一
うまれおちよ うまれおちよ
おまえのうぶごえをまつものがいる
「マジで出んのかな」
夜の山道を一台の車が走っている。
社内には大学生の男が三名。
先ほど発言したのは後部座席に座っている男で、スマートフォンの画面を興味深そうに眺めていた。
画面には『都内最恐心霊スポット、うぶごえトンネル』というタイトルの記事が表示されている。
この記事に載っている場所に肝試しに行こう、という流れになったのは夏休みになり暇を持て余していた時だった。
休み明けの話題作りにもなるだろうと、三人は軽く考えてその山奥のトンネルへと向かっていた。
車のヘッドライトが木々の間を照らし出し、時折動物の影がちらつく。
道が険しくなるにつれ、彼らの会話も次第に少なくなり、全員が薄ら寒さを感じていた。
「……霊感とかないけど、なんか寒気するわ」
「まじ?俺も俺も」
「やべー。心霊写真撮れちゃったりしてな」
空気を変えるために一人が声をあげれば他二人も同調し、少し緊張が緩む。
そうしているうちに、車は目的地付近にたどり着く。途中から道路は封鎖されていて、進入禁止の看板が立っていた。仕方なく車を停め、あまり舗装されていない道をしばらく歩く。
生い茂る木々の向こうに、話題のトンネルがあった。
トンネルは古びていて、入り口は苔むした石で覆われ、長い年月を感じさせる。
「や、やっぱやめとく?」と一人が不安げに尋ねる。
仲間の一人が懐中電灯を手に取り、「怖がるなよ、幽霊なんて実際はいないんだから」と笑いながら言うが、その声にはわずかな震えが混じっている。
彼らは車を後にし、トンネルの入り口へと歩みを進める。
トンネルの中は冷たく湿った空気が充満しており、懐中電灯の光が壁に映るたびに奇妙な影を作り出した。
三人分の足音をトンネル内に反響させながら奥へ奥へと進む。
「何もないな」
「なんだ、全然平気じゃん。ビビッて損したわ」
「もう戻ろうぜ、どっか飲みに――」
――ぁ……あぁ……
三人の足が止まる。
今の声が聞こえたか確認するように互いの顔を見れば、全員に聞こえたらしいことがはっきりわかる表情をしていた。
冷たい汗が背筋を伝い、心臓がどくどくと脈打つ。
振り向いても闇しか見えず、前を照らしても光は吸い込まれるように消えていく。
――……ぁぁ……おぎゃ……あ……ああ……
遠くの方で赤ん坊が泣いているような声がする。
走り出したのは同時だった。
三人は一斉に車が停めてある方向へと駆けていく。
息を切らせながらも辿り着き、我先にと車に乗り込むと運転手は急いでエンジンをかけて車をバックさせる。
少し開けた場所でUターンし、山道を走り出す。
車内には三人の荒い息遣いだけがしばらく響いていたが、助手席の男が深いため息を一度吐いてやっと言葉を発する。
「で、で、出た、マジで出た……!!」
「……はは、は、さ、撮影とかしときゃよかった……」
「ほんとだよ、なんで思いつかなかったんだ」
若干引きつってはいるが、三人は笑顔で先ほどの出来事を笑い話に変えていく。
サークルの奴らにも教えよう、とか、今度他の友達も連れてくるか、など会話を続けていたが、そのうち後部座席に座っているひとりが何も喋らなくなった。
「……おい、どうした?」
助手席の男が後ろを確認する。
後部座席の男は自分の腹を凝視し、青白い顔で歯をがちがちと鳴らしていた。
彼の腹から下を覆うように、ぶよぶよとした赤黒い肉塊が乗ってる。
その肉塊には目を閉じた赤ん坊の顔がひとつ取ってつけたように不自然に在った。体と思わしき部分には短い手が芋虫のように複数生えていた。
口を大きく開き、ぽっかりと空いた闇を見せる。
「おぎゃあ」