10 レアドロップ
【夜のモンスター狩り:レアドロップ成功】
深い夜の闇が、静かにカルディアの町を包み込んでいた。
空には冷たく輝く二つの月。淡い光が草原を照らし、木々の影を揺らす。
この時間帯、町の外では昼間とは異なるモンスターが活動を始める。
通常よりも凶暴化した個体や、夜限定の強敵が徘徊するため、多くのプレイヤーはこの時間の狩りを避けるのが一般的だった。
だが——探偵は、まるでそれが"当然"であるかのように、夜の闇へと踏み込んでいく。
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茂みの奥から、低く唸る音が聞こえた。
次の瞬間、鋭い眼光を放つ黒い狼が飛び出す。
《スプリガン・ナイト》 Lv.18
闇に溶け込む黒い毛並み。通常の狼よりも一回り大きく、鋭い牙が月光を反射している。
夜のモンスター特有の強化が施されており、防御力が高く、俊敏な動きを持つ。
だが、探偵は一歩も引かない。
狼が低く身を沈め、一気に跳躍するのを見極めると——
《シャドウステップ》発動。
姿が霞み、一瞬で敵の死角へ回り込む。
狼の攻撃が空を切り、その隙を逃さずに短剣を振るう。
《ピンポイント・スラッシュ》——急所狙い。
刃が的確に喉元を捉える。
通常の攻撃なら弾かれる硬い毛皮を、クリティカルヒットが貫いた。
スプリガン・ナイトは低い唸りを上げると、そのまま地に崩れ落ちた。
そして、身体が淡い光となって分解され、虚空へと消えていく。
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その場には、かすかに輝くアイテムが残されていた。
探偵は静かに屈み込み、それを拾い上げる。
——《ブラッドウルフの牙》を獲得!
ATK +10(武器素材として使用可能)
クリティカル率 +20%
属性付与:火属性(炎熱効果付き)
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「おいおい……マジで夜に狩りしやがるのかよ……?」
不意に、エコーが探偵の横に浮かび、半ば呆れたような声を漏らす。
「普通さぁ、"夜はヤバい"って常識だろ!? モンスター強くなるし、視界も悪いし!!」
「そうなのか?」
探偵は特に気にした様子もなく、拾った牙をじっと見つめた。
夜の静寂の中、その紅い輝きがひどく鮮やかに映る。
(……いい素材だな。)
ふと、エコーが探偵の肩の横へと近づき、ちらりとその表情を伺う。
「ほぉ……なるほどな?」
「……何がだ?」
「ちゃんと"考えて"レアドロップ狙いしてたんだな?」
探偵は、一瞬だけ間を置いた後、何でもないように答える。
「たまたま、だ。」
「お前、絶対たまたまじゃねぇだろ!!!!」
エコーが爆発するようにツッコむ。
「さっきまで"火力を上げる方法を探す"って言ってたよな!? それでレアドロ狙って武器作るの、完全に計算してるだろ!!?」
探偵は軽く肩をすくめながら、手にした素材をゆっくりと握り直す。
「まぁ、せっかく拾ったんだ。加工してみるか。」
「……やっぱり、"たまたま"じゃねぇじゃねぇか!!!」
エコーのツッコミが夜の静寂に響く中、探偵はそのまま鍛冶屋へ向かった。
次は、"この牙を使った武器"を手に入れるために——。
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【鍛冶屋での武器作成】
カルディアの鍛冶屋は、夜の静寂の中でも炉の火を絶やさなかった。
鉄を打つ音が響き、赤々と燃える炎が工房内の影を揺らす。
探偵は、まっすぐカウンターへ向かい、懐から《ブラッドウルフの牙》を取り出す。
鋭く紅く光るその牙を、無言で鍛冶職人の前に差し出した。
「この素材を使って、短剣を作ってくれ。」
鍛冶職人は何も言わず、分厚い指でそれを掴むと、炉の奥へと消えていった。
しばらくすると、火花が散る音が鳴り響く。
金属を打つ重い音、炎が唸るような音が、静かな工房に満ちていく。
カウンターの前で待つ間、エコーはふわりと浮かびながら探偵をちらりと見る。
「……お前、やっぱり"武器を強くすること"には興味あるんだな?」
「……さあな。」
「"さあな"じゃねぇよ。さっきまで夜のモンスター狩りして、レアドロ拾って、鍛冶屋に来たんだろ? ちゃんと強くなること考えてんじゃねぇか。」
「……たまたまだ。」
「まだ言うかよ!?」
エコーが勢いよくツッコむ。
その瞬間——工房の奥から鍛冶職人が戻ってきた。
彼の手には、赤黒く輝く短剣が握られている。
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【新しい武器】
《ブラッドウルフ・ダガー》(レア度:★★★★)
ATK +18
クリティカル率 +25%
追加効果:獣種へのダメージ +15%
属性付与:火属性(攻撃時に追加炎熱ダメージ)
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探偵は、無言で短剣を受け取り、軽く振るう。
刃が月明かりを受けて赤黒く光り、薄く炎のエフェクトが揺らめいた。
エコーは、その様子をじっと眺め、ふっと息をつく。
「……まぁ、ちゃんと強くなってんじゃねぇか。」
「そうか?」
「そうだよ!! ……にしても、火属性までついてくるとはな。」
探偵はもう一度短剣を見つめ、すぐに鞘へと収める。
そして、迷うことなく工房を出ようとする。
エコーが慌てて後を追う。
「おいおい、せっかく新しい武器作ったのに、試し切りとかしねぇのか?」
「別にいい。」
「お前、強化すること自体が目的じゃねぇのかよ!!!」
エコーの抗議を聞き流しながら、探偵は黙々と夜の街を歩く。
——そして、向かう先は、さっき敗北したエリアボスのいる場所だった。
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【再戦へ】
カルディアの町の灯りを背に、探偵は暗闇へと進む。
静かな夜道、草の揺れる音、時折響くフクロウの鳴き声。
エコーは浮かびながら、その足取りを見つめ、ぼそりと呟いた。
「……まさか。」
探偵は無言のまま、前を見据えて歩き続ける。
「……お前、作ったばっかの武器持って、もうエリアボス再戦に行く気か!?」
「そうだが?」
「いやいやいやいや!! 普通は"装備を整えてレベル上げてから"リベンジするもんだろ!!!」
探偵は、足を止めることなく淡々と答える。
「強くなったのなら、確かめるだけだ。」
「お前、ホントにネトゲ初心者かよ……」
エコーは呆れたようにため息をつくが、結局探偵の隣を漂い続ける。
「……まぁ、いいぜ。どうせ止めても行くんだろ?」
探偵はそれには答えず、ただ夜道を進む。
こうして、新たな武器を手にした探偵は、エリアボスとの再戦へと向かうのだった。




