- 遺物 -リライト版
ヴェントの呼吸が荒くなる
焼けるような空気の中で、歯を食いしばる
[ヴェント]……チッ、予定外だが……使うしかねぇな
懐から取り出したのは——
黒く脈打つ遺物
「メリタァ」
まるで生きているかのように、鼓動していた
[クロノ]……まだ奥の手があるのか
[ヴェント]ああ、これはな……
強く握りしめる
——ドクンッ
その瞬間
クロノの周囲から、熱が消えた
冷気も、消えた
“何も起きない”
[クロノ]……?
違和感
能力は発動している
だが——
現象が起きない
[ヴェント]メリタァはな……
ゆっくり顔を上げる
[ヴェント]“能力そのものを封じる”
空気が沈む
[ヴェント]範囲内にいる限り、どんな力も発現しねぇ
[ヴェント]火も、氷も、時間も、全部だ
[クロノ]……なるほど
拳を握る
だが熱は生まれない
[クロノ]完全な封印、ですか
[ヴェント]ああ
[ヴェント]これでてめぇは、ただの人間だ
ヴェントが地面を蹴る
一瞬で間合いを詰める
[クロノ]……っ
背後を取られる
反応はできる
だが——
さっきまでの“理不尽な差”はない
ガギィンッ!!
斧が腕に食い込む
血が飛び散る
[ヴェント]どうしたよ!余裕ねぇじゃねぇか!
[クロノ]……強力ですね
崩れない
その目は、まだ死んでいない
[クロノ]ですが……万能ではない
[ヴェント]あ?
[クロノ]その遺物
[クロノ]“範囲内”と言いましたね
ヴェントの表情が僅かに歪む
[クロノ]そして発動中——
[クロノ]あなた自身も能力が使えない
[クロノ]そうですね?
[ヴェント]……チッ
図星だった
[クロノ]つまりこれは
[クロノ]“条件付きの対等化”
クロノの目に、戦意が宿る
[クロノ]いいでしょう
[クロノ]ならば——
[クロノ]純粋な戦闘で、勝負です
地面を踏み抜く
今度はクロノが踏み込む
拳と斧が
真正面から激突する——
――時は戻る
[クロスファイア]遥か昔
[クロスファイア]この世界には、“神”と呼ばれた男がいた
[クロスファイア]その名は、クロノ・ブランド
[クロスファイア]あいつは人間でありながら、理を超越していた
[クロスファイア]熱も、時間も、空間も
[クロスファイア]全部だ
[クロスファイア]誰も勝てなかった
場の空気が重くなる
[クロスファイア]だから人は、“禁忌”に手を出した
[クロスファイア]神を殺すための遺物
[テオス]……それが
[クロスファイア]ああ
[クロスファイア]メリタァだ
雨音だけが響く
[クロスファイア]メリタァはな
[クロスファイア]“能力そのものを封じる”
[クロスファイア]どんな力でも関係ねぇ
[クロスファイア]発現する前に潰す
[テオス]……そんな物が
[クロスファイア]ある
だが——
[クロスファイア]代償がある
[テオス]代償?
[クロスファイア]世界の均衡を無理やり歪める力だ
[クロスファイア]だから使用者にも牙を剥く
[クロスファイア]身体は壊れる
[クロスファイア]それだけじゃねぇ
一瞬の間
[クロスファイア]“存在そのもの”が削られていく
[テオス]……っ
[クロスファイア]それにもう一つ
[クロスファイア]あれは普通の人間には扱えない
[クロスファイア]必要なのは——
[クロスファイア]強い執念
[クロスファイア]あるいは、“殺意”だ
テオスは目を閉じる
[クロスファイア]理由は分かる
[クロスファイア]シャルファットを殺すためだろ
沈黙
それが答えだった
[クロスファイア]忠告しておく
[クロスファイア]メリタァを手にした時点で——
[クロスファイア]もう元には戻れない
嵐が窓を叩く
現在
[マロ]……テオスさん
[テオス]何でしょう
[マロ]一つ聞いてもいいですか
間を置く
[マロ]あなたは今もメリタァを探している
[マロ]そうですね?
ルイカが顔を上げる
[ルイカ]……え?
テオスの動きが止まる
[テオス]……誰からその話を
[マロ]ハル・クロスファイアです
[マロ]あなたと接触していたと聞きました
空気が張り詰める
[マロ]その様子だと、事実ですね
ルイカの視線が向く
[ルイカ]……テオス?
テオスは目を伏せる
[テオス]……ああ
[テオス]その通りだ
[ルイカ]どうして……そんな危険なものを…
[テオス]決まっている
ゆっくり顔を上げる
[テオス]シャルファットを、殺すためだ
重い沈黙
[マロ]……そこまで、ですか
[テオス]ああ
[テオス]もう引き返せる場所にはいない
その目には
確かな決意と
消えない執念
[マロ]……現時点で
[マロ]メリタァは手に入れているんですか?
[テオス]……いや
首を振る
[テオス]だが
手を握る
[テオス]“近づいている”感覚はある
[マロ]感覚……
[テオス]ああ
遠くを見る
[テオス]まるで
[テオス]向こうから見ているような……
[ルイカ]それって……大丈夫なの?
一瞬だけ、優しい表情
[テオス]……心配するな
[テオス]私が何とかする
だがその裏にあるものを
マロは見逃さなかった
[マロ]……クロスファイアの話と一致しますね
[マロ]“メリタァの方から見つける”
雷が走る
その瞬間
テオスの影が揺れた
まるで——
“何か”に重なっているかのように




