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「――ということでですね。トンネルに赴いたところ、こんなものを発見しました」


 現地取材が終わったとの知らせを受け、峰草が再び口縄心霊相談所を訪れたのは二日後の事だった。贄田は不在のため、口縄が一人で応対している。

 どのような話を聞けるのかと期待していた峰草だったが、机の上に置かれたスマートフォンとスピーカーのセットを見て、急激に冷めていく。


「アラームが一定時間に鳴るように設定されていたみたいでして。充電もしっかりされていることから定期的にメンテナンスもされていたのでしょうな。と、贄田くんが言っていました」

「………………そうですか」

「これがトンネル内に響く赤ん坊の声の正体だったのでしょう。がっかりされましたかね」

「ええ……。……これは、記事にできませんね」

「これらに見覚えがあったりなんかは――」

「はい、ありますよ」


 あっさりと、特に悪びれる様子もなく峰草は肯定した。


「見つけられるとは思いませんでした。見つけにくい場所に仕込んでいたので」

「耳がいいもので」

「……本当に、残念です。泣き声を聞いて、それを証言してくれればそれだけでよかったのに。ああ、そうだ。追加でお金を出すので、証言をこちらで用意してもいいですか?それなら記事にできますし。仕方ないんです、記事を書かないといけないので。フィクションが混じっていたって、」

「峰草さん」


 まくし立てるように話す峰草を、口縄が遮った。前髪で隠れていて見えないが、おそらく彼女に視線を向けている口縄は、なにが楽しいのか口角をぐっと上にあげた。


「随分おつかれのようですが、大丈夫ですかね?」

「………………大丈夫ですよ」


 峰草の顔は、二日前と比べて随分とやつれていた。



 贄田が事務所に戻ってきたのは、峰草がすでに帰った後だった。

 オフィスチェアに背中を預け、デスクに足を乗せるという非常に行儀の悪い姿勢をしている口縄から話を聞き、徐々に眉間の皺が深くなっていく。


「それで、そのまま返したのか。追加料金も受け取らず」

「うん」

「やっぱり一人で対応させたのが間違いだった。急に隣の市にある菓子屋の饅頭が食いたいとか馬鹿みたいに言い出したのを聞くんじゃなかった……」


 ぶつぶつと垂れ流される文句を聞き流し、口縄は箱に並んだ饅頭を一つ手に取る。包装紙に包まれたそれを取り出し、口を大きく開けると、一口ですべて飲み込んだ。


「んぐ。……まあ、いいでしょ。下手にお金を受け取ったらまた適当な証言を頼まれちゃうかもよ?うちの評判にも関わるって~」


 二個、三個と続けて食べる口縄に、贄田は小さく舌打ちをした。彼の言う事は確かにその通りだが、手に入れられたかもしれない金も惜しかった。この事務所はさほど儲かっていないのだから。


「ま、過ぎたことは気にしないでさ。また依頼が来るのをのんびり待とうじゃないの」


 口縄はデスクから足を降ろし、オフィスチェアに座ったまま一回転した。

 背もたれがメキッと音を立て、そのまま折れて床に落ちる。ついでに、そこにほぼ全体重を預けていた口縄も背中から落ちる。


「ああー……買い替えは?」

「そんな余裕はない」


 もらえるものは貰っておいた方が良かったかもしれない、と口縄は長年所長椅子として君臨してきたそれを部屋の隅に追いやった。

 







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