表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32


 どうして、と峰草の頭に疑問符が浮かぶ。

 どうして、我が子に会えないのだろうか。どうして、我が子は生まれ落ちなったのだろうか。どうして、我が子をこの手に抱けないのだろうか。

 ふらふらと向かうのは、我が子を失ったトンネルだった。こんな寂しい場所で死なせてしまった、と涙がこぼれ落ちる。

 峰草が放心している間に愛した男は姿を消し、口座には多額の金が振り込まれていた。だが、それを使う気にはなれない。いくら金があろうと、我が子は戻ってこないのだから。

 吸い込まれるようにトンネル内に入り、己の足音を不規則に響かせる。

 会いたい、あの子に会いたい。彼女にはその想いしかなかった。



――……ぁぁ……



 びく、と峰草の体が揺れる。

 今のは、子供の泣き声ではないだろうか?そう思った瞬間駆け出していた。泣き声のする、トンネルの奥へ、奥へ。



――……ゃあ……おぎゃぁぁ……



 泣き声が近くなる。

 子供が、私の子供がいる!

 ぼんやりと靄がかかっていたような思考がはっきりとし、虚ろだった瞳に光が差し込む。

 そうして辿り着いた、土砂で塞がれたトンネルの果て。そこに、赤黒い肉塊が落ちていた。手のひらほどの大きさしかないそれには口があり、そこから泣き声を発していた。

 峰草はそれを拾い上げる。およそ人の形をしていないそれを、彼女は自分の子供だと認識していた。



――……育てなさい



 耳元で囁かれた。その声は脳を溶かすようにしみ込んできて、抗いがたいものだった。


「育てる……どうやって……」



――その子を多くの人間に知らしめて……人に憑かせなさい。子どもには食事が必要でしょう?

――その子はまだ弱く、小さい。母親のあなたが強く育てるべきです。約束できますか?



 母親。その言葉に峰草は体が震えるほど歓喜した。


「はい、はい。任せてください。私がきっと、この子を立派に育ててみせます。約束します」


 空気がわずかに震えた。見えない声の主が嗤ったような、そんな気がした。



――恐れを。その子の糧としなさい


 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ