!」
小吉が、額の汗を拭いもせず、息を切らしながら弥助に叫ぶ。彼の右腕には、獣型の怪異に引っ掻かれた生々しい傷跡があったが、そんなものはお構いなしだ。
「分かってるって! こっちの『ぬらりひょん(のような何か)』を片付けたら、すぐに向かう!」
弥助は、綾姫様から下賜された「薄絹の鎧」のおかげで無傷だったが、目の前の、ぬるぬるとした粘液を撒き散らす不定形の怪異に、少々てこずっていた。
(くそっ! このヌルヌル、気持ち悪い上に、掴みどころがねえ! だが、影詠み様……いや、綾姫様が、もっとヤバい奴らと戦っておられるんだ! 俺たちがここでへこたれるわけにはいかねえ!)
弥助は、心の中でそう叫び、懐から取り出した「清めの塩(ただの粗塩だが、影詠み様が『効くかもしれない』と仰っていたので、きっと霊験あらたかなはず!)」を、怪異に向かって勢いよく投げつけた!
「くらえ! 影詠み様直伝(嘘)、破邪顕正・塩まきアタック!」
塩は、怪異の粘液にパチパチと音を立てて弾かれたが、なぜか怪異は一瞬動きを止め、そして「うげぇ」というような不快な音を発して、スルスルと路地の奥へと後退していった。
(……効いた!? マジか!? さすがは姫様のお言葉だぜ!)
弥助は、自分の適当な攻撃が(おそらく偶然)効果を発揮したことに、感動すら覚えていた。
一方、情報収集を得意とするお蝶は、「千里眼の眼鏡」を駆使し、屋根の上から怪異の動きと、逃げ遅れた人々の位置を正確に把握し、仲間に指示を飛ばしていた。
「……東の辻、老婆一人、足が不自由な模様! 誰か援護を! ……南の市場、子供が二人、蔵の中に隠れています! 火の手が近い、急いで!」
彼女の的確な指示は、多くの人命を救うことに繋がっていた。
(……この眼鏡、本当にすごいわ……。まるで、影詠み様が、いつも私たちを見守ってくださっているみたい……。ああ、影詠み様……いえ、綾姫様……! このお蝶、必ずや姫様のお役に立ってみせますわ!)
お蝶は、眼鏡越しに見える(かもしれない)綾姫様の尊いお姿を胸に、涙ぐみながら任務を続行する。
そして、韋駄天の疾風は、「韋駄天の足袋(パワード足袋)」の跳躍力を最大限に活かし、建物の間を飛び回り、孤立した人々を背負って安全な場所へと避難させていた。
「うおおおお! どけ、雑魚ども! 俺様は、綾姫様(影詠み様)の一番弟子(自称)、韋駄天の疾風だあぁぁっ!」
彼は、時折、意味不明な自己紹介を叫びながら、怪異の群れを文字通り「飛び越えて」いく。その姿は、もはや人間離れしており、一部の町衆からは「あれも影詠み様のお仲間か!? 鳥人間だ!」と、新たな誤解を生んでいた。
(……この足袋、最高だぜ! まるで、姫様の優しいお手が、俺の背中を押してくれているようだ……! この力、姫様のためだけに使うと誓うぜ!)
疾風の忠誠心は、もはや暴走特急と化していた。
しかし、全ての黒子が、常にカッコよく活躍できていたわけではない。
小柄な豆蔵は、下賜された「仕込み簪(麻酔針付き)」を、いざという時のためにと懐に忍ばせていたが、逃げ惑う人々とぶつかった際に、うっかりその簪を自分の尻に刺してしまい、戦闘の真っ最中に「……あれ? なんだか、とっても眠いような……。お花畑が……見え……る……zzz」と、幸せそうな顔で白昼夢の世界へと旅立ってしまった。
(……豆蔵の奴、またやったのか……。まあ、ある意味、一番安全な場所に避難できたと言えなくもないが……)
近くで戦っていた仲間は、深いため息をついた。
声の大きい雷太は、以前「言霊の護符(高周波発生装置)」で仲間を戦闘不能にしてしまった反省から、今回は「物理攻撃」に徹していた。
「影詠み様(綾姫様)より賜りし、この『破邪の棍棒(ただの頑丈な木の棒だが、橘様が『姫様がお選びになったものだ』と言っていたので、きっと霊力が宿っているはず!)』で、悪霊退散じゃあぁぁ!」
彼は、その棍棒を振り回し、力の弱い雑魚怪異を次々と薙ぎ払っていく。その姿は勇ましかったが、時折、勢い余って仲間の頭をかすめたり、避難所の壁を破壊したりと、少々お騒がせな活躍ぶりだった。
(……雷太の奴、もう少し周りを見てくれ……。姫様に叱られるぞ……)
橘は、遠くからその様子を報告で聞き、頭痛を覚えていた。
そして、これらの影向衆の死闘奮闘(と珍騒動)の様子は、フィラを通じて、一部始終、綾の元へと届けられていた。
《マスター……影向衆の皆様、獅子奮迅のご活躍です。特に、弥助様の「塩まきアタック」は、意外な効果を発揮し、現在、シェルターのデータベースに「対不定形怪異用・物理的嫌悪刺激戦術」として記録されました》
「……そ、そう。弥助、やったわね……(棒読み)」
綾は、自分の適当なアドバイスが、まさかそんな形で評価されるとは夢にも思わず、もはや乾いた笑いを浮かべるしかなかった。
(……でも、みんな、本当に頑張ってくれているわ。私が、しっかりしないと……!)
綾は、仲間たちの健気な(そして時々コミカルな)奮闘に勇気づけられ、改めて気を引き締めるのだった。
影向衆のメンバーたちは、それぞれの持ち場で、それぞれの方法で、必死に戦い続けていた。
その胸には、敬愛する影詠み様(綾姫様)への絶対的な忠誠心と、そして「姫様のためなら、どんな困難も乗り越えてみせる!」という、熱い(そしてちょっぴりズレた)想いが燃え盛っている。
彼らの活躍は、決して華々しいものではないかもしれない。しかし、その一つ一つの小さな行動が、確実に都の被害を食い止め、そして綾の戦いを支える、かけがえのない力となっているのだ。
ただし、その過程で、いくつかの珍プレー好プレーが生まれてしまうのは、もはや彼らの「お約束」なのかもしれないが……。
影の衆の、愛と涙と時々爆笑の戦いは続く!
彼らの忠誠心が、やがて大きな奇跡を呼ぶ……かもしれないし、呼ばないかもしれない!
だが、それでこそ影向衆! がんばれ、黒子たち! 負けるな、黒子たち!
(そして、どうかこれ以上、姫様の胃を痛めつけないで……!)
「お読みいただきありがとうございます。〜かぐや〜の感想や裏話、時には登場人物たちの本音が聞ける『活動報告』を、各話の終わりに高確率で掲載しております。ぜひ、チェックしてみてください!」