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陰陽前夜(おんみょうぜんや) ~綾と失われた超文明~  作者: 輝夜
幕間:励起光子の囁きと二年の猶予 ~綾の鍛錬、晴明の探求~

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其の十八:誕生!宮廷陰陽局(仮)~若き天才と古参の壁、そして予算はどこだ!?~


都を襲った未曾有の怪異騒動と、その後の「影詠み様」及び「若き天才・安倍晴明」の(とされる)活躍は、宮中の権力者たちの意識を大きく変えるきっかけとなった。

特に、藤原為時は、娘婿である左大臣と共に、この得体の知れない脅威に対抗するための、専門的な組織の必要性を強く訴え続けていた。

「もはや、従来の祈祷や祭祀だけでは、この国の安寧は守れぬ! 我々は、古の知恵に学び、星を読み、気を操り、そして『怪異』そのものを研究する機関を設立すべきである!」


その熱意と、そして何よりも「背に腹は代えられない」という切羽詰まった状況が、頑なだった古参の貴族たちの心をも動かし、ついに、宮中に新たな部署が設立される運びとなった。

その名は、「宮廷陰陽局きゅうていおんみょうきょく」(仮称。正式名称は、まだ揉めに揉めているらしい)。

その主な任務は、天文観測、暦の作成、そして何よりも、都で頻発する怪異現象の調査と対策、ということになった。


そして、この新設された「宮廷陰陽局」の若き星として、白羽の矢が立ったのが、もちろん安倍晴明だった。

まだ元服も済ませていない少年ではあったが、その類稀なる才能の噂は、既に宮中にも轟いており、為時たちの強い推薦もあって、異例の抜擢となったのだ。

「……安倍晴明、本日より、宮廷陰陽局の『天文得業生てんもんとくぎょうしょう』を拝命つかまつった! この身、未熟なれど、必ずや都の安寧に貢献してみせる所存!」

初めて袖を通す、少し大きめの官服姿の晴明は、緊張と興奮で顔を紅潮させながら、父・益材と、そしてなぜか付き添いで来ていた賀茂光栄の前で、高らかに宣言した。

(……得業生って、まあ、見習いみたいなもんだけどな。それにしても、あいつ、本当に役人になっちまったのか……。これから、ますます面倒なことになりそうだぜ)

光栄は、親友の晴れ姿を喜びつつも、一抹の不安を禁じ得なかった。


晴明の「宮廷陰陽局」での日々は、しかし、決して順風満帆なものではなかった。

まず、立ちはだかったのが、古参の役人たちからの、あからさまな嫉妬と反発だった。

「ふん、いくら神童と持て囃されても、所詮は口の黄色いわらべではないか。そんな若造に、何ができるというのだ」

「我々が長年培ってきた天文暦学の伝統を、なんだかよく分からん『新・陰陽道』とやらで汚されてはたまらんわい」

彼らは、晴明の斬新な(そして時々、あまりにも突飛な)理論や提案をことごとく否定し、何かと足を引っ張ろうとした。


そして、もう一つの大きな問題が、「予算不足」だった。

新設されたばかりの陰陽局には、十分な予算が割り当てられず、まともな観測器具や、研究に必要な書物を購入することさえままならない。

「むう……! 我が『対怪異用霊的フィールドジェネレーター(ただの大きな磁石と銅線を組み合わせたもの)』の開発には、もっと純度の高い銅線と、巨大な水晶が必要なのだが……これでは、いつまで経っても試作品すら完成できぬではないか!」

晴明は、割り当てられた薄暗く狭い執務室で、頭を抱えていた。


しかし、晴明は決して諦めなかった。

古参の役人たちの嫌味には柳に風と受け流し(時には、彼らの専門分野の知識で論破して黙らせ)、予算不足は、自らの足で都中を駆け回り、必要な材料(ガラクタ同然のものも多いが)を収集することで補った。

そして何よりも、彼には「星詠み探偵団(仮)」改め、「宮廷陰陽局・非公式特務部隊(自称)」の仲間たちがいた。

光栄をはじめとする彼らは、晴明の無謀な(しかし魅力的な)計画に、文句を言いながらも協力し、時には自分たちの小遣いを出し合って、研究材料を調達したりもした。


「晴明、お前が言ってた『月の光を凝縮するレンズ』ってやつ、うちの蔵に古い大きな硝子玉があったから、持ってきたぞ。これでいいか?」

「おお、光栄! さすがは我が友だ! これさえあれば、我が『月光浄化砲』の完成も間近だ!」

(……月光浄化砲ねぇ。それ、ただの虫眼鏡で紙を燃やすのと同じ原理じゃ……)


そんな彼らの、どこか微笑ましくも真剣な努力は、少しずつではあるが、周囲の見る目を変え始めていた。

特に、為時は、晴明の純粋な情熱と、その斬新な発想に、大きな期待を寄せていた。

(……あの若者ならば、あるいは、この都を覆う『歪み』の正体を突き止め、我々を救う道を切り開いてくれるやもしれん……)


宮廷陰陽局(仮)の前途は、まさに多難。

古参の壁、予算の壁、そして何よりも、これから本格化するであろう「怪異」という未知の脅威。

しかし、若き天才・安倍晴明と、彼を支える仲間たちの瞳には、決して諦めない強い光が宿っていた。

彼らの「なんちゃって」から始まった冒険は、今、国家レベルの「本気」の戦いへと、その舞台を移そうとしているのかもしれない。



そして、その戦いの行方は、この国の未来を、大きく左右することになるのだろう。

(ただし、晴明の「月光浄化砲」が、実際に完成するかどうかは、また別の話である……)

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