第二話:朱雀門の攻防、影の舞と星詠みの咆哮、そして赤き爪の襲来!
朱雀大路の上空に開いた、禍々しい「門」。
そこからまず溢れ出してきたのは、明確な意思を持たず、ただ本能のままに破壊と捕食を繰り返す、おぞましい姿の「怪異」の群れだった。それらは、かつて獣牙の荒野の獣だったものの成れの果てか、あるいは異世界の「歪み」が生み出した純粋な悪意の塊か。その姿は様々で、ぬるりとした触手を伸ばすもの、鋭い牙で噛みつこうとするもの、不気味な鳴き声で精神を蝕もうとするものなどが、無秩序に地上へと降り注ぎ、都の人々を恐怖のどん底へと突き落とした。
「きゃああああっ!」
「化け物だ! 逃げろーっ!」
朱雀大路周辺は、一瞬にしてパニックに包まれる。
「橘! 影向衆は、民の避難誘導を最優先! 検非違使庁や、腕に覚えのある者たちと連携し、これらの雑魚怪異の掃討に当たって! ただし、深追いは禁物よ!」
朱雀門の楼閣の屋根に舞い降りた「影詠み」こと綾は、冷静に指示を飛ばす。
「「「はっ!!」」」
物陰や建物の屋根から、黒装束の影向衆たちが現れ、綾が開発した「ハイテク装備」を駆使し、逃げ惑う人々を安全な場所へと誘導しつつ、比較的力の弱い怪異を的確に処理していく。彼らの動きは迅速かつ効率的で、訓練の成果を遺憾なく発揮していた。
都の衛兵たちや、自警団のように立ち上がった町衆の中の腕利きたちも、影向衆の指示と連携のもと、必死で怪異の群れに立ち向かう。
しかし、その混乱の中、空の「門」から、明らかに格の違う存在が、ゆっくりと地上へと降り立った。
一体は、熊のように巨大な体躯に、鋼のような毛皮を纏い、その両腕には血に濡れたような巨大な戦斧を握る、まさに「破壊者」といった風貌の獣人。
そしてもう一体は、その巨漢の獣人とは対照的に、しなやかで、どこか猫を思わせるような軽やかな動きを見せる、赤い毛並みを持つ女型の獣人だった。その手には、鋭く研ぎ澄まされた三本の鉤爪が、不気味な輝きを放っている。彼女こそ、獣牙の荒野でも名の知れた「赤き爪の猟姫」の異名を持つ、残忍にして狡猾な戦士、セツナだった。
彼女たちは、先ほどまでの雑魚怪異とは明らかに異なる、明確な知性と、そして圧倒的な「力」のオーラを放っていた。
「……雑魚どもは、あちらのネズミたちに任せておけばよかろう。我らの狙いは、この世界の『核』となる力を持つ者……あるいは、この世界の『歪み』そのものよ」
セツナは、周囲の混乱を冷ややかに見下ろし、低い声で呟いた。その瞳は、獲物を定める肉食獣のように、鋭く光っている。
「――お前たちの好きにはさせないわ」
その時、セツナたちの前に、黒衣の影が立ちはだかった。綾である。
「ほう……。なかなか面白い気配を纏った小童ではないか。お前が、この世界の『抵抗勢力』とやらか?」
セツナは、綾の姿を値踏みするように見つめ、面白そうに唇の端を吊り上げた。
「問答無用!」
綾の返事を待たず、巨漢の獣人――名をゴルデアという――が、雄叫びと共に戦斧を振り上げ、綾へと襲いかかってきた! その一撃は、大地を揺るがすほどの凄まじい威力だ。
しかし、綾は冷静だった。
(……パワータイプね。でも、動きが直線的すぎるわ!)
綾は、最小限の動きでゴルデアの戦斧をかわし、すれ違い様に「気の刃」でその脇腹を浅く切り裂いた!
「グオオオッ!?」
ゴルデアは、予想外の反撃に驚き、たたらを踏む。
「なかなかやるではないか、小童。だが、ゴルデアは我らの中でも一番の力自慢。小手先の技で倒せると思うなよ?」
セツナは、嘲るように言ったが、その瞳の奥には油断はない。彼女は、綾の動きの中に、尋常ではない「何か」を感じ取っていた。
そこへ――。
「――そこまでだ、異形の者どもよ! この都の土を、これ以上踏ませはせぬ!」
安倍晴明率いる「宮廷陰陽局・非公式特務部隊・天狐の眼」が、勇ましく(しかしどこか珍妙に)駆けつけてきた!
「出たな、獣の化生め! 我が『星霜の霊墨・改二(悪臭風味)』で清められたる『破魔の矢』の味、とくと味わうがいい!」
晴明は、そう叫ぶと、弓に矢をつがえ、セツナに向かって勢いよく放った!
矢は……セツナの鼻先をかすめ、彼女の後ろの壁に深々と突き刺さった。
「……む、むう……。今日は少々、星の巡りが悪いようだな……」
晴明は、顔を赤くして言い訳をする。
「フン、人間の小童どもが、何をしようというのだ?」
セツナは、晴明たちの姿を鼻で笑った。
しかし、次の瞬間。
「くらえ! 『星光集束・閃熱波(なぜか今日はやけに威力が高い)』!」
「いでよ! 我が式神、『大地の怒りゴーレム(なぜか少しだけ動いているように見える)』!」
「天翔丸! あの女狐の目を狙え!(カラスが、本当にセツナの顔をかすめて飛んでいった!)」
信じられないことに、晴明たちの、およそ実戦的とは思えない攻撃の数々が、なぜかセツナの集中を僅かに乱し、彼女の動きに一瞬の隙を作った!
特に、晴明が悪臭を放つ霊墨で書いた護符は、セツナの鋭敏な嗅覚を刺激し、「な、何だこの不快な臭いは……!?」と、彼女の顔をしかめさせた。
(……今よ!)
綾は、その一瞬の隙を逃さなかった。
「フィラ、敵の動きを予測! カミカゼくん、援護を!」
綾は、セツナに向かって一直線に踏み込み、「気の刃」で連続攻撃を仕掛ける!
「赤き爪の猟姫」セツナもまた、その三本の鉤爪で綾の攻撃を巧みに捌き、鋭い反撃を繰り出す。
黒衣の影と、赤い爪の閃光が、朱雀門の前で激しく交錯する!
一方、巨漢のゴルデアは、晴明たちの奇妙な攻撃に翻弄され、怒りの雄叫びを上げながら、手当たり次第に戦斧を振り回していた。
「おのれ、小賢しい虫けらどもめが! 一匹残らず踏み潰してくれるわ!」
しかし、その攻撃は、どこか的外れで、晴明たちは(主に運良く)それをかわし続けている。
「影詠み」対「赤き爪の猟姫」セツナ。
そして、「星詠みの少年たち」対「破壊者」ゴルデア。
二つの戦いが、朱雀門の前で、同時に火蓋を切った。
都の運命は、そして彼らの運命は、果たして――。
知性ある敵との、本格的な戦いが始まった。
綾と晴明、二人の若き星は、この強敵にどう立ち向かうのか。
そして、まだ姿を現さぬ「リーダー格」の敵の正体とは?
物語は、息もつかせぬ展開へと加速していく!




