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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
第四章 獣牙の咆哮、星影の覚醒 ~綾と晴明、七歳の試練~

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第二話:朱雀門の攻防、影の舞と星詠みの咆哮、そして赤き爪の襲来!


朱雀大路の上空に開いた、禍々しい「門」。

そこからまず溢れ出してきたのは、明確な意思を持たず、ただ本能のままに破壊と捕食を繰り返す、おぞましい姿の「怪異」の群れだった。それらは、かつて獣牙の荒野の獣だったものの成れの果てか、あるいは異世界の「歪み」が生み出した純粋な悪意の塊か。その姿は様々で、ぬるりとした触手を伸ばすもの、鋭い牙で噛みつこうとするもの、不気味な鳴き声で精神を蝕もうとするものなどが、無秩序に地上へと降り注ぎ、都の人々を恐怖のどん底へと突き落とした。


「きゃああああっ!」

「化け物だ! 逃げろーっ!」

朱雀大路周辺は、一瞬にしてパニックに包まれる。


「橘! 影向衆ようごうしゅうは、民の避難誘導を最優先! 検非違使庁や、腕に覚えのある者たちと連携し、これらの雑魚怪異の掃討に当たって! ただし、深追いは禁物よ!」

朱雀門の楼閣の屋根に舞い降りた「影詠み」こと綾は、冷静に指示を飛ばす。

「「「はっ!!」」」

物陰や建物の屋根から、黒装束の影向衆たちが現れ、綾が開発した「ハイテク装備」を駆使し、逃げ惑う人々を安全な場所へと誘導しつつ、比較的力の弱い怪異を的確に処理していく。彼らの動きは迅速かつ効率的で、訓練の成果を遺憾なく発揮していた。

都の衛兵たちや、自警団のように立ち上がった町衆の中の腕利きたちも、影向衆の指示と連携のもと、必死で怪異の群れに立ち向かう。


しかし、その混乱の中、空の「門」から、明らかに格の違う存在が、ゆっくりと地上へと降り立った。

一体は、熊のように巨大な体躯に、鋼のような毛皮を纏い、その両腕には血に濡れたような巨大な戦斧を握る、まさに「破壊者」といった風貌の獣人。

そしてもう一体は、その巨漢の獣人とは対照的に、しなやかで、どこか猫を思わせるような軽やかな動きを見せる、赤い毛並みを持つ女型の獣人だった。その手には、鋭く研ぎ澄まされた三本の鉤爪かぎづめが、不気味な輝きを放っている。彼女こそ、獣牙の荒野でも名の知れた「赤き爪の猟姫りょうき」の異名を持つ、残忍にして狡猾な戦士、セツナだった。

彼女たちは、先ほどまでの雑魚怪異とは明らかに異なる、明確な知性と、そして圧倒的な「力」のオーラを放っていた。


「……雑魚どもは、あちらのネズミたちに任せておけばよかろう。我らの狙いは、この世界の『核』となる力を持つ者……あるいは、この世界の『歪み』そのものよ」

セツナは、周囲の混乱を冷ややかに見下ろし、低い声で呟いた。その瞳は、獲物を定める肉食獣のように、鋭く光っている。


「――お前たちの好きにはさせないわ」

その時、セツナたちの前に、黒衣の影が立ちはだかった。綾である。

「ほう……。なかなか面白い気配を纏った小童こわっぱではないか。お前が、この世界の『抵抗勢力』とやらか?」

セツナは、綾の姿を値踏みするように見つめ、面白そうに唇の端を吊り上げた。


「問答無用!」

綾の返事を待たず、巨漢の獣人――名をゴルデアという――が、雄叫びと共に戦斧を振り上げ、綾へと襲いかかってきた! その一撃は、大地を揺るがすほどの凄まじい威力だ。

しかし、綾は冷静だった。

(……パワータイプね。でも、動きが直線的すぎるわ!)

綾は、最小限の動きでゴルデアの戦斧をかわし、すれ違い様に「気の刃」でその脇腹を浅く切り裂いた!

「グオオオッ!?」

ゴルデアは、予想外の反撃に驚き、たたらを踏む。


「なかなかやるではないか、小童。だが、ゴルデアは我らの中でも一番の力自慢。小手先の技で倒せると思うなよ?」

セツナは、嘲るように言ったが、その瞳の奥には油断はない。彼女は、綾の動きの中に、尋常ではない「何か」を感じ取っていた。


そこへ――。

「――そこまでだ、異形の者どもよ! この都の土を、これ以上踏ませはせぬ!」

安倍晴明率いる「宮廷陰陽局・非公式特務部隊・天狐の眼」が、勇ましく(しかしどこか珍妙に)駆けつけてきた!

「出たな、獣の化生けしょうめ! 我が『星霜の霊墨・改二(悪臭風味)』で清められたる『破魔の矢』の味、とくと味わうがいい!」

晴明は、そう叫ぶと、弓に矢をつがえ、セツナに向かって勢いよく放った!

矢は……セツナの鼻先をかすめ、彼女の後ろの壁に深々と突き刺さった。

「……む、むう……。今日は少々、星の巡りが悪いようだな……」

晴明は、顔を赤くして言い訳をする。


「フン、人間の小童どもが、何をしようというのだ?」

セツナは、晴明たちの姿を鼻で笑った。

しかし、次の瞬間。

「くらえ! 『星光集束・閃熱波(なぜか今日はやけに威力が高い)』!」

「いでよ! 我が式神、『大地の怒りゴーレム(なぜか少しだけ動いているように見える)』!」

「天翔丸! あの女狐の目を狙え!(カラスが、本当にセツナの顔をかすめて飛んでいった!)」


信じられないことに、晴明たちの、およそ実戦的とは思えない攻撃の数々が、なぜかセツナの集中を僅かに乱し、彼女の動きに一瞬の隙を作った!

特に、晴明が悪臭を放つ霊墨で書いた護符は、セツナの鋭敏な嗅覚を刺激し、「な、何だこの不快な臭いは……!?」と、彼女の顔をしかめさせた。


(……今よ!)

綾は、その一瞬の隙を逃さなかった。

「フィラ、敵の動きを予測! カミカゼくん、援護を!」

綾は、セツナに向かって一直線に踏み込み、「気の刃」で連続攻撃を仕掛ける!

「赤き爪の猟姫」セツナもまた、その三本の鉤爪で綾の攻撃を巧みに捌き、鋭い反撃を繰り出す。

黒衣の影と、赤い爪の閃光が、朱雀門の前で激しく交錯する!


一方、巨漢のゴルデアは、晴明たちの奇妙な攻撃に翻弄され、怒りの雄叫びを上げながら、手当たり次第に戦斧を振り回していた。

「おのれ、小賢しい虫けらどもめが! 一匹残らず踏み潰してくれるわ!」

しかし、その攻撃は、どこか的外れで、晴明たちは(主に運良く)それをかわし続けている。


「影詠み」対「赤き爪の猟姫」セツナ。

そして、「星詠みの少年たち」対「破壊者」ゴルデア。

二つの戦いが、朱雀門の前で、同時に火蓋を切った。

都の運命は、そして彼らの運命は、果たして――。



知性ある敵との、本格的な戦いが始まった。

綾と晴明、二人の若き星は、この強敵にどう立ち向かうのか。

そして、まだ姿を現さぬ「リーダー格」の敵の正体とは?

物語は、息もつかせぬ展開へと加速していく!

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