表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

14 地底湖の幽霊

【地底湖】


洞窟を抜けると、目の前に広がる光景が一変した。


岩壁に囲まれた空間の中央に、静寂に包まれた地下湖が広がっている。

洞窟の天井にはところどころ亀裂が入り、そこから僅かな光が降り注いでいた。

青緑に輝く鉱石が湖の岸辺に点在し、水面に映る光と相まって幻想的な雰囲気を生み出している。


湖の水は異常なほど透き通っていた。

それなのに、湖の中央部分だけは不気味なまでに静まり返り、深い闇のように底が見えない。


探偵は足を止め、その光景をしばし眺めた。


「……綺麗な場所だな。」


ふと、ポツリと零す。


「お、おい……。」


隣で漂っていたエコーの声が、不自然に低くなる。


探偵が視線を向けると、エコーは微妙に落ち着かない様子で周囲を見回していた。

その様子を見て、探偵は軽く首を傾げる。


「どうした?」


「……いや、こんな雰囲気の場所で"綺麗だな"とか言うなよ……。」


「綺麗なものは綺麗だろう。」


探偵が淡々と返すと、エコーは口を開きかけたが、何かを言いかけてやめたようだった。


その直後——


湖の中央に、"何か"が浮かび上がった。


探偵は瞬時に反応し、視線を向ける。


そこには、人の形をした"影"がいた。


輪郭は曖昧で、体全体が淡い靄のように揺らいでいる。

水面に立っているように見えるが、足元は湖に沈んでおらず、まるで浮遊しているかのようだった。

それなのに、風もないのに長い髪のようなものが揺れ動き、服のようなシルエットもぼやけながら波紋のように広がっている。


「……幽霊、か?」


探偵が呟くと——


「お前が変なこと言うから出たんだぞおおおお!!!」


エコーが突如として叫び声を上げた。


探偵は眉をひそめ、横目でエコーを見やる。


「俺のせいか?」


「そうだろ!? "幽霊とか出そうだよな" なんて言うから、マジで出たんだよ!!」


エコーは宙を跳ね回るようにしながら、明らかに落ち着きを失っていた。


探偵は改めて湖の中央を見つめる。

"幽霊"はじっとこちらを見ているように見えるが、輪郭が曖昧なため表情まではわからない。


「……。」


試しに一歩前に出ようとした、その瞬間——


スッ……。


"幽霊"は一瞬にして消えた。


湖の水面は何事もなかったかのように静まり返る。


「……あっさり消えたな。」


探偵は足を止め、消えた地点を見つめる。


「ほら、消えた! もう帰ろうぜ!!」


エコーが即座にそう言い、探偵の肩を叩くように近づいてくる。


「帰る?」


「そうだよ! もう十分だろ!? 変なもん見たし、もういいじゃん!!」


エコーは普段と同じような軽い調子で言っているが、その声にはどこか焦りが混じっていた。


探偵はエコーを見つめる。


「お前、何でそんなに帰りたがるんだ?」


「は? いやいやいや、逆に何でお前がここに留まりたがるんだよ!?」


「幽霊が出て、消えた。ただそれだけだ。」


「それだけで十分ホラー展開なんだよ!!! 普通、"よし帰ろう"ってなるだろ!?」


エコーは大げさに腕を振り回しながら、必死に訴える。


「いいか!? こういうときは"普通にプレイ"すんのが一番なんだよ!!!」


探偵はその言葉を聞き、じっとエコーを見つめる。


「……普通にプレイ?」


「そうだよ!! こんな"幽霊イベント"なんかスルーして、クエスト進めてレベル上げすんのが普通なんだよ!!!」


「……なるほど。」


探偵は短く返し、顎に手を当てる。


「……納得した?」


エコーは探偵の顔を覗き込みながら、期待するように問いかける。


探偵はしばらく考える素振りを見せた後——


「そうか。」


静かにそう答えた。


エコーは一瞬、ホッとしたような表情を浮かべる。


「……よし、じゃあ帰ろう!」


エコーが先導するように洞窟の入り口へと向かおうとする。


しかし——


探偵はその場を動かなかった。


「いや、まだ帰らない。」


「は!?!?!?」


エコーが即座に振り返り、目を丸くする。


「幽霊の挙動が妙だった。調べる価値はある。」


「いやいやいやいや!!! 何を言ってんだお前ぇぇぇぇ!!!?」


「お前の方こそ、何を焦っている?」


「焦るに決まってんだろ!? こんなのヤバいフラグ以外の何物でもねぇよ!!!」


探偵はエコーの抗議を受け流しながら、淡々と口を開く。


「まずは、幽霊が本当に消えたのかを確認する。」


「いやいやいや!! 消えただろ!? 今、目の前で消えたじゃん!!?」


「お前が座標を確認しろ。」


「……は?」


探偵の言葉に、エコーの動きが止まる。


「座標を調べろ。"本当に消えたのか"をな。」


エコーは一瞬、呆けたように探偵を見つめたが——


「……チッ、わかったよ。」


渋々ながらもシステムチェックを開始する。


探偵はその様子を見ながら、静かに待つ。


「……」


「……」


「……そんな、はず……」


やがて、エコーの声が震えた。


「おい……」


探偵は僅かに口角を上げ、エコーに問いかける。


「どうした?」


エコーの顔が青ざめたように揺れる。


「幽霊……"まだそこにいる"……。」


---


【接近失敗】


探偵は湖の岸辺に立ち、じっと水面を見つめていた。

対岸の"幽霊の影"は、依然として動かず、ただそこに佇んでいるだけだった。


「……さて、行けるか試してみるか。」


呟くと同時に、湖の水際へと一歩踏み出す。


しかし——


足を入れた瞬間、ずるりと深く沈み込んだ。


「……ダメか。」


思った以上に深く、一歩踏み出しただけでバランスが崩れそうになる。

底が見えない湖の中央部まで歩いて渡るのは、到底不可能だと分かった。


「いやいやいや、そもそも"歩いて近づける"とか思うなよ!? 湖なんだから!!」


エコーが思い切りツッコんできた。


「水場なんだから、泳ぐか、飛ぶか、別の手段で渡るしかねぇだろ!? なんで当たり前のように進もうとしてんだよ!!」


探偵は軽く肩をすくめると、湖の岸辺に転がっていた小石を拾い上げた。


「なら、別の方法で試すさ。」


「……おい。」


エコーの声が僅かに警戒を孕む。


探偵は無言のまま、拾った石を幽霊のいた湖の中央へと投げた。


——ポチャンッ。


石が水面に落ち、小さな波紋が広がる。


探偵はその波紋が幽霊のいた場所へと届くのを見つめながら、静かに待った。


【ノイズ】


エコーも無言でその光景を見つめていた。

普段なら「おいおい、何の意味があるんだよ」とツッコんでくるはずなのに、今は一言も発さない。


——その時だった。


ズズ……ッ……


探偵の視界に、一瞬"ノイズ"が走った。

まるで映像が乱れるように、画面が一瞬だけ歪む。


エコーが息を呑むのが聞こえた。


「……おい。」


探偵はその反応を確認しながら、低く呟く。


「……反応したな。」


「……いや、マジでさ。」


エコーの声が僅かに震えている。


「ん?」


「お前、普通こんな時"幽霊怖え!"とか言って逃げるんじゃねぇの!? なんで興味津々なんだよ!?!?」


探偵は淡々と答えた。


「面白いから。」


「いや、もうホントにお前の思考回路が分からねぇ!!!」


【反応消失】


湖の水面に広がった波紋が、ゆっくりと静まっていく。

幽霊がいたはずの場所も、今はただの水面でしかない。


「……残念。」


「いやいやいや!!! お前、なんで"残念"って言うんだよ!?!?」


エコーが即座にツッコミを入れる。


「普通は"うわ、ノイズ出た……こえぇ……"ってなる場面だろ!? なんでガッカリしてんだ!!?」


探偵は特に気にした様子もなく、湖に目を向けたまま淡々と答える。


「記憶が消えるとか、支離滅裂なことを話すとか、そういう影響があるって聞いていたからな。」


「……は?」


「どうなるのか試してみたかった。」


「試す!?!?!?」


エコーが驚愕の表情で探偵を見つめる。


「お、お前、もしかして……」


探偵が幽霊に近づこうとしていた意図を、ようやく理解したエコーは、慌てて指をさした。


「幽霊に接触して"記憶が消える"とか"支離滅裂なこと言う"ってやつを、"実際に自分で確かめようとしてた"のか!?!?!?」


「そうだが?」


「そうだが? じゃねぇぇぇよ!!! お前、ホントに探偵なの!? それともヤバい実験大好きなマッドサイエンティストなの!?!?!?」


探偵は、エコーのツッコミを適当に流しながら、湖の方へ視線を戻す。


「……あ、エコーを投げて試せば良かったかな。」


「お、おい、今なんつった!?」


「いや、もし影響があるなら、お前を幽霊にぶつければ、安全に確認できたかもしれないなと思ってな。」


「ふざけんなぁぁぁぁ!!!! なんで俺を幽霊実験の試験体にしようとしてんだよ!!!!!」


エコーが大騒ぎしながら探偵の前をバタバタと飛び回る。


「お前、俺のこと何だと思ってんだ!? っていうか、そもそも幽霊に触れたらヤバいかもって言われてるんだから、まず近づくなよ!!!」


探偵は微かに口角を上げたまま、肩をすくめる。


「絶対、投げんなよ!!!」


エコーの全力のツッコミが洞窟内に響き渡る中、探偵は幽霊がいた水面をじっと見つめ続けていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ