八
どうして、と峰草の頭に疑問符が浮かぶ。
どうして、我が子に会えないのだろうか。どうして、我が子は生まれ落ちなったのだろうか。どうして、我が子をこの手に抱けないのだろうか。
ふらふらと向かうのは、我が子を失ったトンネルだった。こんな寂しい場所で死なせてしまった、と涙がこぼれ落ちる。
峰草が放心している間に愛した男は姿を消し、口座には多額の金が振り込まれていた。だが、それを使う気にはなれない。いくら金があろうと、我が子は戻ってこないのだから。
吸い込まれるようにトンネル内に入り、己の足音を不規則に響かせる。
会いたい、あの子に会いたい。彼女にはその想いしかなかった。
――……ぁぁ……
びく、と峰草の体が揺れる。
今のは、子供の泣き声ではないだろうか?そう思った瞬間駆け出していた。泣き声のする、トンネルの奥へ、奥へ。
――……ゃあ……おぎゃぁぁ……
泣き声が近くなる。
子供が、私の子供がいる!
ぼんやりと靄がかかっていたような思考がはっきりとし、虚ろだった瞳に光が差し込む。
そうして辿り着いた、土砂で塞がれたトンネルの果て。そこに、赤黒い肉塊が落ちていた。手のひらほどの大きさしかないそれには口があり、そこから泣き声を発していた。
峰草はそれを拾い上げる。およそ人の形をしていないそれを、彼女は自分の子供だと認識していた。
――……育てなさい
耳元で囁かれた。その声は脳を溶かすようにしみ込んできて、抗いがたいものだった。
「育てる……どうやって……」
――その子を多くの人間に知らしめて……人に憑かせなさい。子どもには食事が必要でしょう?
――その子はまだ弱く、小さい。母親のあなたが強く育てるべきです。約束できますか?
母親。その言葉に峰草は体が震えるほど歓喜した。
「はい、はい。任せてください。私がきっと、この子を立派に育ててみせます。約束します」
空気がわずかに震えた。見えない声の主が嗤ったような、そんな気がした。
――恐れを。その子の糧としなさい




